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どっちが魔族か分かりゃしない

「敵襲だっ! すぐに公爵様にお伝えしろっ!」


 華々しく、火蓋を切るように。

 ジフリン公国の西の要・卜リスク砦の門番は叫ぶ。

 どうやらアバドは手筈通り、侵攻に漕ぎつけることが出来たようだ。

 今ココに、勇者と魔族の王が繰り広げる茶番劇の幕が上がった。


「……アバドのヤツ、とうとう動いたようだな。お前らっ! 役回りの方は分かってんだろうな!?」


【ちょっとサマリア! アンタ、シャロに何かエロい命令してんじゃないでしょうね!?】

【あぁん!? サマリア、何か言ったか!? コッチは近くの茂みで猫が交尾始めやがって、うるせぇんだよ!】

【スースー……】


 安全かつスムーズに作戦を遂行するためラムラたちには、それぞれ指示した()()()に待機してもらっている。

 各々の役割について、こうして念話で最終確認したのはいいが、我が勇者パーティーは今日も平常運転のようだ。

 約1名に関しては、そもそも運転しているのかどうかすら怪しい。

 だが作戦を成功せしめるには、彼らの協力が必要不可欠なのである。


「だぁもう! してねぇっつってんだろ! 俺にロリコン属性まで付いたら、()()()()だろうが! そんでラムラ! ちゃんと分かってんだろうな!?」

 

【分かってるわよ……。小競り合いで傷付いた兵士たちの治療、でいいのよね?】


 ラムラに頼んだのは、言わば『後片付け』だ。

 流れを大まかに言えば、アバドの軍が到着し、しばらくの間戦線の膠着状態を眺めた後、勇者の俺が()()()現れる、という予定なのだが、その間()()()()()というわけにもいかない。

 シンプルに怪しすぎるし、今後の疑いの種にも成りかねない。

 となれば、自分たちが(けしか)けた戦の後始末くらいは、自分たちでするべきだろう。

 俺とて、それくらいの良識は失っていない。

 よって、彼女にはトリスク砦城門付近に待機し、ことが終わったら()()近くに居合わせた冒険者の体で、兵士たちの治療を買って出てもらう。


「あぁそうだ! ナザレも分かったか!? 猫に嫉妬してるヒマがあったら、作戦のシミュレーションでもしとけ!」


【してねぇよ、バカ! お前こそ()()忘れんなよ!】


 ナザレには、図らずも鑑定スキルがあることが明らかになった()。

 であれば、コイツにやってもらうことなど一つしかない。

 先回りしてコリッツ本部に忍び込み、ヤツらの財産を根こそぎ奪い取ってもらうのだ。

 これほど、大手を振って盗みを働ける機会などそうそうないので、少しでも取りこぼしのないよう備えをしておきたい。

 それ故、ナザレには火事場泥棒シップに則り、正々堂々商会本部の裏口付近に待機してもらっている。

 ……ちなみに約束とは、奪った財産の中に宝石の類があれば、それはナザレにくれてやる、というものである。


「分かってるよ……。だが言っておくが、()()()()だからなっ! あと、マーレもイイ加減起きろ!」


【ん〜……、へ? うん! オーケーオーケー! 起きてるよ!】


「……頼むぞ。 お前がこの作戦の要なんだからな!」


【任せて! サマりんたちが来る前に、コリッツと魔族との繋がりについて情報を集める、だよね?】


 既にコリッツの連中に顔が割れているマーレには、一足先に商談に託けて『探り』を入れてもらう。

 無論、証拠の有無に関しては最悪どうとでもなるのだが、アバドから少し気になる話を聞いてしまった。

 というのも、彼女の眷属の中には『三大魔神官』なる最上位クラスの魔族がいるようなのだが、そいつらがココしばらく消息を断っているらしい。

 もしその三大魔神官のうち、一人でもヤツらの中に紛れていれば、もはや証拠の捏造だとかそういった次元の話ではなくなる。

 戦力としても、マーレ一人だけでは心許ない。

 わざわざナザレを先行して別ルートで送り込むのも、それが理由だったりする。


「そうだ。俺とシャロもジフリンの連中を見届けた後、スグに向かう。だからまぁ……、最悪何とか持ちこたえてくれ」


【うん! 分かったよ! サマりん、ちゃんと来てよね〜】


「わーってるよ。じゃあ、お前らくれぐれも頼んだぞ!」


 そう念押しをして、俺は念話を切った。


「……ねぇサマリア。マーレが言ってたことってホント?」


 俺が念話を切るや否や、卜リスク砦内外は急激に浮足立つ。

 城門前には魔王軍を迎え討つため、公国軍の兵士たちが矢継ぎ早に立ち並んでいく。

 砦近くの小丘から目を凝らして見る限り、ツェフリーム城からの本軍が到着する気配はない。

 公国を治めるヘルツ公爵は、常々独立を示唆しているほど、連邦との折り合いが悪い人物と聞く。

 余程のことが無い限り、彼が連邦に援軍を要請することはないだろう。

 よって当面の間は、城門前に構える500名程度がジフリンの総力と言える。

 ここまでは、俺の想定通りだ。


 そんな自身の読みに感動すら覚えていた時、シャロは俺の鎧の籠手の部分を心許なげに引っ張り、聞いてくる。

 

「ん? なんだよ? マーレが何か言ってたか?」

「あたしの名前のこと……」


 察してとばかりに、シャロはやや言葉足らず気味に言う。

 マーレのヤツ……、余計なことばっか言いやがって。


「……所詮は偽名だ。嫌なら」

「ううん。そんなことない! マーレも『可愛い名前だ』って褒めてくれた」

「そ、そうか……。そいつぁ良かったな」

「うん……」


 シャロは、俺の提案を食い気味に一蹴したかと思えば、すぐにいつものように沈黙した。

 それから、またしばらく手持ち無沙汰な時間が流れる。


「……正直、お前には悪いと思ってる」


 ふと、俺が発した言葉に、シャロはその大きな目を一層丸くさせる。

 そして、クスリと。

 俺の前で初めて笑顔らしい笑顔を見せた。


「ふふ。何それ、意味分かんない。今更? サマリアってやっぱりちょっと変だよね。基本クズなのに。でもサマリアのそういうトコ、ちょっとイヤかも」

「シャロ。気付いてるか? 今んとこ、傷付けてしかいないぞ? 誰の影響かは知らんが、とりあえずお前が俺を軽んじていることだけは良く分かった」


 俺がそう言うと、シャロは輪を掛けて、はにかんで見せた。

 そんな、年頃の人間の子どもが見せるような、無邪気な彼女の笑みを見て、ふとある疑問が湧いて出る。


「な、なぁ、シャロ。お前」


【……勇者サマリアよ。少しいいか?】


 俺がシャロに質問しようすると、不意にアバドから横槍が入る。


「……んだよ。どした?」


【お主の言う通り、トリスク砦前の平原辺りにまで軍を進めているのだが……。我はこの先、どう動けば良いのだ?】


「いや。それは言ったはずだろ。既に城門前には、公国軍がお待ちかねだ。お前が連中にちょっかいを出した後は、勇者の俺が颯爽と……」


【い、いや! それは分かるのだが……。我には、大義がないのだ】


「はぁ? 大義? 魔族が人間を襲うのに何の大義がいるんだよ?」


【……お主、我を何だと思うておる? 我がさしたる理由もなく侵攻する訳がなかろう。それではタダの虐殺ではないか。我が侵攻する時は、魔族の集落への攻撃の兆候が見られる国家に対しての『先制抑止』が主な目的だ。少なくとも、我が直々に指揮する部隊では、非戦闘員への攻撃も許しておらぬ。委任している各方面軍については、その限りではないようだが】


 すっかり失念していた。

 コチラの魔王様は、そこいらの人類顔負けの崇高な倫理観をお持ちなのである。

 そして、無計画に侵攻していたのは俺だけだったという事実が、図らずもココに明らかになってしまった。


 だが正直なところ、アバドの進軍に先駆けて、勇者の俺が登場するのは少し危険だ。

 事前に魔王の侵攻を知っていたとなれば、後々疑いの目を向けられる要因に成り得るだろう。


【……お主にも勇者としての立場があるのだろう。だからまぁ……、無理にとは言わん。ふっ。なぁに。小競り合い程度で良いのだろう? 芝居は苦手だが、そのくらいの調整は造作もない】


 更に言えば、この魔王様。

 何を言わずとも、コチラの立場を慮って下さる御仁であらせられるのだ。

 本当に、どこに出しても恥ずかしくない淑女である。

 彼女と話していると、既存の『魔族』という概念が音を立てて崩されていくのが分かる。

 そこまで下手に出られては、クズ勇者の烙印を押された俺とて妥協せざるを得ない。

 むしろ、この魔王。

 それが狙いだったのではないかとさえ、勘繰ってしまう。


「だーもう! わーったよ! 俺がアイツらを煽動して、お前らに先制攻撃を仕掛けるっ! それで良いんだろ!?」


【……良いのか? それではお主が怪しまれるのではないか?】


「怪しまれるだろうな……。だがな。『()()()()()()()()()コリッツ商会の殲滅』っていう特大のお土産ぶら下げて帰りゃ、そんな邪推も霞むってモンだ。アイツら、お前ら魔族に負けず劣らず疎まれてるみたいだからな」


【それなら良いのだが……。お主も危険な橋を渡っているということを、ゆめゆめ忘れるでないぞ。信用というものは崩れる時は一瞬だ。そのことは終生、胸に刻み込んでおくのだ。良いな?】


 本当に……、俺は一体何と話しているのだろうか。

 月並みな表現ではあるが、どっちが魔族だか分りゃしない。

 勇者の俺のメンターにでもなった気でいるのか。

 クソッ。

 偽物の宝玉で、一儲けしようと企んでいた分際で。


「……金言、感謝するよ。そんじゃまぁ、そういうワケだから俺は一足先に失礼するぞ」


 アバドにそう告げて、俺は念話を切った。


「悪い、シャロ。ちょいと順番変更だ。今から城門前に向かうぞ」

「そ、そっか。あのさ! サマリア……」


 城門前へ向かおうとしたその時。

 シャロが再び強めに籠手を引っ張り、行く手を遮るように呼び止めてくる。


「ん? なんだ?」

「……お姉ちゃんのこと、助けてあげてね」

「んだよ、それ……。助けて欲しいのは俺の方だっつーの」


 意図の掴めないシャロの言葉を、その時は特段気に留めることはなかった。

 俺はそのままシャロの手を引き、アバドの熱烈なリクエストに応えるべく、卜リスク砦城門前へと向かった。

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