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「散っていった」仲間たち①-1

「相も変わらず時代の最先端をいってるねぇ……。一足先に人類滅亡ってか」


 ギィと古ぼけた音とともに、俺はその二枚扉を開く。

 この島へ帰って来たら、まず初めにこの冒険者ギルドに立ち寄るのが、俺の日課だ。

 それは少し遠征が長引いた今回についても、例外ではない。

 一歩足を踏み入れると、ギルドとは名ばかりに冒険者の影の一つもない、閑散とした景色が俺とシャロを出迎える。

 加えて、そこかしこから吹き抜ける隙間風は、身体だけでなくこの荒みきった心まで底冷えさせてくるようだった。

 そんな、あまりに想像通りの光景に思わず憎まれ口を叩いた、その時だった。


 俺の左頬に鈍く、重い感覚がひた走る。

 その衝撃が、明確な『痛み』として脳髄に伝わった時には、既に俺は床に伏せていた。


 ゆっくりと顔を上げると、これ以上ないほどにまで動揺しているシャロの姿にまず気付く。

 そして少し視線をずらすと、この冒険者ギルドの受付と思しき女性が虚ろな目で、俺を見下ろしていた。

 なるほど……。

 俺はようやく自分の身に何が起きたのかを悟った。

 

「よ、よぉ。久し振りだな」


 俺がそう言い放ったのを合図に、彼女は俺の上に馬乗りになり、淡々と表情のない顔で頬を殴りつけてくる。

 何度も、何度も。繰り返し。

 いや、ホントに。

 冗談抜きにこのままだと、死ぬ。


「ぶふぉっ!? わ、分かったからっ!! 1年も留守にして悪かったって! ちゃんと誠心誠意謝るからっ! だから許してくれ! なっ!?」


 俺の必死な嘆願も虚しく、彼女の拳の雨は一向に止む気配がない。

 そればかりかその勢力は一層強まり、容赦なく俺の頬を荒らしていく。

 差し詰め、豪雨災害現場と成り果てた俺の顔面から感覚がなくなりかけた頃、彼女はようやく満足したのか、その手を止める。

 そして俺から離れ、ゆっくりと立ち上がる。


「ヒール!」


 彼女が俺に治癒魔法を施すと、拳の雨によって荒れた土壌はみるみる内に元の姿を取り戻していく。

 全く……。こういう律儀なところは相変わらずだ。


「……ったく。1年振りの再会の挨拶にしては随分じゃねぇか、ラムラさんよ」


 治癒師・ラムラ。

 そう。彼女こそ、かつて俺のために、()()()()()()()()として、()()()()に散っていった仲間の一人である。

 安物の白ブラウスに、紺色のベスト。

 俺がココを立ち上げた際に、『ギルドの顔』としての最低限の身なりを担保するため、彼女に支給したものだった。

 彼女と別れてから1年が経った今でも、目立った汚れもなく、ブラウスに至っては()()を維持しているようだ。

 さすがは、勇者パーティー随一の几帳面さを誇るだけある。

 ただそれでも、経年と酷使による刺繍の解れが散見される辺り、ココ数ヶ月の苦労が垣間見える。

 よく見れば、自慢のその青髪にも所々白髪が……、なんてことはもちろん死んでも口には出さない。


「……そりゃね。経営ほっぽりだしてトンズラこいたパーティーの大黒柱が久し振りに帰ってきたと思ったら、プラプラと仕事もせずに知らない女の子と密会中ってなりゃあ、これでも譲歩した方よ。何さ? どこで引っ掛けてきたの?」

「人聞き悪いこと言ってんじゃねぇよ……。コイツはまぁ、その、アレだ。平たく言うと、人質だ」

「は? どういうこと?」

「……まぁ、それは追って話すよ。……にしても何だよ、この閑散具合は。ちゃんと依頼は取れてるのか?」


「はぁ!? 何さ、その言い方! アタシが無能だって言いたいのっ!? そもそもこんな辺鄙な場所のギルドになんて、そうそう誰も発注しないわよ! 魔鉱石の回収だって、連邦から冒険者への直接の依頼がほとんどだし、今更ウチが出る幕なんてないっての! ココのギルドだって、夜からの酒場でギリギリ食い繋いでるってこと忘れないで! 大体アンタはいつもいつも」


 まるで、俺のその言葉を待ち伏せていたかのようだった。

 彼女の口からこの一年間、溜めに溜め込んだであろう鬱憤が次から次に湧いて出てくる。

 焦りからか、迂闊な聞き方をしてしまったことを深く後悔した。


「わ、悪かったって! そうだよな!? お前にはホントに苦労掛けたよな!? ただな! 俺には……、お前しかいないんだ」


「は、はぁ!? な、何さ? いきなり……」


 ラムラはそう言って、顔を紅潮させる。


「……お前だって分かるだろ? こう言っちゃなんだが、俺はクズだ……。今更、こんな俺に付いてくる人間がいると思うか? お前は頭が良いし、機転も利く。几帳面だし、何かと繊細さが求められる(?)ギルドの経営には打ってつけだ。俺が陛下から勅命を受け、ヴィジュニッツを旅立つ時。まず初めにお前に声を掛けたことは、人生最大のファインプレーだと本気で思ってる。どうか……、そのことだけは忘れないでいてくれ!」


「そ、そう……」


 うん。コレはアレだ。

 個人的な感覚ではあるが、完全に()()()のアレである。


「そ、そうよねっ! アンタなんかの尻拭いが出来る女なんて、アタシくらいしかいないわよねっ!?」


「おぉ、そうだ! これからも期待してるぞ! ギルドマスター!」


「ま、まぁアタシだって、勇者のサマリアが魔王討伐の戦線から離れるワケにはいかないことくらい理解してるわよ! だから……、今回は許してあげる!」


 相変わらずコチラが心配になるほどチョロい。

 彼女にはもうしばしの間、自身の危うさに気付いて欲しくないものである。

 願わくばそう。俺の負債を完済するまでは。


「そんで……、魔王討伐の方はどうなのよ?」


「あ、あぁ。そのことなんだけどな……」


 いよいよとばかりに本題を切り出したラムラに対し、俺は気が進まないながらも事の顛末を話した。

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