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詐欺は基本的に騙される方が悪い

「……てかよ。今日は何でコイツ、こんなに静かなんだ? 俺が言うのもなんだが恰好のネタだろ? おーい、どしたー? 親切に燃料投下してやってんぞー」


 俺は彼女たちの視線から逃れるように、隣りの席で突っ伏しているナザレに呼びかけるも、反応は一向に返ってこない。


「あぁ、ソイツ? なんか、コリッツの連中の隠し持ってた宝石が偽物だったんだってさ」


 ラムラは見かねたのか、ちらりとナザレに流し目を送りながら、そう言う。


「は? あん時は、嬉しそうにしてたじゃねぇか。鑑定魔法は使わなかったのかよ?」


「……使った。そんで帰って来たら、なんか全部ニセ物になってた」


 ナザレは顔を上げることもなく、いつになく朴訥(ぼくとつ)とした様子で応える。

 そこには、普段俺をディスり倒す時のような、饒舌さも邪悪さもなかった。


「何だそりゃ……。よく分からんが、災難だったな。まぁ……、アレだ。宝石はともかく、他の財産(モン)に関しては概ね高い値が付いた。おかげでガッツリ負債を圧縮出来たぞ。全部、お前のおかげだ! よくやってくれた、ナザレ!」


 俺は気休め程度にそう呼びかけるが、ナザレはなおも項垂れたままだ。 

 言葉とは裏腹に、俺は自然と溢れ出そうになる笑みを抑えるのに必死だった。

 どんな事情かは知らんが、良い気味だナザレ。

 これを機に、詐欺に遭う屈辱感というものを、深く胸に刻み込んでおくがいい。

 

「あのさ、ナザレ。ソレって、宝石自体に擬態魔法が掛かってた……、とかじゃないのかな?」


 シャロは不意に食事の手を止め、ナザレに呼びかける。

 するとナザレはゆっくりと頭を上げる。


「いやでも……、オレはちゃんと鑑定したぞ?」

「たぶん掛けたのは、上級魔族なんだと思う。そうなると、鑑定者のレベルによっては看破出来なくなる」

「……だとよ、ナザレ。遠回しに未熟だってよ」

「シャロも中々言うようになったじゃねぇか……」

「ち、ちがっ! そ、そうじゃなくてっ!」


 ナザレの言葉に、シャロは慌てふためき、手を振って否定する。

 つくづく、俺との扱いの違いを思い知らされる。


「にしても、普通にヘコむわ! 鑑定には自信あったんだけどな……」


 ナザレはそう言って、再び顔を伏せる。

 そんな彼の姿を見て、俺は一つ疑問が過った。


「……でもよ。宝物殿の肥やしの段階で、擬態させる意味ってなんだ? アレか? それも俺たちを誘い出すためなのか?」


 コリッツ商会は、事実上ネベーラたちに完全に屈服していた。

 となると必然的に、その財産管理も魔族の手の内と考えるのが妥当であり、コリッツの連中の金策という線は薄い。

 だとしたら、この偽物の宝玉もネベーラの策略の一環なのだろうか。


「うーん、どうだろう? ナザレがあっさり抜け出せたコトも考えると、たぶん違う気がする……。それに誘い出すだけなら、下級魔族の魔法で十分だし、そもそも擬態なんて必要ない。『お宝がある』って情報だけ流せばいいだけ。ていうか今更だけど、ネベーラはナザレのことには気付かなかったのかな?」


 確かにそうだ……。

 ネベーラは俺たちをおびき寄せたと言っていたが、ソレならナザレとて同じだろう。

 お宝が誘い水と言うのなら、ナザレの居た裏口の方にも人員を割いて然るべきだ。

 俺やマーレがいるならいざ知らず、正門に居た兵士の半分でも回されれば、さしものナザレといえど無傷というわけにもいかない。

 勇者パーティーがヤツの計画の障害だというのなら、ナザレとてその範疇だろう。

 実際、マーレはものの見事に捕らえられている()。

 こちらの一連の動きを把握しながら、ナザレを泳がせた理由は何か……。

 いずれにせよ、現状何かを判断するにはあまりにも情報が足りない。

 

「なるほど……。まぁよく分からんが、少なくとも宝玉については奪われることが前提だったってことか?」


 俺がそう聞くと、シャロは黙って首を縦に振る。


「……そういうことだと思う。だから騙すためってより、何か()()()のことがあって、慌てて本物をどこかに隠したっていう方がしっくりくる」

「予想外の出来事、ねぇ……。つーか、ナザレ。ソレってなんてアイテムなんだ?」

「そんなん聞いてどうすんだよ……」


 ナザレは顔を伏せたまま、一切体勢を変えることなく応える。


「『邪光のアレキサンドライト』の例があんだろ。偽物なのはいいが、()()()()じゃなかったらどうすんだよ。その辺は、鑑定で何て出たんだ?」

「何も出なかった……。だからタダの石なんじゃね? 知らんけど」


 ナザレは、なおも顔を下げたまま応えた。

 するとシャロは何かに気付いたのか、突如血相を変えてナザレに向き直る。


「ね、ねぇ、ナザレ! 今ってその偽物、持ってたりしない!?」

「ん? あんぞ。ほらよ」


 ナザレはそう言って、俺を挟んで隣りのシャロに、小指程の大きさの宝玉を投げ渡す。

 シャロはあたふたとしながらも、それを受け取る。

 彼女は掌の上で、薄暗く藍色に発光するソレを一頻り眺めると、『やっぱり……』と力なく呟く。


「なんだ? どうした?」


 俺の問いかけに、シャロは何を応えるでもなく、その顔面をただただ青白くさせるのだった。

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