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魔族にだって色々ある

「三大魔神官……。やっぱり、そうなのかよ」


【あぁ。物見(ものみ)から連絡があったのだ。ジフリン兵の様子がどうにもおかしいとな。もしやと思い、奴らの中に眷属を紛れ込ませ、事の次第を調べさせていたのだが、案の定だった……。敵兵の一人に、彼奴(きゃつ)の眷属が擬態しておったわ。概ね、そやつが味方に強化効果付きの混濁系の呪詛を施しておったのだろう。道理で、人族にしては骨があるはずだ】


「……コリッツが公国に差し出した私兵の中に、魔族が紛れていたってことか? えっ、てかお前らの擬態ってそんな簡単にバレるモンなの?」


【……案ずるな。シェオルの擬態が、下々の魔族どもに看破されることはない。擬態を見抜くには、それ()()()等級であることが必要条件だ】


 アバドはそう言って、俺の懸念を先回りして潰してくる。

 どうやら彼女の話によると、魔族界では魔王を頂点に、1等級、2等級……といった具合に、血統や能力を基準にした6段階の階級にランク分けされているらしい。

 そしてその擬態を見抜けるのは、自分より下の等級の魔族に限られるようだ。

 シャロの場合、魔王の妹ということもあって、1等級に分類されているらしく、()()アバド以外には彼女の擬態を看破することは出来ないと言う。

 先程は何も考えず、派手に立ち回ってしまったが、心底安心した。


【それで、だ! 話を戻すぞ……。ネベーラは、連邦方面軍の総大将でもある。()()、そのコリッツ商会なる組織も彼奴が嗾けていたのだろう。そしてコリッツの連中も、まんまとその口車に乗った。何かあっても、『魔族がやった』の一言で済ませられるからな。魔族を後ろ盾にするということは、そういう意味だ。全く……、おかげでこちらもいらぬ風評被害を被ってしまうわ】


 なるほど……。

 確かにアバドの言う通りであれば、戦場で見せたジフリン兵のあの狂気染みた殺気も説明がつく。

 とは言え、だ。

 アバドのその言い様には、どうにも違和感が拭えない。


「……なぁ。さっきからずっと思ってたんだが、どうしてそんなに情報がアヤフヤなんだ? 『委任』してるつっても、魔王はアバドだろ? そのお前がどうして部下の動きを把握してないんだよ? その、三大魔神官の連中が消息を絶ったってのもよく分からんし」


【むっ。耳の痛いことを言いよるわい……。これは遺憾ではあるのだが、一言でいえば、我らも一枚岩ではないということだな。お主も知ってるとは思うが、魔族は父系社会だ。元より、我のことをよく思わない者も多い。シェエルに関しても同じだ」


「そ、そうか……。魔族にも色々とあんだな」


【うむ。特に、ココ300年はそうだな。殊更、三大魔神官の連中は保守的……、いや設計主義的なヤツらだ。内心、我のことを苦々しく思っておるのだろう。実際、あやつらとは折り合いも悪く、意見が対立することも多かった。ネベーラとて、その例外ではない】


「でもそれなら、納得だな。お前らが()()原因は、俺だけじゃないってのは」


【お主……。物には言い方というものがあろう!? だがまぁ……、要するにそういうことだ。元より、我ら魔族は人間どもとの戦いのために、部隊を四つに分け、編成しておった。一つは、我の直轄軍。他は、ネベーラたち三大魔神官が、各方面軍をそれぞれ指揮しておる。そもそもの話として、我が直々に動かせる兵は決して多くないのだよ】


 なるほどな……。

 そうなると、ベルチの向かいの島への侵攻も、そいつらが絡んでると見るのが妥当だろう。

 アバドの信念から考えても、彼女がこの一件に噛んでいないというのも頷ける。


 だが彼女の話には、依然として解せないことも多い。

 連邦離脱派であるジフリンの国家転覆が目的なら、コリッツを介さずとも事足りるはずだ。

 わざわざ連中を噛ませるからには、何かしら理由があるのだろう。

 そもそも噂ベースとは言え、『コリッツ商会が魔族と繋がりがある』などといった情報が、公に広まっているのもおかしな話だ。

 仮にも幹部クラスの魔族が、そんな凡ミスを犯すとは考えづらい。

 何か意図があって、敢えて疑惑を垂れ流しているのだとしたら、きな臭いどころの話ではない。


 とは言え、どこかシンパシーに近いものを感じてしまうのも、また事実だ。

 むしろ、既視感すら覚える。

 今の話を丸々ヴィジュニッツに置き換えたとしても、別段違和感はないだろう。

 であればアバドは差し詰め、俺たちで言うところのエルサ陛下か。

 ここまで聞いて、ふとそんな不敬極まりないことを考えてしまった。

 

「……まぁいずれにしても、お前の話が事実なら、証拠探しも証拠()()もする手間が省けて助かるな。ネベーラ? とかいうヤツは始末することになりそうだが、お前としては大丈夫か?」


【致し方あるまい。これも世の習い、時世の流れだ。むしろ我としても、事実上戦力として機能しない、目の上のたんこぶを排除出来るのであれば願ったり叶ったりだ】


「お前がそこまで言うのは珍しいな」


【確かにそうかもな……。だがな。我とて許せないことはあるのだ。あやつらはシェオルを……、いや。これ以上は言うまい。そうだ! 勇者サマリアよ。何なら、我も加勢するか?】


「……冗談言うな。どこの誰が見てるかも分からんのに」


【ふっ。それもそうか。だがあまりネベーラを甘く見るなよ。彼奴は魔族随一の呪術の使い手だ。そんなヤツを相手に、お主のエチェドの加護がどこまで通用するか。見ものだな】


 アバドはそう不穏な一言を残し、念話を切った。


「……ふぅ。シャロ、悪いが先を急ぐぞ。どうやら、想像以上に拗れてるみたいだからな。色々と」

「え? う、うん……。お姉ちゃん、大丈夫かな」


 シャロはそう言うと、いたたまれないといった様子で目を伏せる。

 今のアバドの話といえ、先のシャロの意味深な言葉もそうだが、やはり彼女たちと三大魔神官との因縁は、生半可なものではないのだろう。


 そんなことを考えていた矢先、マーレから念話が入る。

 ジフリンの連中に(かま)けてすっかり忘れていたが、彼女たちは首尾よくいっているのだろうか。

 彼女たちにも……、特にマーレには事の次第を伝えねばなるまい。


「……ん。マーレか?」


【あっ。サマりん? ソッチは順調?】


 念話越しのマーレは、普段見せる朗らかな雰囲気だった。

 耳奥を擽るような猫なで声も健在である。


「……あぁ。俺たちも、もうじきチャカヴァに着きそうだ。つーか、マーレ。お前に伝えておくことが」


【あっ! ねぇてか、サマりん! 聞いてよ!】


 マーレは俺の言葉を遮り、そう切り出す。

 そして……。


【捕まっちった。てへっ!】

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