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結局最後に持っていくのは、若くて顔の良い女②

「ったく……。お前はどうしてそう、俺をロリコンにしたがるんだよ。あと一応言っておくが、シャロは俺たちより歳上だ」

「サマリア。わざわざ言わなくていい」


 俺の粗相に対し、シャロはぷいと顔を上げ、恨めしそうな目で言う。

  

「そ、そういや、お前はこの先どうするんだ?」


 そこはかとない居心地の悪さを誤魔化すため、俺はラアトに一つの疑問をぶつける。


「私か? さぁ。どうかな。このまま人族に紛れ、暮らすことも出来ようが……。それは流石に良心が痛む。どんな道理であれ、私が彼らを追い詰めたのは事実だ」


「そりゃあ、殊勝な心がけだ。欲を言えば、その良心をもう少し早く発揮して欲しかったところだけどな」


「ふっ。減らず口を。大体、それでは貴様が困るのであろう」


「……よく分かってんじゃねぇか。でも実際のところどうすんだ?」


「分からぬ……。主に背き、彼らの呪詛を解いた私は、紛うことなき背信者だ。もはや今の私には、人族側にも魔族側にも居場所はない。全く……。情けない話だが」


 ラアトは自虐気味に笑い、遠い目でそう溢す。

 これまでの魔族のイメージが三大魔神官のよるプロパガンダなのだとすれば、この男もまた、その風評を受けた被害者だ。

 実際、この一件に関して言えば、ラアトは人族の側に立ってくれたワケである。

 そんな彼のことを、『背信者』などと蔑む資格が誰にあろうか。

 少なくとも、名実ともに『背信者』たる俺だけにはない。 

 恩情というほど大それたものではないが、路頭に迷う目の前の男に一つ、選択肢を提示してやるとしよう。


「なぁ……、もしアレだったらアバドの眷属になったらどうだ? ほら。俺だったらアイツの弱みも握ってるし、話を通してやることも出来るぞ」


 居場所がないとは言うが、この男とて生活がある。

 残りの魔神官がそこに付け込み、再びラアトを引き込みに動く可能性もゼロではない。

 もちろん、ラアトがそれを良しとするとは思えないが、リスクは最小限に留めておくに越したことはない。

 よってこの場で俺の取れる最適解は、今日の礼に託つけた『抱き込み』だろう。

 ちょうど、連中の監視要員も欲しかったところだ。


 そんな、俺の皮算用など知る由もなく、ラアトは俺の提案に目を刮目し、沈黙する。


「……皇国の勇者よ。貴様に聞くのもおかしな話だが、女魔帝とは一体どういったお方なのだ? 魔王軍に入ってからというもの、ずっと主の元に居たゆえ、分からぬのだ」


 ラアトはようやく口を開くも、その視線は俺を捉えてはいなかった。


「アバドか? そうだな……。基本は、大義だの何だのうるさい真面目なヤツだよ。だがその一方で、自分に都合の悪い部下をどさくさ紛れに切り捨てようとしたり、可愛い可愛い妹のためなら詐欺行為も厭わなかったりで、ダブスタも激しい。だから何つぅか……、一言で言やぁ、そこらの人間よりよっぽど人間らしいな」


「はっはっはっ! 何だそれは! 『殺戮の女魔帝』とは、程遠い御仁ではないか! だがそのくらいの方が、今の私にはお似合いなのかもしれないな……」


 ラアトは豪快に笑ってそう言うと、再び遠い目を浮かべる。


「じゃあ……、そういうことでいいんだな?」


「あぁ、宜しく頼む。それにしても、まさか勇者の貴様から再就職先を斡旋されるとは思わなんだぞ」


「そりゃお互い様だろ。まぁ、あの魔王様のことだ。いくら三大魔神官の元臣下つっても、面と向かって忠誠の一つも誓えば邪険には扱わないはずだ」


「そうか……。貴様は女魔帝のコトをよく知っているのだな」


「……腐っても、共同戦線張ってるパートナーだからな。()付けた相手の人格くらい把握しておくのは当然だろ? まぁ細かいことは気にすんな! そうでなくともコッチは、目に入れても痛くない妹を人質に取ってんだ。アイツがお前を売るような真似をする可能性は、万に一つもない。そもそも俺が居る限り、アイツに選択肢なんてないんだ。な? シャロ」


 俺はそう言いながら、シャロをちらりと横目で見る。

 シャロはそれにコクリと頷いて、応える。

 その様子を見て、ラアトはまたクスリとほくそ笑む。


「本当に……、勇者とは思えんゴロツキのような輩だ。そこの小娘も、さぞ苦労しているのだろう」


「正真正銘のゴロツキと結託してたお前らには言われたくないけどな……。あと、コイツはもうお前の直属の上司の妹になるんだ。口の利き方には気をつけろ」


「ふっ。そうであったな。であれば、是非もなし……。シェオル様。先程までの御無礼、どうかお許し下さい。あなた様の姉君に身命を賭してお仕えする旨、ここに御誓い申し上げます」


 ラアトはそう言って、シャロの前に跪き、深々と頭を垂れる。

 シャロはそんな彼を前に、先程までの()()()も忘れ、キョロキョロと辺りを見渡して恐縮する。


「う、うん……。よろしく! お姉ちゃんのこと、助けてあげてね!」


 シャロがそう言うと、ラアトは何を言うでもなく一層頭を下げる。


「……いや、あのお二人さん? そういう改まったのは、後日ゆっくりやってもらえます? もうじき、ジフリン軍の第二陣も到着する。ソコには、ココの領主のヘルツのオッサンもいるって話だ。分かんだろ? お前がココにいると色々とまずいんだよ」


 俺がそう言うや否や、中庭に続く入り口の方から、けたたましい声が鳴り響いてくる。


「コ、コレはっ! 一体、全体どうなっているというのだ!?」


「ほれ、言わんこっちゃない……。ラアト。悪いが、今日のところは引き上げてくれ。また連絡する」

「あぁ、そうさせてもらう。皇国の勇者よ。あまり無茶をして、シェオル様を困らせるなよ。シェオル様にもしもの事もあれば、私は貴様を許さぬ」

「ちっ。早速、忠義ヅラかよ。言っとくが、いくらコイツに媚び売ったところで、お前の実質的なオーナーは俺だからな? いいから、とっとと行った行った!」


 俺が舌打ち混じりでそう言うと、ラアトはニヤリと不敵にほくそ笑み、ジフリンの人々を横目に足早に走り去っていく。

 ……結果的にだが、ラアトの忠告は、壮大な()()となってしまうだろう。

 なんせシャロには、これから少しばかり()()()()()()を担ってもらうことになるのだから。


 その後間もなく、ツェフリーム城からやって来た援軍たちが、入り口の方から続々と姿を現す。

 先頭を切って現れたのは、一人の屈強な壮年の戦士だった。


「貴殿は……、ヘルツ殿か?」


 噂には聞いたことがある。

 貴族でありながら、自ら戦場に乗り込み、バッタバッタと敵をなぎ倒すその様から、『ハバドの鬼公卿』と諸国から畏怖されているらしい。

 顔中に帯びた傷。

 それを覆い隠すかのように蓄えられた髭や、無造作のミディアムヘア。

 加えて、全身を覆う重厚な漆黒の甲冑、巨大な十字剣、紅のマント。

 その歴戦の証と無骨な装いは、おおよそやんごとなき身分には似つかわしくない。

 誰とは言わないが、そこらの戦士よりよほど戦士らしいと思ってしまった。


 中庭に入ってきた当初こそ訝しげな顔をしていたが、現金なものだ。

 遠巻きで俺の姿を確認するなり、燦々とした笑みを浮かべて近付いてくる。

 概ね、この場に俺がいることの意味を察したのだろう。


「如何にも! 勇者サマリア殿! 此度は遠路遥々、援軍に駆け付けて下さり、全く御礼の申しようもございませぬっ!」


 ヘルツは握りつぶすかのような勢いで俺の手を取りながら、感謝の念を告げてくる。

 目と鼻の先に居ながら、耳が劈けんばかりのボリュームで話すこの男には、勇者の俺といえども尻込みを覚える。


 いや、本当に。

 呪詛とか抜きに、これがジフリン国民の平常運転なのではないか。

 一瞬そんな懸念が頭を掠めたが、俺は慌ててソレを押し止める。

 きっと、その邪推は互いの友好のためにならない。

 飽くまで俺たちの()は、魔王アバドなのである()。


「い、いやいや! これも勇者の責務ゆえお気になさるな。そ、そんなことより、ヘルツ殿! 此度の公国の勝利、心よりお祝い申し上げる! このサマリア、ジフリンの民の勇猛さにはただただ敬服するばかりであった!」


「な、何をおっしゃいますか! コレもひとえにサマリア殿のご尽力があってこそのもの!」


 よし。

 良い会話の流れだ。

 ここからの展開次第で、この逼迫した生活が一変する可能性がある。


「……ヘルツ殿、本当にそうお思いか?」

「はい? もちろん、そう思っておりますが……」


 ヘルツはキョトンとした顔で、俺の質問に応える。


「その件について。ヘルツ殿に、お目通りいただきたい御仁が居るのだ」


 俺は咳払いをしつつ、シャロの手を取り、ヘルツの前に差し出す。


「コチラのシャロ様は、唯一神・エチェドの使いにして、我が勇者パーティーの最大の後ろ盾。実のところ、此度の援軍についてはこの御仁の崇高なる()()()により駆け付けた次第。シャロ様は、魔王アバドの侵攻を事前に予言され、勇者の私にいち早く伝えて下さったのだ」


「な、なんとっ!? さようでございましたかっ!? 皆の者! コチラの御方に(つむり)を下げよ!」


 ヘルツはそう号令し、勢いのままシャロの前に膝を屈する。

 それに合わせて、ジフリン兵たちも深くひれ伏す。

 

「それだけではない! 魔王軍が放った忌々しき呪詛からジフリンの民を解放したのは他でもない、コチラの御方である! 皆の衆! 道をあけられよ!」


 俺は高らかにそう言い放つと、シャロの手を引いて、中央の噴水の方へと向かう。


 ……コレだ。

 これこそが俺が(かね)てより描いていた構図だ。

 一連の騒動の発端をシャロに擦り付けることで、俺の『フライング援軍』の一件を煙に巻くことに成功した。

 これで、俺自身への疑いの目は避けられるだろう。


 だが、これで終わりではない!

 本当に肝心なのは、ココからである。


「ジフリンの民よ! 今の話、しかと聞かれたであろう! 周知の通り、唯一神・エチェドは縁の薄い地の民族にも慈悲を与えて下さる、懐の深い大御神なのである! その神託を唯一代弁することを許されたのが、コチラのシャロ様なのだ! この御方の加護がある限り、()()()()()ジフリンの地の安寧は約束されたものと心得よ!」


「おぉ……。やはりあなたは救いの女神様でありましたか!」


「シャーロ! シャーロ! シャーロ!」


 今ココに。

 新興宗教『エチェド教・ジフリン派』が爆誕した。

 無論これは決して、『どさくさ紛れにカルト教団を立ち上げて、人々から布施を掠め取ってやろう』などという邪悪極まりない、唾棄すべき浅はかな魂胆からのものではない。

 ジフリンの民が、恒久的かつ平和的に救われる、唯一にして最良の道を提示したまでに過ぎない。


 実際問題、単純にジフリン限定で平和安全宣言をするとなると、『ジフリンみたいな小国が大丈夫ならウチらも大丈夫っしょ? だってウチら同じ連邦じゃん! ずっ友じゃん!』といった具合に、武装解除ドミノが各地で起こりかねない。

 周辺諸国には、『カルトのお花畑連中が何か寝言ほざいてらぁw』くらいの認識でいてもらった方が、俺としては安全なのである。

 よって、くれぐれも強調しておくが、布施云々は飽くまで『副産物』であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 ……だからシャロ。そんな目で見てくれるな。


 何はともあれ、俺の『悪あがき』第一幕は、目の前の小さな女神を称えるシュプレヒコールとともに終わりを告げた。

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