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金にならない感謝などゴミ同然

「ココもゼルカに負けず劣らず、閑散としてんな。もはや安心感すらある」


 マーレから溌剌としたSOSを受け、俺たちは早々とチャカヴァの街に辿り着く。

 ……が、一歩足を踏み入れるなり、『国家非常事態宣言』の発布を言い訳に出来るか疑わしいほどに、寒々とした街景色が俺たちを出迎える。

 辺りを見渡せど、通行人の一人もおらず、酒場はおろか宿屋すらも営業している気配はない。

 時折、コリッツの私兵と思しき集団が、本部の屋敷に向かっていくのを見かける程度だ。

 そんな街全体を覆うしみったれた空気は、ゼルカの街に通ずるものがある。

 

 だがそれは、ゼルカのものとは明らかに似て非なるものだ。

 聞いたところによると、この辺り一体は名目上トリスク砦の防衛圏内らしいのだが、実態はコリッツ商会の私兵に依存している部分が大きいようだ。

 そういった背景もあってか、この街では何をするにしてもコリッツの連中のお伺いを立てるのが習わしになっており、領主でさえも彼らに頭が上がらないらしい。

 もはやこれでは、事実上のギャングタウンである。


「……マーレ、ホントに捕まっちゃったのかな?」


 シャロは眉をハの字に下げて聞いてくる。


「らしいな……。アレ以来、念話も繋がらん。恐らくだが、連中にマーレの魔力回線を切られたのかもしれないな。ナザレに関しては……、よく分からん。音信不通だ。さっきからずっと念話にも出ないしな」


「そ、そっか……。じゃあ、尚更早く行かなきゃね」


 シャロはそう言いながらも、顎に手を当て、どこか訝しげな目をしていた。

 俺はそんな彼女を見て、ふと一つの疑問が湧いて出る。


「……あのさ。シャロ。お前って実は強かったりすんのか?」

「え? なんで?」

「いや。ここまでほぼ休憩なしで走らせちまったけど、あんまりバテてなさそうだしな。結構、フィジカルとか強いのかと思って。ほら。アバドも言ってたけど、一応その1等級? ってヤツなんだろ?」


 ここまでシャロのことなど気遣う余裕もなく、勢いのままやって来たが、勇者の俺と伴走できる時点で尋常ではない。

 戦場にシャロを連れて来た時、過保護な姉がやたらとキレ散らかしていたが、アレは身内ゆえのバイアスの可能性がある。

 もしかしたら彼女のポテンシャルには、計り知れないものがあるのかもしれない。

 

「うーん、分かんない……。でも戦うのは苦手、かも」

「そうか……」

「で、でも得意なことは……、ある。苦しそうにしてる人を治す、とか」

「ん? 回復魔法ってことか? ヒール的な?」

「えっと……、たぶん違う。けど、具体的に何かって聞かれたら良くわかんない。ごめん……」

「いや、別に気にすんなよ。聞いてみただけだ。てかそのこと、アバドは知ってんのか?」

「たぶん……、知らないと思う」


 なるほど……。

 シャロの話が事実であれば、存外彼女は我が勇者パーティーのキーパーソンに成り得るのかもしれない。

 もちろん、金儲けという意味でも。


「あ、あのさ……、サマリア! 言い忘れてたんだけどさ……」


 不意にシャロが歩みを止め、随分と改まった様子で呼びかけてくる。


「お姉ちゃんのこと……、殺さないでいてくれてありがとう。あと、あたしのことも」


 シャロは俺の顔を見上げ、何ともお門違いな感謝の念を告げてくる。

 一体、彼女は何のつもりでそんなことを言うのか。

 俺には、皆目見当がつかなかった。


「んだよ、ソレ……。それこそ、意味不明だ。お前、自分の立場分かってんのか? 人質って、『お客様』ってコトじゃねぇからな?」


「それは……、そうなんだけどさ」


「アバドにしたってそうだ。お前もあの場で見てたんだから分かんだろ。俺はお前の姉ちゃんに一方的な都合を押し付けて、魔王としての尊厳を踏みにじった。お前からは恨まれても仕方ないと思ってるよ。大体、アイツ自身も死にたがってただろうが」


「そうかな? お姉ちゃんはきっと、生きたかったんだと思うよ。だってお姉ちゃん、何か楽しそうだったもん。それに……、少なくともあたしはお姉ちゃんが生きててくれて嬉しい」


「……勇者に救われる魔王とか、それこそ悪い冗談だろ」


 シャロの釈然としない話に、どこか誤魔化すようにそう応えた、その時だった。

 淀んだ空気を打ち消すかのように、ナザレから念話が入る。


【おう、サマリア! 生きてるか?】


 ナザレは上機嫌を隠すことなく、言う。

 その意気揚々とした語り口から察するに、よほど()()だったのだろう。

 であれば、俺としても喜ばしい限りなのだが……。


「『生きてるか?』、じゃねぇよ……。念話してんだから出ろよ」


【ワリィワリィ! ちょいと鑑定で忙しかったモンだからな!】


 実際に面など拝まなくとも、そのホクホク顔具合が分かる。

 思えば、コイツがココまで喜びを剥き出しにするのも珍しい。


「……つーか、聞いてねぇのか? マーレのヤツ、捕まったみたいだぞ?」


【は? マジで? コッチには、何も連絡なかったぞ? 今コリッツの隠し金庫みたいなところに居るんだが、何か騒ぎがあったような感じでもないしな】


「はぁ? そうなのか?」


「ね、ねぇサマリア! もしかしたらソレって擬態……、なんじゃないかな?」


 俺とナザレの会話に割って入り、シャロは言う。


「擬態って……。まさか、そのネベーラってヤツの仕業ってことか? 仮りにそうなら、俺とマーレの関係も把握されていることになるが……」


 俺がそう聞くと、シャロはコクリと首を縦に振る。


「……そういうことだと思う。そもそも捕まってるのに、わざわざ連絡してくるのもおかしな話。マーレは、元々コリッツの人たちと付き合いがあった。だからたぶん……、商売の話に見せかけて、マーレたちのことを色々探ってたんじゃないかな?」


「要するに、向こうにとっちゃあマーレを捕まえる必要すらなかったってことか……。てか、ちょっと待てっ!! つーことは、娼館のオーナーが俺だってこともバレてんのかっ!?」


「う、うん。たぶん、そういうことだと思うけど。てかさ……、まず()()なの? マーレの無事とかは?」


 シャロはジト目を浮かべつつ、溜息混じりに聞いてくる。


「い、いやっ! これは違うっ! これは、その……、アレだ。信頼の証みたいなモンだ! そもそも、勇者パーティーの一員であるマーレが、これしきのことで助けが必要になるとも思えんからな。も・ち・ろ・ん、マーレのことだって心配しているぞっ!?」


 取って付けたようにそう弁明すると、シャロは再び深い溜息を吐く。

 自覚はしているが、我ながら清々しい。

 どうやら『負債』というものは、人として失ってはいけないものまで奪い取ってしまうらしい。

 いやはや、()()()()のところで踏みとどまることが出来て、よかったよかった。


【でもよ。それならマーレのヤツはどこに居るんだ?】


「そこなんだよな。そうなってくると、マーレが念話に出ない理由に繋がらないんだよ。……まぁ兎にも角にも、だ。俺はこれからコリッツ本部に乗り込む。お前はすぐにお宝一式を持ち出して、そこから退散しろ」


【お、おう。あんまり無茶すんなよ? シャロもいんだしな】


「……分かってんよ。だがいいかっ!? ナザレにシャロ。これだけは言っておく……。もはやこうなった以上、口封じの意味でも俺は何としても連中を殲滅する! 幸い、魔王のアバドから直接エビデンスとコンセンサスを得た。証拠を捏造するまでもない! 大義名分を盾に、大手を振って奴らを屠れるぞ! さぁ。楽しい楽しいジェノサイドのお時間だ!」


【そ、そうだな……。お前、ホントに気をつけろよ? 今のセリフ、誰かに聞かれてたら一発アウトだからな? ……まぁせいぜい悪人同士潰し合え。それが世のため、人のためだ】


 ナザレはおおよそ味方に投げ掛けるものとは思えない言葉で忠告すると、ぶつりと念話を切った。


「マーレ、大丈夫かな?」


 ナザレとの話が終わるなり、シャロはぼそりと呟く。

 姉のアバドもそうだが、基本的に優しい心根の持ち主らしい。

 そもそも俺たちが持ち得る魔族のイメージなど、ココ数百年のうちに意図的に植え付けられたものだ。

 あまり先入観を持って、彼女たちと向き合うのも良くないのかもしれない。


「……そう心配すんな。さっきも言ったが、アイツだって腐っても勇者パーティーの一員だ。そもそも娼館についても、『勇者との繋がりを明かせない』っていう都合上、仕方なくケツ持ちを雇ってるが、本来だったらそんなモンいらんくらいにアイツは強い」


「そ、そうなんだ……。やっぱりサマリアたちって凄いんだね」


「まさかそれを魔王の妹から言われるとは思わなかったよ……。あとな、シャロ。さっきの話だけどな」


「へっ?」


「お前が俺に感謝するのは勝手だが、生憎コチラはそんなモンは1ミリたりとも望んじゃいない。俺にとっちゃあ、1銅貨にもならん感謝の念などゴミ同然だ。そんなことより、お前はお前の出来ることを最大限やれ。差し当たってはそのよく分からん、癒やしのスキル? とやらで精一杯ご奉仕するんだな」


「ふふ。サマリア。何かその言い方、いやらしいよ」


「……深読みすんな。確かに言い方はちょっとマズったが、別段他意はない。どうやら、お前らはどうしても俺にロリコンレッテルを貼りたいようだな。ラムラの影響か? 今後、あの女とは付き合い方を考えるように」


 すると、シャロは『はいはい』と言い、俺の忠告を軽く受け流した。

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