クズとカルトは親和性が高い
「そんで……、マッチポンプの次はカルト? コリッツの連中に飽き足らず、一般庶民からも搾り取ってやろうって? 何? アンタ、次の魔王の座でも狙ってるの?」
ある日の昼下がり。
本来の役割も碌に果たせず、差し詰め勇者パーティーの集会所へと成り果てた冒険者ギルド。
今日も今日とて、依頼はおろか冒険者の陰一つない。
もちろん、金もない。
何もない。
あるものといえば、無事に大団円を迎えるはずだった先の一件に水を差し、スタンドプレーに走った俺に向けられる仲間 (主にラムラ)からの軽蔑の眼差しくらいだ。
無論、何もないなら何かしらの生産活動を行うべきなのだが、生憎『先行投資だ』といって、徒に資材を浪費できる状況ではない。
だからこそ、慎重に次の一手を見据えるべく、こうして『第二回・勇者的マッチポンプで大儲け大作戦! 戦略会議』を開催しているワケなのだが……。
卓上の向こう側から、皮肉たっぷりに溢すラムラのしかめ面を見るに、やはり先の俺の行動に一物も二物も抱えているようだ。
「……だから言ってんだろ? 既存の魔族のイメージは、三大魔神官の連中が意図的に植え付けたものだってな。お前のその言い草は、魔族に失礼だ。ラアトが言うには、俺みたいな輩と同類にされること自体、屈辱なんだってよ」
「そうね。アタシが全面的に間違ってた。早急に訂正するわ」
「……そんなに急がなくてもいいぞ」
同じパーティーのよしみで、少しばかりは俺の側に立ってくれるかと思ったが、淡い期待だったようだ。
無駄に卑屈な物言いで彼女を試したことを、俺は軽く後悔した。
だが、そうセンチになってもいられない。
コリッツの隠し財産に加え、ヘルツのオッサンから報奨金を踏んだくったのはいいが、そのほぼ全額が元本と利息の返済に消えてしまった。
焼け石に水……、とまでは言わないが、根本的に何かが変わったかと言えばそこまでには至っていない。
つくづく、俺がこの三年間で積み上げてきたものの大きさを思い知らされる。
これで少しばかり生活が楽になるかと期待していなかったでもないが、まぁ所詮はあぶく銭だ。
今後しばらく続いていく勇者人生に向けての戒めと思えば、多少の慰めにはなる。
それに……、新たな『金のなる木』はすくすくと育ちつつある。
「てかさ〜、サマりん。シャロちゃんのこと、勝手に女神様にしちゃったみたいだけど大丈夫〜? 面白いけど、一神教に神様追加するとか流石に攻め過ぎじゃない? ここまで派手なコトしたら、皇国も黙ってないと思うけどな〜」
「そうよ! こんなん本家から見たら、邪教でしかないじゃないっ! 皇国の耳に入ったら、宗教戦争になるわよ!?」
確かにマーレとラムラの言うことは、反論の余地のない正論だ。
しかし彼女たちは一つ、重要なことを見落としている。
事あるゴトに正気を疑われる俺だが、基本的に小心者なのだ。
そんな俺が何の勝算も持たずに、このような暴挙に出るだろうか(結果はともかく)。
ましてや、このギリギリの現状において、敢えて自らストレスの種を増やしに行くほど、当方イカれた勇者ではない。
とは言え、二人の懸念を軽く見ているわけではない。
勇者パーティーと言えど、所詮は人間の寄せ集めだ。
こういった小さな認識のズレを放っておくと、徐々にその亀裂は広がっていき、やがては熟年離婚に至る夫婦のように、修復不可能な歪みへと発展しかねない。
現時点で二人に飛ばれたら、俺は確実に詰む。
よって、ココは一つ一つ丁寧に。
彼女たちの不安を払拭していく必要がある。
「マーレ、違うぞ。そうじゃない。飽くまで、『代弁者』だ。ココ、重要だぞ? ソコが熱心なエチェド信者どもの地雷を掻い潜るための、言い逃れの余地なんだからな!」
「聞けば聞くほど、カルトしぐさだね〜」
マーレは他人事スタンスを崩さずに、しみじみとそう溢す。
「あとな、ラムラ。俺が何の考えもなしに、こんな無謀な真似するわけねぇだろ。勝算なら常にある」
「勝算、ねぇ……。金絡みのアンタが言うと、説得力の欠片もないわね。でもまぁ一応聞かせてもらおうじゃない。アンタの言う勝算ってヤツを」
ラムラはそう憎まれ口を叩きつつ、腕を組んでふんぞり返り、傾聴の姿勢を取る。
「……そもそもだ。ジフリンに限らず、ハバドは土着の精霊信仰こそあるものの、事実上の無神国家と言っていい。そういう背景もあるから、元々カルトに付け込まれやすい土壌があんだよ。実際、連邦内ではその手のワケの分からん宗教が跳梁跋扈している状態だ。今更、新興カルトの一つや二つ増えたところで何も変わらん」
「カルトであることは認めるのね……。でもだからってねっ! 勇者のアンタが推してるってところが問題なんでしょうがっ!」
「そこら辺も問題ない。まずはコレを見てくれ」
俺はそう言って、彼女たちに一枚の紙を差し出す。
「何さ、コレ……」
ラムラはそう呟きながら、訝しげにそれを覗き込む。
「現地の責任者と交わした覚書……、みたいなモンの原本だ。『ジフリン派』の大まかな基本原則について書かれている」
「どれどれ〜。えーっと……、『当派はエチェド教の教義をもとに、公国由来の精霊信仰から派生したものとする。したがって、日々の教団運営については、現地の総責任者の裁量に委ねるものとする。なお総責任者については名義上の創始者も兼任し、その活動の一切の責任を負うこと』……。ま、丸投げ!?」
マーレは新しいおもちゃを見つけた子供のような顔でそれを読み上げると、その内容に仰天する。
「そうだ。それに加えて布施の送金先は、全て『シャロ』の名義になっている。カタチとしては、『シャロ』なる謎の人物の気まぐれで、小遣いを受け取っているだけだ。だから教団との関係を問われても、知らぬ存ぜぬで通せばいい。万が一送金先を洗われたところで、そもそも『シャロ』なんて人物は初めから存在しないからな。存在していない人間との関係なぞ追及しようがない」
「確かに……。ココには、サマりんの名前はどこにも書いてないね〜。でも言われてみれば、サマりんってジフリンの人たちの前で演説しただけだよね?」
「そうだ! いいか? 俺はただ、『唯一神の代弁者がいるかもしれない』と、可能性を提示しただけに過ぎない。だからこの先何があろうと、ジフリンの連中の自己責任だ!」
「何ていうか、アンタ……。信者の代わりにアタシが言っておくわ。サマリア、地獄に堕ちなさい」
「……だから心配すんな。(借金)地獄にはもう堕ちている」
俺がそう言うと、ラムラは一層軽蔑の色を鮮明にする。
「てかシャロはいいの!? アンタ、サマリアにウマいこと利用されてんのよ!?」
そう言って、ラムラは本件の最大の功労者かつ被害者であるシャロの方を向く。
二人の懸念を他所に、彼女は幸せようにラムラが拵えた料理に舌鼓を打っていた。
「あたし? サマリアがド屑だなんて今に始まった話じゃないじゃん。サマリアのことだから、どうせ上手くいかずにすぐ終わるだろうし」
シャロは食事の手を止めることなく、心底どうでも良さそうに応える。
「おぉ! 良くぞ言ったシャロ! 一言、二言多かった気がしないでもないが、物分りの良さは流石だな」
「それにさ、二人とも。ソレ、最後までよく読んでみて」
シャロがそう促すと、ラムラとマーレは再び紙に目を落とす。
「ナニナニ〜。『布施の上限は、世帯年収の10分の1までとする。それを超える受領が確認された際は、超過分を速やかに納付者へ返還しなければならない。なお布施の納付は、信徒各個人の自由意思に基づくことを大原則とし、取り立て・差し押さえ、及びそれに準ずる行為については如何なる事由があろうと認めてはならない』っと……。なるほど〜。カルトにしては良心的だね〜」
「まだその先もあるわ! えーっと……、『以上の諸原則を守りし、ジフリンの民には、唯一神及び皇国の勇者による、恒久的な静謐が約束されるであろう』だって!」
「要するにジフリンの人たちは、格安でサマリアのセキュリティーサービスが受けられるってこと。クズだけど、結局悪者に成り切れないのがサマリアの良いところ」
シャロはそう言って、俺に対して柔和に微笑みかけてくる。
それに絆されるように、ラムラとマーレも何ともいい難い生温い視線を浴びせてくる。
俺はソレに耐えられず、ぷいと顔を背けた。




