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「喧嘩」なら、せめてこちらから売りたかった ※現金買取希望

「やっぱり三大魔神官が絡んでんのかよ……」


 面倒ゴトの臭い、と言うと例のごとく『どの口が……』などと、ヤジの一つも飛んできそうだが、実際のところ面倒極まりない。


 それも当然だ。

 俺は表向き、三大魔神官について知らないことになっている。

 というより、極一部の関係者を除き、世間そのものがヤツらの存在を認識していない。

 人族に仇なす存在として槍玉に上げられているのは、飽くまで魔王のアバドなのである。

 世間一般にとってはいないも同然であり、なおかつ俺とアバドが健在である以上、ネベーラが倒されたとてヤツらが泣きつく場所はない。

 ヤツらとて、表立っては動けないジレンマを抱えているのだ。

 この辺りは三百年間に渡って、アバドのことを隠れ蓑に利用していたツケとも言えるが……。


 だがもし仮に、連中を殲滅してしまえば事態は大きく動く。

 大方、ネベーラが言うところの『さる高貴なお方』とやらが、俺の動きを封じるため、あの手この手で()()()()をしてくるはずだ。

 『皇国の勇者が魔王を誑かし、魔族との戦争を私情で長引かせている』などとあらぬ噂()を吹聴し、ここぞとばかりにネガティブキャンペーンを張ってくるに違いない。

 そうなれば、ゲームオーバーだ。

 俺自身が、しょっぴかれるのは言うに及ばず。

 エルサ陛下も任命責任を取り、退位せざるを得なくなるだろう。

 この絶妙な現状を維持する上で、『戦力の拮抗』はマストなのだ。

 よってヤツらとは敵対しつつも、決してその芽は摘んではならない。

 ネベーラを倒したのは、飽くまで口封じのための応急措置だ。

 連中を放置しておくことはリスクがある一方、ヤツらの『思惑』が俺の()()()()()()に一役買っているという側面も、決して忘れてはならない。


 それゆえに、アバドの今の一言は聞き捨てならなかった。

 話によっては、『()()正攻法に近いカタチで借金を完済しつつ、ヤツらの『思惑』について探る』という俺の喫緊のミッションも、雲行きが怪しくなる。


【あぁ、そうだ。メルカバは、『冥濛のスピネル』の管理担当だからな。精巧な偽物を作れるとすれば、彼奴しかおらぬ】


「そうなのか? なんかシャロの奴、アレ見てからギルドの母屋に引きこもっちまったんだよ。何があったか聞いても、話してくんねぇし」


【……無理もあるまい。あやつにはホンの一時期、シェオルの教育係を任せておったのだが……。少々、()()()()があっての。当時幼かったシェオルは、それが未だにトラウマのように染み付いておるのだろう】


「お前んとこの家庭環境どうなってんだよ……。でも待て。そうなると、そのメルカバ? ってヤツはネベーラの妨害をしたってことか? アイツは、ウチのナザレが裏口から忍び込んでいたことを知らなかったみたいだぞ?」


【概ね、そういうことだろう。彼奴が自身の『思惑』を遂げるため、コリッツどもが保管していた宝玉を、(くだん)の品にすり替えたとしか思えぬ。時に勇者サマリアよ。そのナザレ? とか申す者が侵入する際、何か変わったことはなかったか?】


「変わったこと? つっても当日は別行動だったからな。直前に念話で話したことくらいしか……」


 その時、ふとナザレが何気なく放った言葉が頭に過る。


『あぁん!? サマリア、何か言ったか!? コッチは近くの茂みで猫が交尾始めやがって、うるせぇんだよ!』


 いや、まさかな……。

 これを伝えるべきか?

 相手は魔王と言えど、一応女性である。

 これは完全に偏見なのだが、恐らくアバドはこの手の話題は苦手だ。

 それも高い確率で。

 

【むぅ? どうした? 思うところがあるなら申せ】


「……猫が交尾していたらしい」


【お主は……、何を言うておるのだ?】


「俺は質問に答えただけだが……」


 俺がそう言うと、案の定アバドは沈黙する。

 呆れか、怒りか。

 俺は彼女と対峙してから初めて、恐怖のようなものを感じている。


【こ、これは飽くまで可能性の話だ! そ、その、さ、盛っておった? 猫がメルカバかも知れぬということだ! 三大魔神官の一角の彼奴であれば、お主の仲間一人騙すくらい造作もないだろう】


 アバドの言葉の節々から、複雑な心境が読み取れる。

 無理もない。

 自分の身内が、異種間交配も厭わないアクロバティックな性的指向を持ち合わせている可能性が浮上すれば、彼女でなくともこうなる。


「なんつうか……、心中察するよ」


【やめよ……】


 アバドはそれだけ言うと、口を噤む。

 もはやこれ以上の深入りは、無用だ。

 相手が魔王と言えど、何かしらのハラスメントに該当する可能性がある。


「……つーか、そもそも何なんだよ? その『思惑』ってのは。ネベーラのとはまた別なのか?」


【詳しいことは分からぬ……。ただ一つ言えるのは、彼奴は()()()()()()本懐を遂げられるよう布石を打った、というのは確かだろうな】


「どう転んでも? どういうことだよ?」


【……考えてもみよ。『冥濛のスピネル』は、仮に量産化が図られれば世界のパワーバランスを根本から変え得る、強力な魔石だ。一歩扱い方を間違えれば、我ら魔族にもその災禍が飛び火しかねん程のな。それゆえ我の代まで延々と、その運用方針を決めあぐねておった。そのような代物が人族の……、ましてやあのならず者たちの手に渡ったとなれば、批判の目に晒されるのは必定だ。そしてそれは、勇者のお主としても捨て置けぬ問題であろう? 彼奴は労せずして、お主をおびき寄せる算段をつけていたのだ】


「……つまりメルカバは、ネベーラを貶めるためにその宝玉を持ち込んだってことか? そんでもって、俺たちへの撒き餌として、敢えて人族に馴染みのある希少な宝玉に擬態させて、ナザレが確実にソレを持ち帰るよう仕向けた、と」


【そうだ! もしお主がネベーラを倒し、その宝玉を手にするようであれば、願ったり叶ったり。出処を知ったお主は、否が応でもヤツの討伐に動かざるを得なくなる。まさに一石二鳥だ。仮に駄目でも、反りが合わん同僚を排除するための大義名分は得られる……、ということだ】


「そう言うけどよ……。何のためにだよ? ネベーラとは別の目的があるにしても、ソイツがわざわざ俺を呼びつける理由が分からん」


【……だから言ったであろう? 我にも詳しくは分からぬ、と。ただメルカバは我ら魔族の中でも群を抜いて血の気の多い、神官とは名ばかりの戦闘狂だ。それゆえ、単純にお主との決闘を望んでいるのやも知れぬ】


「『融和』云々はどこ行ったんだよ……。つーか、お前もそんな奴に教育係なんて任せてんじゃねぇよ。そりゃシャロだってトラウマになるわ」


【むっ! わ、我だって反対したわっ! だがメルカバの奴が、エラくゴネてきてのう……】


「お前は押しに弱いからな……」

 

 俺がそう返すと、アバドは口籠る。

 反論して来ない辺り、彼女にも幾分自覚はあるようだ。


【と、兎にも角にもだっ! 差し詰め、お主は喧嘩を売られているのであろう。皇国の最終兵器たるお主を自らの手で葬り去るために、な】


「どいつもこいつも、スタンドプレーしやがって……。そんな調子じゃあ、人族との戦争責任を押し付けてお前を引き摺り下ろしたところで、先が思いやられるな」


【我を引き摺り下ろす……、だと!? ま、待てっ! 何だ、ソレはっ!? そのような話が公に出ているというのかっ!? 初耳だぞっ!】


「初耳って……。ラアトから聞いてないのかよ? つか今更じゃね?」


【聞いておらぬ! ん? いや。だがまぁ確かに言われてみれば、ヤツらならさもありなんといったところか……】


 アバドは俺の質問に憤慨したかと思えば、間髪置かずに納得する。


 だが冷静に考えてみれば、それも当然か。

 三大魔神官たちが俺やアバドはおろか、人類まるごと平らげしてようとしているなど、現状さしてエビデンスがあるワケでもなく、ラアトの憶測の域を出ない。

 『()()()魔王軍が世界を蹂躙している』という構図が社会通念となっている以上、迂闊なことを言えば残り少ないアバドの臣下の中でも疑心暗鬼になる輩も出てくる。

 まぁ俺に屈服している時点で今更という気がしないでもないが、そこは……、うん。魔族の中でもイロイロとあるのだろう、たぶん。

 ラアトの場合、俺がアバドと結託している間は、それほどおかしなことにはならないと無駄に高を括っているのかもしれない。

 全く。皆から信頼され過ぎるというのも困りものだ(棒)。


 ……それにしても、メルカバとかいう輩は随分とナメた真似をしてくれるものだ。

 しかしまぁ、それだけ入念な根回しをして誘い出しているのだから、ヤツも俺の現況について掴んでいるのだろう。

 対立関係にあるネベーラ伝いでないとしたら、それは一体どんなルートなのか。

 想像するだけで、肝が冷える。

 

 いずれにせよ、致し方ない。

 秘密を知られた以上、ヤツにその気がなくとも『お礼参り』は必至だ。

 不本意だが、メルカバ。

 お前が売ってきたこの喧嘩、格別の慈悲をもって買ってやるとしよう。


「まぁそんな心配すんなって。少なくとも、俺とお前が共同戦線張ってるうちは守ってやるから」


【べ、別に恐れてなどおらんわっ! 我を何だと思うておる!? 魔王ぞっ!】


 アバドは俺の申し出を食い気味に拒み、お得意の虚勢を張る。


「……とにかく、だ。ヤツの挑発に乗るにしても、何かしら他のエクスキューズが必要だ。()()()()()()、喧嘩売られたワケでもないからな。この前みたいなフライングで、いらん疑いの目を向けられたら堪らん」


【確かにそうだな……。お主が彼奴の存在を認識するに足る、()()()きっかけが要るな】


「三大魔神官どもの悪巧みのこともある……。その辺りの調査も含めて、お前からラアトに頼んでおいてくれないか?」


【それは良いのだが……。ところで勇者サマリアよ。メルカバの一件により、シェオルが塞ぎ込んでいると言ったな?】


「あぁ。そうだが……」


【あの子は、()()()()繊細な娘だ。お主にトラウマを穿り返され、酷く意気消沈しているのだろう……。おぉ! なんと可哀想な子よ!】


「悪かったな……」


【そこで、だ! お主、シェオルの療養も兼ねてトルドス共和国へ向かうがよい。言わずもがな。トルドスは、眼前には広大な海を望み、背後には雄大なブルカネル山脈がひかえる、人族領きってのリゾート地だ。大自然の中にその身を委ねれば、シェオルの荒んだ心も洗われるであろう」


「……俺に命令すんな、シスコン。自分の立場分かってんのか?」


【まぁ聞け。お主も知っての通り、ブルカネル山脈には先も話に上がった『浄波のスピネル』が採れる鉱脈がある。シェオルの療養に託けて、金儲けも出来ればお主にとっても都合が良かろう】


「……軽く言うな。()()()鉱脈からしか採れないって言ってんだろ? もっと言やぁ、その一部すらも山全体に掛けられた隠蔽魔法の影響で、日替わりで移動するって話だ。その手のプロならともかく、ド素人がレジャー感覚で採掘出来ると思ったら大間違いだ。大体、採掘だってタダじゃねぇ。諸々の費用考えても、ギャンブル要素が強すぎんだよ」


【確かにその通りだ。だがな……、その鉱脈の移動を正確に読み取れるとなったら、どうする?】


「……お前、ソレ本気で言ってんのか?」


【当然だ! 我が魔族軍のインテリジェンス能力を侮るな!】


 アバドは、そう得意げに言い切った。

 彼女が意味のない虚言を言うとは思えない。

 そこまで断言するからには、それなりの確信があるのだろう。

 まぁラアトの調査が終わるまでの時間つぶしと思えば、それもまた一興か。


「……わーったよ。一先ずはお前の口車に乗せられてやる」


 俺がそう言うと、アバドは得意げに『ふふん』とほくそ笑んだ。

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