割りとどうでも良いところで試されるアドリブ力
「ふーん。港の権益を、ねぇ……。てかさ! 素朴な疑問なんだけど、そのメルカバ? ってヤツを通して、鉱脈の情報がサソフに渡ってるんなら、今更アタシらが出る幕なんてあんの?」
サソフ家の屋敷へ向かう道中。
俺がラアトの調査結果について話すなり、ラムラは至極真っ当な指摘をしてくる。
彼女のこの常識的価値基準には助けられてばかりだが、時折気付いて欲しくないことまで気付いてしまうのは玉にキズである。
「無いだろうな……。むしろ、もう既に掘り尽くされてるまである」
「えぇ……」
潔く真正面から答えた俺に、ラムラは絶句する。
「タダそれでも決まったワケじゃねぇ! 現状、ラアトの調査結果を聞いただけだからな! その辺りのコトも含めて、今から真偽を確かめに行くんだ!」
「そうだそうだ! サマリアの言う通りだっ! 諦めたらそこで終わりなんだよ!」
ナザレもすっかり正気に戻り、普段の宝石狂いの様相を覗かせつつある。
ただ、未だに目が据わっているように見えるのは気のせいだろうか。
援護射撃は助かるが、今のコレこそがナザレが真の意味で囚われている『呪詛』なのかもしれない。
「それにだ! コッチは、向こうの特大の急所握ってんだ! だったら、やり様なんていくらでもあんだろ?」
「そうだそうだ! サマリアの言う通りだっ! 弱みなんて利用するためにあんだよっ!」
「……脅して鉱脈の権益を横取りするってこと? いや、だからってね! メルカバと繋がってるってことは、もうアンタの現状が知られてるかもしれないってことでしょ!? 急所握られてんのは、アンタも一緒じゃないっ!」
「わ、分かってる……。だからまぁ、そん時ゃそん時だ。イザとなったら、鉱脈で落盤事故に見せかけて……、だな」
「そうだそうだ! サマリアの言う通りだっ! ひと思いに○っちまえ!」
くれぐれも念を押しておきたいのは、もちろん大袈裟な比喩だ(ナザレに関しては不明)。
だが、己が欲のためにコンプライアンスに真っ向から喧嘩を売る目の前の男たちに対し、ラムラは溜息を吐き、頭を抱える。
まるで、先日滅ぼした何処ぞの反社組織も顔負けとでも言いたげだ。
「……にしてもビックリだわ。トルドスが目先の金欲しさに、魔族に領地売ってるなんて! 何処の国にもいるのねー、そういうヤツって」
匙を投げられたのか。
ラムラはジトリとした視線で俺を見ながら、当てつけのように言い放つ。
「今は何処の国もカツカツだからね〜。あっ! そういえば、アバンさん! 一つ、聞いてもいいですか〜?」
「ん〜? 何かな〜?」
マーレは、横並びで歩くアバドに声をかける。
不敵な笑みを浮かべて聞く彼女に対し、俺は何故か少しばかり胸騒ぎを覚えた。
「アバンさんは、どうしてブルカネル山脈までのルートを知ってるんですか〜?」
「あっ! ソレ、アタシも気になってた! 確かブルカネル山脈って、『浄波のスピネル』の他にも貴重な資源が採れるからって、一部の商人にしか裾野までの道を知らされていないのよね? でもアバンって踊り子だし……」
ラムラはマーレに被せて、聞いてくる。
その瞬間、アバドはギクリと言わんばかりに、分かりやすく冷や汗をかく。
どうやら、彼女の稽古の成果もココまでのようだ。
【……のう。勇者サマリアよ。どうしたものか?】
答えに窮したアバドは、俺にだけ伝わるよう念話を通して、SOSを発出してくる。
迂闊だった。
確かにラムラの言う通り、ブルカネル山脈は資源の宝庫であり、その存在はトルドスのみならず、世界各国にとっても重要そのものだ。
仮にその権益が、コリッツのような集団の手に渡ってしまえば、各国にとっても死活問題になる。
そのため、国際協定の中で入山を認められた極一部の優良な商人や、各国の要人クラスを除く一般人は、鉱脈はおろか、麓付近へ辿り着くことも困難なのだ。
言わずもがな、魔族はこの国際協定には署名しておらず、恐らくその優れた()インテリジェンス能力とやらで独自でルートを入手したのだろうが、今回ばかりはソレが仇となったと言わざるを得ない。
……ココはアバドに自力で踏ん張ってもらうしかない。
【悪い……。迂闊だった。悪いが適当に誤魔化してくれ】
【なんと! お主が我に道案内をさせるなどと申したのであろう!?】
確かにそうだ。
だが、それを言うならコチラも反論の一つもさせていただきたい。
そもそも、初めにワケのわからない奇行に走ったのはお前の方だろうが。
言葉を詰まらせるアバドを前に、彼女たちの目は次第に訝しげになっていく。
「そ、そうね! わ、我……、じゃなかった。なんか、お姉さんの再従姉妹の内縁の妻の元旦那の親友の3人目の彼女が、昔トイレ清掃のバイトをしてた武器屋が認可を受けてたみたいでね! その縁で、お姉さんもたまーに使わせてもらってるんだよね! いわゆるコネってヤツ?」
あまりにも苦しい……。
実質赤の他人から、それだけ特大のコネがいただけるような社会なら、俺は今頃こんなことにはなっていない。
やはりこの魔王は、絶望的にアドリブが効かないようだ。
釈然としない彼女の回答に、ラムラたちから降り注がれる疑念の視線は一層勢いを増す。
それにしても、もどかしい限りだ。
何故、アバドはここまで頑なにラムラたちにまで身分を伏せるのだろうか……。
この現状、完全に二度手間である。
【……なぁ。そもそもラムラたちにまで隠す必要あんのか? タダでさえややこしい状況なのに、やり辛くてしょうがねぇよ」
俺がそう聞くと、アバドは白々しく無言で『やれやれ』と言わんばかりに、手をあげてジェスチャーをする。
【お主……、何も分かっておらんのう。彼奴が、お主を誘い込んでいるということは、当然お主への監視も強化していよう。もしこの場に、突如現れた魔王の我とお主たち勇者パーティーが仲睦まじくやっておれば、彼奴とて怪しむわ。メルカバは無骨なヤツだが、決して馬鹿ではない。さしものメルカバとて、勇者のお主と魔王の我を、表立って同時に敵に回すような真似をするとは思えん。差し当たっては、緊急的な措置を試みるだろう。……良いのか? 足止めと称して、お主の秘密を人族側にタレ込まれても」
【……要は無闇に刺激すんなってことか? 敵を欺くには、まずは味方からってか】
【そうだ! 少なくとも、メルカバには我の擬態は見抜けんからな! このスタンスを維持してさえいれば、彼奴の方から仕掛けてくることはあり得ん!」
【お前なりに気を遣ってくれたってワケか……。でもよ。ソレって飽くまでお前の方が立場が上っていう前提があるからだろ? どうすんだよ? ネベーラみたいに『さる高貴なお方』とやらが、メルカバの階級を格上げしてたら】
【…………】
完全に沈黙した。
やはり、今回のこの遠征。
いくつか運要素があるらしい。
「ふーん……。まぁいっか! アバンさんだって旅人なんだし、他人に明かせない秘密の一つや二つはあるよね!」
不意を突かれ、ぎこちなさを全開にするアバドに対し、やがてマーレは折れるようにそう溢す。
「……そうね。確かに野暮だったわ。まぁいいんじゃない? 少なくともサマリアよりは信用出来そうだし」
「ぽっと出の助っ人を下回る信用ってどんだけだよ……。鉱脈に関しては、念話で指示をもらうことになってるから心配すんな。あとな! サソフだって、目先の金欲しさに魔族の口車に乗っちまうほど追い詰められてたんだ! 恐らく、三公爵家と家臣連中との板挟みにあいながらの孤独な決断だったんだろう……。内心、罪悪感に押しつぶされそうになっている可能性すらある。だから話の仕方によっちゃあ、交渉の余地は十分にあると俺は踏んでいる!」
「……アンタがどう言い包めるつもりかはともかく、それは確かにそうかもね。目先の金欲しさに、魔王とつるんでるアンタが言うと説得力あるわ。じゃあそうと決まれば先を急ぎましょ」
チクリチクリと、突き刺してくるラムラの言葉の刃に気付かぬ振りをしつつ、先を急ぐ彼女たちの後を追った。




