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シスコン魔王と始める馴れ合い戦

「やぁやぁ我こそは、ヴィジュニッツ皇国が誇る人類最終兵器・勇者サマリアなるぞ! この度、北の友軍を救援すべく、遥か南方より参上した! 気高きジフリンの民に告ぐ! 今こそ民族一丸となり、目の前の災厄を退ける時である!」


「おぉ! 勇者様が応援に駆けつけてくれたぞ!」

「『遥か南方』の割りに、来んの早くね? てか『ウリエルの聖剣』はどうした? 舐めプか?」

「なぁ知ってるか? 勇者って、実は未経験歓迎なんだってよ。仕事も什器の搬入とか、軽作業が中心らしい」


 偶然通り掛かったアバドの軍に、勇者の俺が喧嘩を吹っ掛ける。

 それが、大義だの何だのしつこくゴネるアバドの都合により、変更した点である。

 全ては、奥ゆかしい()魔王の世間体を守るためと思うと少し癪だが、致し方あるまい。


 そうして一足早く、ジフリン兵たちの前に姿を現し、白々しく偉そうな口上を述べた、まではいい。

 だが、素直に感嘆の声をあげる者もいる一方、早すぎる最終兵器()の登場に眉を(ひそ)めるひねくれ者、果ては根も葉もない虚偽情報を吹聴し、勇者の尊厳を貶める愉快犯もいたりと、皆が皆、この突然の事態を受け入れているとは言い難い状況である。

 こうなることなど、端から分かっていた。

 いくら俺が勇者で、今が非常事態と言えど、畑違いの場所で発揮できる権威には限界がある。

 それだけ人の集団心理というものは、一筋縄ではいかないものなのだ。

 大体、什器の搬入が『軽作業』であってたまるか。

 

 だからこそ、『真の最終兵器』の真価を発揮する時である。

 俺は咳払いを交えつつ、俺の陰でブルブルと震え怯えるシャロの首根っこを掴み、群衆の前に引き摺り出す。


「そ・し・て! 此度の援軍は我だけにあらずっ! こちらは主神・エチェドの使いである()()の化身にして、勇者サマリアの最大の後ろ盾! シャロ様であらせられるぞ!」


「おぉ、シャロ様! 有り難や有り難や……」

「いやだから、『唯一神』だって言ってんだろ。勇者様は、エチェド教エアプか?」

「なぁ知ってるか? 勇者は、職業じゃなくて『生き様』なんだってよ。だから、実質無職と変わらないらしい」


 やはり俺の狙い通りだ。

 ハバドは精霊信仰が主流で、エチェド教の布教率は決して高くない。

 他国の国教の教典を、熱心に読み耽ったことのあるマニアックなヤツなどホンの一握りだろうし、そもそもどんな宗教かすら分かっていない人間が大半だ。

 その証拠に、俺が咄嗟に捏造したご都合設定と、シャロが放つ無駄な神々しさを前に、群衆はすっかり浮ついたムードになっている。

 極一部、雰囲気に流されない程度の常識と教養を持ち合わせた小賢しい輩もいるようだが、もはやこうなってしまえば問題ない。

 『腐っても勇者』と、『何だかよく分からんけどそれ以上の権威』が織り成す勢いの前では、整合性の有無などゴミに等しい。

 一度沸き起こったこの大きなうねりは、付け焼き刃の知識でどうこう出来るものではないのだ。

 

 いやはや。

 『勇者』という身分は、何と便利なのだろうか。

 俺を無職扱いしたモブなんぞには、一生そのウマ味など分かるまい。

 悔しかったら、なってみろよ。

 未経験歓迎なんだろ?

 

「刮目せよ! あれに見えるは魔王アバドの本陣なり! 思えば数百年に及び、人類は辛酸を舐めてきたが、それも今日この日を持って終わりだ! 皆の衆! 我らに続け!」


 そう高らかに言い放つと、俺とシャロは城門正面から見えるアバドの軍目掛け、一挙に駆け出す。

 するとジフリン兵たちも歓声をあげながら、俺たちの後を追い始める。




「ぬぬ! お主、随分と早いの……って!? 何故シェオルがおるのだ!? 勇者サマリア! お主、どうしてシェオルをココへ連れてきたっ!?」


 俺とシャロは公国軍の先陣として、早々とアバドの本陣へ辿り着いた。

 だが当の魔王様は、眷属数名と円卓を囲い、優雅にティータイムと洒落込んでいた。

 そしてそれを一切悪びれないばかりか、愛妹の姿を見つけるなり、耳が劈ける勢いで俺を責め立ててくる。

 この魔王は、俺がちょっとばかし良識を弁えた勇者であるのを良いことに、自分の立場を忘れているのではないだろうか。

 彼女とこうして相見えるのは、あの日の決戦()以来だが、当時と比べるとその褐色肌の艶にも磨きが掛かり、率直に言ってとても元気そうだ。

 よく見ると、抜けるように美しい銀色の髪の毛先には、新たにウェーブのようなものが施されており、彼女のそのスタイリッシュさに拍車を掛けている。

 まさかとは思うが、この魔王。

 主のために散っていった眷属たちを踏み台にして、ここぞとばかりに人生をエンジョイしてらっしゃるのではないか。

 彼女のケロリとした顔を見て、一瞬そんな疑念が過ぎったが、きっとそれは気のせいだろう。


「ん? どうした? 勇者サマリアよ。我の顔に何か付いておるか?」


 そんな邪推も知らず、アバドは俺の顔を覗き込んで言う。

 無論、この流れで『イメチェンした?』などと、デキる男ムーブで彼女を喜ばせてやるつもりはない。


「……い、いや、何でもない。ちょいとジフリンの連中を煽動するのに使わせてもらった。コイツ一人守るくらい、ワケないから安心しろ。つーか……、そもそも茶番だってこと忘れたのかよ?」

「むぅ。それはそうなのだが……。シェオルよ! 久しいな! 怪我はなかったか!? この悪逆非道の輩から、辱しめを受けてはおらぬか!?」


 アバドはそう言いながら、久方ぶりに再会した妹の頭の天辺からつま先まで、全身くまなくベタベタと触る。

 そんな姉を前に、シャロは困惑気味に笑う。

 やはりこのシスコン魔王は、少し過保護が過ぎるようだ。

 本当に『殺戮の女魔帝』という二つ名は、一体何だったのだろうか。


「う、うん……。今のところ、大丈夫だよ。お姉ちゃんも元気そうだね」

「……もういいだろ。今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。分かってんだろうな? もう公国軍は目と鼻の先だ。一応言っておくが、総勢500程度だぞ」

「500か……。意外と多いな。我が軍の2倍と言ったところだな」

「2倍って……。思ったより、だいぶ心許ないな。小競り合いどころか、気をつけねぇと殲滅しちまうかもな」

「それは困る。ジフリンの者どもには手心を加えてもらわねばな」

「魔王のセリフとは思えねぇな……。つっても、お前がそうなった原因は俺だから何も言えんが……」

「……別にそれは、お主だけが原因というわけでもない」

「はぁ? どういうことだよ?」

「まぁ、それは追々話すとする……。それより、だ。勇者サマリア。そろそろ()()()()()()()を装わねばなるまい」

「あ、あぁ。そうだな」


 アバドは椅子から立ち上がると、右手を突き出し、構えの姿勢を取る。

 俺も負けじと剣を構え、切っ先を彼女に向けた。

 するとそれを待ち合わせていたかのように、続々とジフリン兵も到着する。


「ゆ、勇者様っ!? そ、そこにいるのは……」


 俺の煽動に随分と勇ましい反応見せたジフリンの連中だったが、仮にも()()()魔王ということもあって、その姿を見るなり、一同尻込みを始める。

 中には震えあがり、恐怖のあまり嘔吐するものも居たりと、度合いの違いはあれど、皆、目の前の()()を現実のものと受け止めているようだ。

 いやぁ。罪悪感、罪悪感。

 

「あぁ……。魔王アバドだ(迫真)」


「フフ……。勇者サマリアよ。よもや、このような場所で出くわすとは思わなんだぞ(棒)。さぁ。魔の祝福を受けた我と、エチェドの加護を受けたお主。どちらが世を治めるに相応しいか、審判の時といこうか」


 恐らく、どちらが治めることになっても世界終了のお知らせ案件なのだが、アバドのそれらしい口上は何も知らないジフリン兵の空気を一変させる。


「皆の衆! 魔王アバドは、この勇者サマリアが引き受ける! 各々存分に手柄を立て、故郷に錦を飾るがよいっ!」


「おぉーっ!」


 ダメ押しに俺が鼓舞すると、戦場は大いに沸き立つ。

 ジフリン兵の掛け声を合図に、魔王軍と公国軍は衝突した。

 

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