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俺が借金塗れなのはお前らのせい……、だったらどんなに良かったか

「……や、やったの?」


 シャロの放った魔法? がネベーラの呪詛を打ち消したことで、俺は目の前の()()をほぼ秒殺で退けることが出来た。

 シャロはおずおずとした様子で、真っ二つとなったネベーラの身体に近付いていく。


「そ、その小娘だけでも殺せっ!!」


 シャロが近付いてくることが分かると、突如ネベーラの頭部が蠢き、声高に号令する。

 すると、正門広場に犇めくコリッツの私兵1000余りが、ゆらゆらと虚ろにその身体を揺らしながら、一斉にシャロに向かっていく。


「シャロ! 伏せろ! メテオ・フレイム!」


 俺が咄嗟に放った炎は、瞬く間に群衆を焼き尽くし、灰燼に帰す。

 炭化した遺骸を覗き込むと、俺が倒した数騎の私兵と同じように、ことごとく魔族の体貌を現していく。


 そんな彼らを見ていると、人でも魔族でもない、デク人形に近い歪な()()にしか思えなかった。

 事実、ネベーラは『眷属』などと言いながら、いとも容易く彼らを人柱として()()した。

 この男にしてみれば、彼らはただの手駒でしかないのだろう。

 そう思えば、三大魔神官の連中の業は深い。

 ほぼほぼ反社組織とは言え、彼らもまた間違いなくこの三百年に及ぶ諍いの被害者だ。

 いや……、それはこれまで何千という魔族を殺めてきた勇者の俺が言えることではないのだろうが。


「……なぁシャロ。例えばの話なんだが、お前の力でコイツらを治してやることって出来たと思うか?」


 敵とも味方とも知れない、禍々しく山積された遺骸の山を前にそう問いかけると、シャロは大きく首を横に振った。


「たぶんだけど、この人たちは呪いを受けてから時間が経ち過ぎてると思う。だから……、サマリアは気に病まなくても良いんじゃないかな?」


 シャロは、俺の取るに足りない葛藤を嗅ぎ取ったとでも言いたげなセリフを吐く。


「気に病むって……。何で俺がコリッツの連中相手に罪悪感抱かなきゃなんねぇんだよ」


「違うの? 全く。サマリアって何だかんだで優しい……、小心者だよね。さっきは『殲滅する』とか言ってたのに」


「別にわざわざ言い直さなくても良かったんじゃないか……。それに俺は、た・と・え・ば、と言ったはずなんだが。寓話(ぐうわ)を寓話として捉えられないと、この先苦労するぞ?」


「はいはい、そうだね。じゃあ、あたしが代わりに断言するけど、これは間違いなく正当防衛。以上。終わり!」


「正当防衛ねぇ……。お前もそういう詭弁を吐くようになっちまったか……。誰の影響なんだろな」


 白々しくもそう言うと、シャロは楽しそうにクスリと息を漏らす。


「それにしても、やっぱりサマリアって凄いよね。コイツ、歴代魔族の中でも最上位クラスって言われてたのに」


 シャロは、ごろんと地面に打ち捨てられたネベーラの頭部を見下ろしながら、呑気にもそう言う。

 確かに、こうしてまともに勇者然とした力を発揮するのは久方ぶりだ。

 そうだ……。

 本来、俺は()()()()()、良かったはずなのだ。

 勇者の使命など、『魔族を凌駕する力で、世に安寧を齎す』以外何もない。

 それがいつしか、金に追われ、時間に追われ、プレッシャーに追われ……。

 無い商才をひねり出した結果、失敗に失敗を上塗りし、遂には多重債務者に。

 全く……。誰がこうなることを予想しただろうか。

 俺に力を授けたエチェドとて、寝耳に水だろう。

 唯一神だからと、ふんぞり返っているからこうなるのだ。


 シャロの感嘆の声を聞き、そんな勝ち戦に似つかわしくない遣る瀬無さが俺の思考を支配する。

 だが、そもそもの話だ。

 今日一番のお手柄は、間違いなくシャロだろう。


「ナニ、呑気に感動してんだよ。お前の仲間がやられてんだぞ。助けなくていいのか?」

「サマリア、いじわる……。そんなヤツ、仲間じゃない」

「だとよ。言われてんぞ」


 俺がネベーラに向かってそう呼びかけると、ニヤリと不敵にほくそ笑む。

 そのジトリとした視線は、まるでコチラを値踏みするかのようだった。

 こうして、胴と頭が切り離されてもなお意識を保っている辺りは、さすがは三大魔神官の一角といったところか。

 

「ふっ。小娘ふぜいが……。それにしてもサマリア殿。少し勇み足が過ぎたようですね」


 ネベーラは声を掠れさせながらも、持ち前の余裕を崩さずに話す。

 死の淵に居ながら、やたらと虚勢を張りたがるのは魔族の特性なのだろうか。


「……負け惜しみか? 一応聞いてやるが、あんまり気にすんなよ。お前の上司も似たり寄ったりだったからな」


「いえ。そうではありません。先程、あなたは『伝承』について現帝に聞くとおっしゃっていましたが、残念でしたね。あの()()の女魔帝には、預かり知らぬところでしょう。我々としても、決して彼女の耳に入れぬよう努めて参りましたから」


「情報統制してたってワケか? 陰湿なヤツらだな」


「酷い言い草ですね。ですが何分こちらとしても、背に腹は代えられませんからなぁ」


「まぁよく分からんけど、大方その伝承? の真偽が不明なままシャロを放置しておくと、後々お前らの計画の障害になる。だから、何としてもシャロの身柄だけは抑えておきたかった……。そんなところか?」


 その問いかけに、ネベーラは『ほう』と呟き、俺の二の句を待つ。


「だがあのシスコン魔王が、半ば隔離に近いカタチで手元に置いていたからな。いくらお前ら三大魔神官でも、手出しが出来なかった。そこで皇国の勇者に目を付けた、と」


「えっ!? そうなの!?」


 シャロは俺のあまりに突拍子のない話に目を見開き、仰天する。


「あぁそうだ。いずれヴィジュニッツに、エルサ陛下のような傑物が誕生し、俺を見出すことも。そして俺がエチェドの加護を受けるに相応しい力量を持って生まれることも。コイツらは全て見越していたんだ。その上で、ゆくゆくは俺とアバドが繋がるように仕向けた……。何百年も掛けて、周到にな!」


「な、なるほどぉ!」


「……いいか? シャロ。全ては必然だったんだよ……。俺が副業に手を出すことも。多額の借金を背負うことも。全ては、コイツら三大魔神官の連中が仕組んだことだったんだ。そう考えれば、腑に落ちる。なるほどな。俺はまんまと誘導されたってワケか……。なぁそうなんだろ? 頼むからそうだと言ってくれ」


「はい。もちろん違います」


 ネベーラがそう即答すると、シャロは軽蔑含みの冷たい眼差しで俺を見つめてくる。

 やめろ。

 その視線は俺に効く。

 

「ですが、読み自体はいいですね。実際のところ、私も伝承については半信半疑でした。しかし、こうして真偽が明らかになった以上、シェオル様が我らにとって驚異であることは事実。とは言え……、です。『脱魔(だつま)の王』が降臨した以上、いくらでも代案はありますからなぁ。もはや、あの女魔帝もシェオル様もお呼びではありません」


「さっきから、グダグダと……。いくら何でも、負け惜しみにしては尺が長すぎねぇか? それともタダ妄想垂れ流してるだけか? そんで何だ? その『脱魔の王』ってのは」


 俺がそう問いかけると、ネベーラは堪えきれないといった具合に吹き出し、不気味に目を細める。


「そう! まさにそこがあなたの限界! 申しましたでしょう? 我らの目的は、あなた方がココへやって来る以前より達成している、と……。これで確信が持てました。あなたが真理へと辿り着くのは、当分先のようですね。いずれにせよ、私は負けました。それは事実……。あなたは自身に勝利を齎した()()()、感謝しなければなりませんね」


「……あぁ、その通りだ。まさにシャロ()()()()だな」


「いえ、そうではありません。もう一人いるでしょう……」


 そう言って、噴水近くに晒された磔台で、ぐっすりと寝腐るマーレの方を向く。


「あ、あぁ。確かに、そう、かもな! アイツはまぁ……、いつも店を頑張ってくれてるからな。アイツのおかげで今の俺があるようなモンだ、うん。だからそういう言い方も出来なくもない、か? ん?」


「そのご様子……。やはり、何も分かっておられぬようだ。……蛮族の英雄よ。お別れする前に一つ、忠告しておきます。私が施した()()()()()()()()は間もなく、その本分を顕にするでしょう。彼らがその役割を果たせば、ジフリンの実権は我ら魔族が握ったも同然。これが、何を意味するか。あなたは、この先、身を持って、実感、すること、となる、でしょう……」


 ネベーラは意味深にそう溢すと、遂に絶命する。

 するとその瞬間。

 卜リスク砦にいるラムラから、念話が入る。


「おう。どうした? コッチは一応片付いたんだが」


【サマリア! 今スグ来て! 卜リスク砦が落とされそうなの!】

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