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結局最後に持っていくのは、若くて顔の良い女①

 砦の消火活動を終え、中庭に戻る頃には、ラアトによるジフリンの人々の誘導も終わっていた。

 俺とマーレは、シャロの晴れ姿を一目見ようと持ち前の親心()を発揮し、彼女の居る中央の噴水を目視できる木陰に陣取る。

 ふと、その足元に目をやると、ラアトの呪詛を受けたラムラと厭世の氷刃たちが死んだように眠っていた。

 恐らく、シャロの魔法の影響を考慮し、ラアトの配慮によって移動させられたのだろう。

 つくづく律儀なヤツだ。


 向こう岸から目を凝らすと、噴水の縁に立つシャロを取り囲むように、ジフリンの人々が整列している。

 ラアト曰く、『混濁』の念は解けているようだが、依然として無意識状態は続いているようで、さながら夢遊病罹患者のようにフラフラとその身を揺らし、彼女の()()を待っていた。

 

 シャロは目を瞑り両腕を掲げると、じんわりと、淡い白色の光を全身に帯びていく。

 やがてその神秘的とも言える輝きは球状となり、ゆっくりと彼女の元から離れ、ジフリンの人々を包み込む。

 形容するなら、『荘厳』の一言だった。

 彼女のその様には、伝承もあながち嘘ではないと思えるだけの説得力がある。


「ん、あれ? 私……」

「……オレ、魔王軍の追撃に向かったんじゃ」


 その光を浴びた人々は、順次正気を取り戻していく。

 どうやらラアトの懸念も、シャロの持つ力の前では意味を為さなかったようだ。


「シャロちゃん、すごい……」


 さしものマーレも、普段の饒舌振りを押し殺し、言葉少なめに目の前の少女に感嘆の声をあげる。


「信じられん……。コレが、『至高』の力だというのか」


 ラアトは背後からそんなことをぼやきながら、俺たちの居る木陰に近付いてくる。

 シャロを眺めるその表情は、驚愕とも感服とも取れるようなものだった。


「……ん? アレ? アタシら、やられたんじゃ」


 非戦闘員を含め、ジフリンの人々が大方正気に戻った頃。

 気を失っていたラムラも、ようやく意識を取り戻す。

 

「……気絶していただけだ。何か後遺症があるとかじゃないよな? ラアト」

「あぁ。そういった類のものはないから安心しろ。皇国の勇者」


 俺とラアトが話すと、事情を知らないラムラは勢いよく立ち上がり、露骨に身構えてみせる。


「ちょっ!? アンタ、何ソイツと気安く話してんのよっ! てかジフリン兵は!? 厭世たちは!?」


 ラムラはそう言って、キョロキョロと周囲を見渡す。

 彼女のこの様子を見れば、よもやシャロがこの一連のゴタゴタのケリを付けたとは思うまい。


「イイから落ち着けっ! みんなマルっと無事だから安心しろ! それとコイツはまぁ……、早い話、敵じゃない」

「はぁ?」


 疑心暗鬼極まるラムラに対し、俺は事の経緯を話した。


「要するに……、アバドたちとは別口で、三大魔神官は動いていた。その内の一人のネベーラ? はウチらの拠点に探りを入れて、サマリアがコリッツに殴り込んでくるように誘導していた、と。そんでもって、ソイツらのやり方に疑問を持っていた眷属のアンタは、サマリアがネベーラを倒すことに賭けて、事態が肥大化する前に呪詛を解きに動いた……、そういうこと?」


「あぁ、そうだ。貴様らを眠らせたのは、被害を最小限に抑えるためだった。すまなかったな」


「そう……。なーんだ! てことは、アタシら完全にピエロじゃん! シャロなんて、何も知らずに巻き込まれちゃってマジで可哀想! 全く関係ないのに」


「……それがそうでもねぇんだよ。なんたって、最終的に呪詛を解いたのはシャロだからな。かくいう俺も、アイツのおかげで命拾いしたんだよ。お前も治癒師として学ぶモンがあるんじゃないか?」


 俺はそう言って、シャロの方を向いて、顎で指示する。


「は? シャロが? マジで?」


 ラムラはそう言って、シャロの方を見る。

 その視線に気付いたシャロは、噴水の縁から飛び降り、俺たちの方へ小走りで向かってくる。


「サマリアー! あたし、ジフリンの人たち治せたよー!」


 無邪気な笑みで手を振りながら、コチラに近付いてくる彼女を見ていると、不思議と心が洗われる。

 きっと、子育てをするとはこういうことなのだろう。

 俺がそんな牧歌的な感傷に浸っていることなぞ知らず、シャロは『撫でろ』と言わんばかりに頭を差し出してくる。


「あぁ! 良くやったぞ、シャロ! お前のおかげで、ヘルツのオッサンに特大の恩を売ることが出来るぞ! ()()()魔族との争いも継続出来そうだし、コリッツの連中の隠し財産も押収出来た。今のところ、言うことナシだ!」


 俺はそう言いながら、得意げに笑う彼女の頭を撫でくり回す。


「何ていうか、シャロ。アンタ、ホントに主人を間違えたわね……」


 シャロはラムラの言葉に構うことなく、さながら猫のように、俺の懐に気持ち良さそうに顔を埋める。

 

「でも、そっか。シャロ、やるじゃん! まさかアンタにそんな力があるなんてね。……は!? ねぇ、てかまさか、サマリア……。『人質』とか何とか言って、それを承知でシャロのこと引き込んだんじゃないでしょうね!? 治癒師のアタシをこのパーティーから追い出すためにっ!」


「言うに事欠いてソレかよ……。そんなアクロバティックな発想、お前に言われなきゃ気付きもしなかったわ。いやマジで」


「ホ、ホントに……? い、いやっ! アタシは騙されないわよ!? 結局、男なんて若い娘がイイのよっ! サマリアだってそうなんでしょ!?」


 目覚めて早々、忙しい女だ。

 何が彼女をそこまで駆り立てるのか。

 彼女のこの屈折した被害妄想を見ていると、怒りで身体が震えてしまう。

 誰だ?

 ラムラをここまで疑心暗鬼にした元凶は(棒)。

 もし、そんなヤツがいるのだとしたら、俺はソイツを決して許したりはしない。

 行き場のない憤り()を抑えつつ、俺はラムラに近付く。


「……言っただろ? 俺にはお前しかいないって」


 俺が耳元でそう溢すと、彼女は『ば、ばか……』と呟き、茹で蛸のように頬を真紅に染める。

 これでいい。

 いや、たぶん良くはない。

 ……だからシャロ。

 そんな汚物を見るような視線をコチラに向けるのは止めなさい。

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