「散っていった」仲間たち①-2
「はぁっ!? つまり、世界が平和になると破産するから、魔王アバドは倒していない。そんでもってこれからはアバドに指示をして、手垢のついていない、金払いの良さそうな中規模程度以上の街を襲わせるって……。アンタ、正気!?」
ギルドの中央に設置された円卓のテーブルに、向かい合わせで三人。
家族会議さながらのスタイルに何ともホッコリ……、している場合でないことは、目の前の彼女の様子を見れば明らかだ。
俺の話を聞いたラムラは目を見開いて、どうにも既視感のある言い回しで言う。
「客観的にそう言われると、俺がやろうとしてることってヤベェな……。アバドにも全く同じこと言われたよ!」
「魔王にまで言われてどうすんのよ! ていうか……、正気じゃない方がまだ救いようがあるわよっ!」
「そりゃ確かに……。はは! お前、中々ウマいこと言うな!」
「笑ってる場合じゃないでしょ!」
ラムラはドンと強くテーブルを叩き、心底呆れたように言う。
そうだ。
無意識的に現実逃避しているせいか思わず笑ってしまったが、確かにラムラの言う通り笑ってる場合ではない。
だがそれにしても、ラムラの言い様には少し語弊がある。
「ま、待てっ! 俺は別にマッチポンプ的にそれで直接儲けてやろうってワケじゃなくてだな! ほら! 俺たちがやってるビジネスって、ココのギルドも含めて全部冒険者向けだからな。完全に世界が平和になったら、それはそれで何かと都合が悪いだろ? だから飽くまで間接的に、だ!」
「間接的ならOK! なワケないでしょ!? まぁ確かにアンタの言う通り、こんな辺鄙なところで他のビジネスやっても、人なんて来ないとは思うけどさ……」
「そ、そうだ! だから俺はまだ『勇者』でいなきゃマズいんだよ。ま、まぁそうは言っても、街から直接依頼があれば、対応しないワケにはいかないがな。何つったって俺は『勇者』だからな! はは!」
俺が苦し紛れにそう言うと、ラムラはハァと大きく溜息を吐いた。
「あのさ……。サマリア、分かってる? コレって立派な国家反逆罪よ? それこそ、エルサ女王陛下を裏切ることにもなるわ」
「わーってるよ、ンなこと……。だがそれでも、だ。俺はこの状況を自力で何とかしなきゃなんねぇんだよ。勇者の俺が陛下の足を引っ張るワケにはいかねぇからな……。ラムラ、お前さ。テルア殿下の話、聞いたか?」
「あぁ。アレね……。何でもお家騒動寸前なんでしょ?」
皇嗣・テルア。
女王エルサの腹違いの歳の離れた弟君である。
元々、テルア殿下は平民出身の側室の子ということもあり、血統を重んじる譜代の家臣たちからは軽んじられていた。
しかし魔王討伐が難航し、国民経済が疲弊し切った今、少しずつ風向きが変わりつつある。
そもそも、元来男系国家であるヴィジュニッツにとって、現行の女性君主体制は異例中の異例だ。
実際、エルサ陛下が即位された時もひと悶着あり、今現在に至るまで腹に一物を抱えている家臣も多い。
そういった背景もあってか、テルア殿下が元服式を迎えて以来、その威光は急速に高まっている。
近頃では、かの御仁を担ぎ上げ、政権転覆を目論む動きも水面下で始まっているらしい。
もっともそれは、殿下を後ろ盾に成り上がろうと企む、大臣・ラモンの暗躍によるところも大きいのだろうが……。
「……そうだ。もしココで『陛下が任命した勇者が実は借金塗れでした』なんてことが表沙汰になってみろ。テルア殿下の一派はますます勢いづくのは目に見えている」
「だからって……。ねぇ、アンタがエルサ陛下に拘るのって、やっぱりアレが理由なの? アンタの気持ちは分かるけどさ……。はっきり言って、ちょっと異常よ? タダの『恩義』ってだけじゃ説明つかないわ」
ラムラは俺の顔をまじまじと覗き込みながら、問いかけてくる。
確かに……、彼女の言うことに間違いはない。
一介の勇者が、王族のお家事情にそこまで首を突っ込む謂れはないだろう。
「……陛下は約束してくれたんだ。国の威信を掛けて取り組むってな……。だから、今あのお方に退いてもらうワケにはいかねぇんだよ」
「……だったら、何で旅の資金提供の話、断ったのよ。アレを受けていたら、今頃こんなことにはなってないはずよ?」
「確かに結果的にみればそうかもな……。だがな。考えてもみろ。もし、国が俺たちのお財布事情もバックアップするとなると、魔王討伐は完全な公共事業になる。それがどういう意味か分かるか?」
「まぁそうなりゃ……、アタシたちの出費も1銅貨単位でお上に把握されることになったでしょうね」
「あぁ、そうだ。血税の使い道なんて、これ以上ないほどに難癖付けやすい分野だからな。それで詰められるのは、俺たちじゃなく国家財政を預かるトップだ」
「……でもこんなことバレたら、それこそ一環の終わりよ。もちろん、エルサ陛下もね」
「そうだ。だから俺は、この嘘だけは絶対に吐き通すって決めてんだよ」
俺がそう宣言すると、ラムラは再び深い溜息を吐き、額に手を当てる。
「……あっそ。でもまぁ、そうね。サマリアは、ビジネスセンスはサッパリみたいだけど、こと戦闘に関して言えばブッチギリなのは間違いないわ。そんなアンタが『魔王を抑えられる』って言うんなら、そうなんでしょうね。そこら辺はまぁ……、信用してるわ」
「すまん……。恩に着る」
「……じゃあ、アイツらにも、一応報告しておいた方がいいんじゃない?」
「もちろんそのつもりだ」
「そ……。あっ! そう言えば、この馬鹿のせいですっかり忘れてたけど、シャロって言ったっけ? アンタの名前」
「えっ!? う、うん。本当はシェオルだけど、サマリアにそう名乗れって言われた……」
不意に話を振られたシャロは、一瞬ビクつきながらもそう応える。
「そう……。そんじゃまぁ、一応よろしく。ソイツ、その通りクズだから何か尊厳踏みにじられるようなことがあったら、アタシに報告するのよ? 代わりに半殺しにしてあげるから」
「全殺しと言わない辺りは優しさなんですかねー。さすがラムラさん」
「いつまでもしょーもないこと言ってないで、とっとと行った行った! じゃあ、アタシは酒場の仕込みがあるから先に行くわよ!」
ラムラはそう言って、一足先にギルドを後にした。




