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年端もいかぬ少女に見透かされる俺の人間性

「……サマリアって、やっぱり優しいね」


 ラムラたちの後ろ姿と酒場の開き戸が重なり、見えなくなった頃。

 この場に残ったシャロは、円卓の隣の席からやたらと湿度の高い笑みを浮かべて言う。

 寸刻前までのビクついた態度はどこへやら。

 彼女は一体、俺の悪質極まりない遣り口の何処に優しさを感じたというのだろうか。


「……言葉は正確にな。火事場泥棒つかまえて『優しい』はねぇだろ」

「トボけるんだ。まぁその方がサマリアらしいけどね」


 彼女のこの口振りは、どう考えても確信犯だろう。

 マーレへの口止めを怠ったツケが、こんなところにまで及ぶとは。


「俺らしい、ね……。あぁ、確かにそうかもな。ラムラのあの顔もすっかり見慣れちまったよ」

「ラムラが怒ってたのってたぶん、そういうことじゃない気がする……」


 シャロはそう言って、フッと力なく笑う。

 その妙に穏やかでませた笑みは、俺の腹の底まで見透かしているかのようだった。


「サマリアはさ……。貧民街の人たちを助けたいんだよね? 前にマーレが言ってたんだ。サマリアは、ホントはそっちが一番大事なんだって。あのサソフって人の代わりにココを治めるのだって、それが理由なんでしょ?」


 ……別に『同じ貧民街出身者であるがゆえの同情』などではない。

 大体、そんな気まぐれに近いで憐れみで、彼らを見るのは無礼だろう。

 それに俺は、知っている。

 皇国も。連邦も。トルドスも。

 事あるごとに撲滅を謳いながらも、本音では貧困を無くそうなどとは思っていないのだ。

 『格差』というものは、いつの世も便()()()政争の具だ。

 ある時は、解消に向けた『努力』をアピールするために。

 またある時は、ソレを生んだ権力者への攻撃材料に。

 ひいてはそれが、争いの火種に発展していく。

 対立し合う政治構造がある限り、決して根本的な解決があってはならないのだ。

 

 だが、ただ一人。

 エルサ陛下だけは違った。

 貧民街の片隅で溝水同然に腐っていた俺の声に、真摯に耳を傾けてくれた。

 そして、約束してくれた。

 俺が勇者として『真の平和』を取り戻した暁には、彼らが恒久的に露頭に迷うことがなくなるよう抜本的な改革を行うと。


 ……別段、信じるに足る具体的な方策を聞いたわけでもない。

 言ってみれば、タダの口約束だ。

 何なら、俺を勇者として抱き込むためのリップサービスだった面も、多かれ少なかれあるだろう。

 ただ、大臣のラモンたちの反対を押し切り、何者でもなかった俺を勇者へと押し上げようとした陛下の姿に、柄にもなく『本気』を感じたのかもしれない。

 

 しかしテルア殿下が元服し、ラモンの影響下でますます力を付けてきた今、エルサ陛下の政治基盤も揺らぎつつある。

 万が一、近々で失脚させられるようなことがあれば、あの約束も砂上の楼閣だ。

 だがもしこの計画が上手く運べば、国内外において陛下の求心力は飛躍的に高まる。

 更に言えば、一時でも俺がサソフ領を領有することで、陛下が力を蓄えるまでの『繋ぎ』の役割も担える。

 借金云々は別にして、頭のどこかにそんな算段があったのかもしれない。


「前にサマリア言ってたじゃん? 全部バレた時に、処刑される覚悟があるって……」


「言ったな……」


「あたしが同じ立場だったら、ゼッタイそんな風にはなれない。だって死にたくないもん。ラムラが怒るのも分かるよ……。サマリアは何でも一人で背負おうとし過ぎだよ」


「……お前は今まで俺の何を見てきたんだ? ジフリンでの話も聞いてんだろうが」


「あたし、聞いちゃったんだよね。覚書交わした後に、サマリアが現地の責任者の人に話してたこと。『本当にどうしようもなくなったら、躊躇せずに俺の名前を出せ』、だっけ?」


 シャロから食い気味にそう聞かれた時、俺は咄嗟に何も言えなかった。

 返答がないのを良いことに、シャロはますます調子づく。

 

「確かに、サマリアは手段も選ばないし、やり方も下衆なのかもしれない。でもソレってさ。絶対に叶えたいコトがあるから……、なんだよね? 結局サマリアって、誰よりも純粋なんだと思う。なんかエルサって人が、サマリアを勇者に選んだ理由が分かった気がするな!」


 俺の図星を突いた満足感からか、その表情は偉く得意げだった。

 年端もいかぬ子どもにここまで好き勝手に言われては、こちらとしても黙っているわけにもいかない。

 

「……あのおしゃべり女がどこまで話したのかは知らんが、イロイロと深読みのし過ぎだ。俺はあの連中を『助けたい』と思ったことなんて一度もねぇ。むしろ逆だ。鬱陶しいんだよ。昼間っから仕事もしないで地べたに寝そべりやがって。邪魔クセェったらありゃしねぇ。あぁいう輩は、この世から一人残らず消えちまえばいい! 俺の精神衛生上のためにもな!」


 散々自己省察を重ねた結果、出てきた答えがコレとは、我ながら何ともお粗末だとは思う。

 そんな俺の話を、シャロは『うんうん。そっかそっか』と母親のような余裕綽々の笑みで聞いていた。

 ムズムズとした居心地の悪さから逃れるように、俺は軽く咳払いをする。

 

「んなたぁどうでもいいんだよっ! それよりも問題はお前だ、シャロ!  メルカバに何されたんだ!?」 


「お姉ちゃんから、聞いたんだ……」


 するとシャロは、また俺から目を背ける。


「……詳しいことは聞いてねぇよ。ただあのシスコンから『妹のトラウマを穿り返した』だとか、濡れ衣着せられたからな。事情くらいは聞いておかねぇとな」


「別に……。ただずっと嫌なこと言われてきたからさ。なんかあの宝石見てから、ソレ思い出しちゃって……。だから、サマリアたちには関係ない話だよ」


「関係あんに決まってんだろ。お前は人質であるのと同時に、ウチの()()()()だ。いつまでも従業員がその調子だと、オーナーの俺が困んだよ」


 俺がそう言うと、シャロはようやく観念したのか、ゆっくりと口を開く。


「メルカバに限ったコトじゃないんだよ。あたしたちからすれば今更って感じだし、ある意味当たり前の話だから……」


 シャロはそう前置きすると、ぽつぽつとメルカバとの経緯を話し始めた。


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