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モラハラ弱小領主 VS モンスターペアレント③

 しばらくの沈黙の後。

 プロソフはスゥーッと、くぐもった呼吸音を辺り一帯に響かせる。

 その直後、ニヤリと不敵に口角を上げてみせる。


「……そうは言いますが、サマリア様。この件が皇国に伝われば、サマリア様のお立場も危うくなられるのでは?」


「俺の心配してくれてんのか? それなら杞憂ってヤツだ。我らが女王陛下は、この手のじんわり・ほっこりエピソードが大好物の御仁でね。幼気な少女が涙ながらに訴えれば、十中八九不問にするだろうよ。何処ぞの融通の利かない田舎領主とは違うんだっての」

  

「痴れ事を……。そうではありませんよ。僕が言いたいのは、()()()()お仲間が戦っている最中、このような場所で油を売っていてよろしいのか、ということ……。お見受けしたところ、『ウリエルの聖剣』もお持ちではないようですが」


 売り言葉に買い言葉、といったところか。

 プロソフは俺の煽りに乗り、ここぞとばかりに悪態をついてくる。

 ……何はともあれ、ようやく尻尾を出したようだ。

 これで腹を割って話せる。


「……急になんだよ? わざわざそういうこと聞くっつーことは、全部知ってんだろうが。何が『人類の至宝』だよ。これみよがしに仰々しい言い方しやがって。そんなに俺に罪悪感植え付けたいのか? 性格悪ぃな」


 俺の言葉に、プロソフはその張り付いたような笑みに拍車を掛ける。 


「性格が悪いのは、サマリア様の方では? 全てに気付いておきながら、白々しい」


「気付く? 俺がカマかけて、アンタが勝手に自爆しただけだろうが」


「減らず口を……。それでは言わせていただきますが、僕があなたの一連の所業を皇国に報告しない保証があるとでも?」


「まぁそうヤケになんなよ。焦る気持ちは分かるけどさ。俺とアンタは似たもの同士。現状が危ういのも、お互い様だ」


「……何が言いたいのですか?」


 プロソフは、ムッと眉間にシワを寄せて言う。


「いや。だって、そうだろ? このまま大人しく、貧しい一地方都市の領主を続けてもジリ貧だ。だったら一か八か、一発逆転狙ってみるしかない。だから藁にも縋る思いでメルカバの甘言に乗ったんだろ? 違うか?」

 

「あなたが何をおっしゃっているのか……、まるで分かりませんね。何を根拠にそのようなデタラメを……」


「おいおい、この期に及んでまだ惚けんのかよ? そんじゃまぁ、その『デタラメ』の続きだ。アンタは今、瀬戸際に立たされてんだ。監視対象だった俺が()()()の行動に出たが為に、こうしてノコノコ表に出てこざるを得なくなったんだからな。そうなりゃ必然的に、メルカバも()()を迫られるってワケだ。あっ。一応言っておくが、ヤツがアンタを簡単に切り捨てられないってことは知ってるぞ。ただな……。その前提には、一つ条件がある。何か分かるか?」


「……前提? 何を言って」


「それはな……、俺がアンタより先にメルカバと接触することだ」


 俺がそういった瞬間、プロソフは大きく刮目して、絶句する。


「いや、冷静に考えてそうだろ? 貴族のアンタを守るために、魔族のメルカバが表立って動けるワケねぇだろうが。だからアンタが先に動いた時点で、メルカバはアンタを守る理由がなくなったんだよ。つーか……、結託してるってんなら一応事前にお伺いくらい立てんだろ。それをしなかったってところを見ると、メルカバとは音信不通……、ってな感じか?」


 そう問いかけるが、プロソフの返答はない。

 額からひたひたと流れ落ちる冷や汗を拭うことも忘れ、ただただその場に立ち尽くしている。


「図星か……。何にせよ、アンタらが単純で助かったよ。まぁまかり間違って、メルカバが過剰な安全策に出て、アバドと単独で和解するようなことがあったら参ったが……、それは万に一つもあり得ないだろうな。なんたってコッチは、可愛い可愛い妹を人質に取ってんだからなぁ!」


 俺の挑発を前に、プロソフは反応らしい反応を見せなかった。

 もはや、目の焦点も定まっていない。

 フラフラと肢体を揺らし、今にも膝から崩れ落ちそうだった。


「つーことで、だ! どうやらメルカバは、()()()はアバドと事を起こさないことを選んだらしい。もしくは……、いや。アンタには関係ないな。すまん、気にしないでくれ」


 俺はダメ押しとばかりに、ゆっくりとプロソフの耳元まで近付く。


「……なぁ、自分でも分かってんだろ? アンタは切り捨てられたんだよ。アンタなりに現状に抗おうとした結果なんだろうが、残念だったな。他人事ながら同情するよ」


 俺はそう言って、彼の肩に手を置く。

 ……が、プロソフは間髪入れずに、パシリと俺の手を払いのける。


「戯言も大概になされませ……。さっきから聞いていれば、馬鹿馬鹿しい。仮にその妄言が事実であれば、それで一番困るのは他でもない、サマリア様ご自身なのでは?」


 プロソフは吹っ切れたようにそう言うと、ジロリと鋭い視線を浴びせてくる。


「……あぁ、確かにアンタの言う通りだ。メルカバにまた奥に引っ込まれたら、俺は両手足を縛られたも同然だよ。でもな……。そもそも、バカ正直にヤツの願いを叶えてやる必要もねぇんだよ。だから今の内に断言しておく。メルカバは必ずココへやって来る。まぁ見てろって。すぐに分かるさ」


「よくもまぁ億面もなく、次から次へと……。このような大それた真似をしてまで。結局のところ、サマリア様は何がお望みなのですか?」


「何がお望み、か……。じゃあ、端的に言う。サソフ領を俺にくれ。そうすりゃ、アンタが魔族と内通していたことは不問にしてやる」


「何を言い出すかと思えば……。世迷言もここまで来ると神品ですね。お断りします。この国を預かる一人として、そのような横暴は認められません」


「あぁ、やっぱダメかぁ! 交渉決裂かぁ!」


 俺がそう言って天を仰ぐと、プロソフは不快感を隠さずに顔を歪める。


「意味が分からない……。そんなこと、僕や他の三公爵の意思に拘らず、端からその方針だったのでしょう? 皇国の権威を後ろ盾にお持ちのあなたであれば、たかだが衰退国家の一地区の統治権禅譲を正当化させることくらい、赤子の手を撚るほどに容易いはずだ!」


「流石にそれは買い被り過ぎだ。ウチの陛下は、『世界皇帝』でも何でもねぇよ。だが、アンタらの意思はどうでもいいってのは正解だ。だから今のは、アレだ。アンタが()()()()()死んでいないか試させてもらった」


「……何? どういうことだ?」


「どうもこうもねぇよ。そのままの意味だ。結局、アンタは領主であることからは逃れられねぇ。アンタ自身もソレを自覚しているし、ましてやお隣の領国の末っ子ボンボンみたいに放り出すつもりもない。だから領民を食わせるためになら、文字通り悪魔にでも魂を売る。だから事実が明るみに出ようが、そうやって()()()()を続ける。全く……。見上げたプロ根性じゃねぇか」


 俺がまくし立てると、プロソフはハッとした表情になり、返す言葉を失う。


「正直、アンタがここまで強情だとは思わなかったよ。とはいえ、こうして看破された以上、ゲームオーバーだ。アンタに腹芸は向いてない。ただ、それだけのことだ。だがまぁ、その不器用さもご愛嬌だろ。つっても、ガキ相手に正論マウントでモラハラ働くところはいただけないけどな」


 するとプロソフは、吸い寄せられるように俺の背後に隠れる少女に視線を寄せた。

 その()()()に気付いた少女は、ビクリとその小さな身体を揺らす。


「しかし、参った。交渉が決裂した以上、アンタをこのままにしておくわけにはいかねぇな」


 俺がそう言うと、プロソフは剣を取り、露骨に身構える。

 それを合図に、数百余りの兵も一斉に敵意を剥き出しにする。


「……何をなされるおつもりですか。僭越ながら申し上げておきますが、協定調印国の元首及び宰相への暴挙は、各国への宣戦布告と同義。僕と魔族との繋がりについて、何か決定的な証拠を提示しない限り、それはたとえ勇者のあなたであっても例外ではありません」


「おいおい勘違いすんなよ。別に脅してるワケじゃない。でも確かにそうだな……。腐ってもアンタは貴族だ。何処ぞの反社組織みたいに、俺が独断で処置するワケにもいかん。現状、それを正当化するような物的証拠もねぇしな。だから()()アンタを咎める理由はない」


「でしょう……。なら」


「ただな。一つ言っておく。口封じするだけなら、別に()じゃなくてもいいんだよ」


 別に証拠の有無などは、問題じゃない。

 そもそもこの男を排除する大義名分など、いくらでも捏造できる。

 だがこの件に関して言えば、『貧乏領主が逼迫の末に犯した過ち』で終わらせたくない。

 今後の俺のためにも。

 ひいては、この哀れなほどに実直な男のためにも。


 食い気味に漏らした俺の言葉に、プロソフは何かを察したかのように、その顔面を一層青白く染める。


「アンタは対応をミスっちまった。後はそこのモンペ化したシスコンに命乞いでもするんだな」

「な、何を言って……」


「そこの人族よ……。()()()に何をしておる?」


 プロソフが振り返ると、全身を物々しいまでの重装備で揃えたアバドが、芦毛の馬に跨ったまま、鬼の形相で俺たちを見下ろしていた。


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