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頭のおかしい人たちとは距離を置こう

「ジフリンの民も中々にやりおるわい……。皆の者! 目的(?)は果たされた! もはや、これ以上の諍いは無用である! 堂々と、我が里へ凱旋しようぞ!」


 交戦が始まり、小一時間程が経過した頃。

 アバドは眷属たちに向け、声高に号令する。

 するとアバド軍は早々と隊列を整え、コリッツ商会の本部のある街に向けて、引き返していく。

 彼女が『目的』などと意味不明で不用意な言葉を口走ったこと以外は、概ね打ち合わせ通りだ。


「勇者様! 魔王軍が退却していきます! 今こそ、我らの底力を見せつける時です! さぁ! ご決断を!」


 アバドたちが退却するや否や、傍らにいたジフリン兵の一人が威勢よく言い放つ。

 案の定、ジフリンの連中はアバドが不意に放った言葉を気に留める様子はない。

 それどころか目を血走らせ、ここぞとばかりに調子の良いことを宣い、追撃を進言する始末である。

 

「……よし! ジフリンの民よ! よく聞かれよ! これより先は、我らの任なり! このサマリア。勇者の名に懸け、必ずや魔王の素っ首を刎ねて見せよう! 案ずるな! 諸君らの働き、必ずやヘルツ公爵殿に直訴すると約束しよう! 分かれば、各々方! 大船に乗ったつもりで、トリスク砦まで戻られるがよい!」


「な、何をおっしゃいますか、勇者様! 魔王ごとき、我らが血祭りにあげ、その脳髄と腸を引き摺りだし、今宵の勇者様の酒宴の肴にして差し上げましょう! 皆の者! 勇者様に遅れを取るな!」


「おーーーーーーーーーーっ!!!」 


 いや、恐いから。普通に引くから。

 何食ったら、そんな残忍な発想生まれんだよ。

 この血の気の多さは国民性なのか。

 それとも、単純に魔王軍と戦ってアドレナリン出てるだけ?

 他所者ながら、彼らの行く末を案じてしまう。

 ホントにどっちが魔族(ry。


「いやいやいやいや待て待て待て待てっ!!! マ・ジ・で! 俺たちだけでいいからっ! ココカラサキ、トテモキケン。ココカラサキ、オレノシゴト。OK?」


「おぉ、勇者様……。あなたと言う御人は、どこまでも奥ゆかしく、我々民草のこと慮って下さる聖君であらせられる……。皆の者! 勇者様に遅れを取るな!」


「おーーーーーーーーーーっ!!!」 


 ダメだ。

 話が通じる気配がない。

 ホントにこの国、大丈夫か?

 しかし、このままではマズい。

 証拠の有無の確認、ないし捏造する前に、彼らとコリッツの連中を鉢合わせさせるのは、リスクしかない。

 それに何より、俺都合で始まったこの戦に、これ以上彼らを巻き込むのは流石にアレだ……、うん。普通に良心が痛む。

 よってココは飽くまで、穏便に。

 彼らの想いを無碍にしないよう、最大限に配慮した対応が求められる。


「だーかーらっ! 俺とシャロだけで良いっつってんだろっ! いいかっ!? 次振り向いた時に後ろに居たら、ヘルツのオッサンにあることないこと吹き込んでやるからなっ!?」


「そ、そんなぁ……。ゆ、勇者様ぁ……」


 俺はシャロの手を取り、半ば逃げるカタチで陣地を後にする。

 その後、俺の熱心なファン()、および突如舞い降りた小さな女神に魅せられたロリコン……もといエチェド教徒の鑑()数名が、制止を振り切り追いかけて来たが、シャロが擬態魔法を駆使し、何とか追手を撒くことに成功した。




 ジフリン兵から逃れること、数十分。

 俺たちは卜リスク砦の南の外れにある森の奥地にまでやってきた。

 しつこい連中だったが、ここまで来ればあともう一息だ。

 コリッツ商会の本部は、この森の抜けた先、チャカヴァの街にある。


 辺りから彼らの気配が消えたのが分かると、俺とシャロは何を合図するでもなく、自然と立ち止まった。

 膝に手を置き、息も絶え絶えになりながら、俺たちは目を見合わせる。

 すると安堵のあまり、二人して天を仰いだ。


「……ココまで来りゃもう大丈夫だろ。シャロ、ありがとな。助かったよ」

「う、うん。あの人たち、怖かった……」

 

 ……それにしてもジフリン兵には、度肝を抜かれる。

 序盤こそ、初めて対峙する魔王を前に恐怖していたようだが、徐々にその殺気を顕にしていき、終いにはむしろ魔族たちの方が気圧されているような場面すらあった。

 腐っても、相手は魔族だ。

 本来であれば、生身の人間の集団が2倍程度の戦力でどうこう出来るものではない。

 ましてや、地域国家のたかだか一部隊だ。

 それにも拘らず、どこか鬼気迫るような形相で魔族の群れを威圧する様は、勇者の俺から見ても『人間離れ』していると思えてしまう。

 アバド自身も、冗談半分で『手心を加えろ』と言ってはいたが、実際のところココまで善戦されるとは思ってもいなかっただろう。

 あのまま、戦闘を続けていればどうなっていたか……。

 気味が悪くて考えたくもない。

 アレを、単に『練度が高い』の一言で片付けて良いものだろうか。

 大体、魔王の妹にまで怖がられたら、終わりだろう。色々と。

 ヴィジュニッツとしても、彼らとの付き合い方を考えた方が良いのかもしれない。


 休憩がてら、そんなことを考えていると、アバドから念話が入る。


「……アバド、どうした?」


【ふふん。勇者サマリアよ。見たであろう! 我とて、あれくらいの芝居はやってやれないものではないのだ! シェオルも見ておったか!?】


 念話の向こうのアバドは、妙に上機嫌だった。

 面と向かっていなくとも、一端に何かをやり遂げたかのような得意顔が浮かんでくる。

 この魔王は先ほどまでの茶番に、どれほどの手応えを感じているのだろうか。


「……まぁ一言で言えば、ジフリンの連中がちょっと()()だったことに救われたな。運のイイ奴め」


【そうであろう、そうであろう。コレを機に我の扱いを少しばかり改めても良いのだぞ?】


「……もう何も言うまい。つかお前……。あんまり迂闊なこと言うんじゃねぇよ。何だよ? さっきの『目的』って。ジフリンの連中がスルーしてくれたから良かったが、頼むから発言には慎重になってくれ」


【おう。それはすまなかったな。こちらで内々に進めていた調()()が終わったので、思わず口走ってしもうたわ】


「調査だぁ? まさかお前……、おかしなこと企んでんじゃねぇだろうなぁ?」


【ふっ。心配するな。シェオルがお主のもとにおる以上、我は面従腹背だ】


「それはそれで情けないけどな……。んで、調査って何なんだよ?」


 そう問いかけると、アバドは切り替えるように咳払いをする。


【……結論から言う。お主が話しておったこの一件、三大魔神官の一人・ネベーラが十中八九絡んでおるわ】

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