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初配信が終わった数分後。
コメント欄の余韻がまだ頭の中でこだましている頃、私は居ても立ってもいられずに部屋のドアをノックした。
「……どうぞ。」
返事を待たずにガチャッとドアを開ける。
部屋の中はまだ配信の照明がついたままで、モニターには「配信終了」の文字が出ていた。
お兄ちゃん――いや、“夜宮慧”は、椅子に深くもたれかかって、放心したように天井を見上げている。
「見てたよ〜。泣いてたね。」
ニヤニヤしながら言うと、案の定、お兄ちゃんが顔をしかめた。
「……見られてたか。」
「そりゃ見るでしょ、デビューだよ?家族として見守らなきゃ。」
「うわ、なんか保護者みたいなこと言うなよ。」
「でも、良かったよ。緊張してたけど、ちゃんと自分の言葉で話してたし。手紙読むとこ、こっちまで泣きそうになったもん。」
「……マジで?」
「うん。コメント欄の人も優しかったし、いい初配信だったと思う。」
お兄ちゃんは少し俯いて、照れくさそうに笑った。
「ありがとう。……なんか、ほんとに始まったんだなって感じする。」
「うん。慧くん、デビューおめでとう。」
名前を呼ぶと、お兄ちゃんが顔を上げて「やめろ、鳥肌立つ」と笑った。
「でもさぁ。」
「ん?」
「もう11時だぞ。眠くないの?」
その言葉に、私は大きくあくびを噛み殺した。
「……ぶっちゃけ今、すげぇ眠い。」
「だろ。」
「配信中は興奮してちゃんと見れてたけど、終わった途端に、どっときた。」
「まあ、テンションってそういうもんだよ。」
「あと、安心したんだと思う。ちゃんとやり切ったの見てさ。変な話、すごい誇らしかった。」
お兄ちゃんは、何か言おうとして口を閉じた。
少しの沈黙。
そのあと、ぼそっと「……ありがとうな」と言って、モニターの電源を落とした。
暗くなった部屋の中で、私は欠伸をひとつ。
「おやすみ、お兄ちゃん。」
「おう。……夢でコメント欄読んでそう。」
「それはそれで幸せそうじゃん。」
そう言って笑いながら、私は部屋を出た。
ドアの向こうで、配信者“夜宮慧”ではなく、ただの“お兄ちゃん”のため息混じりの笑い声が聞こえた。




