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配信まであと1時間。
時間を確認してみると、時計の針は夜の10時を少し回ったところだった。
あと60分。たったそれだけなのに、指先は落ち着かず、マウスを握る手は汗ばんでいる。呼吸も浅い。
「やっべ……緊張しすぎて吐きそう……」
同期との初コラボ。
打ち合わせで顔は合わせてるし、みんな良い人っぽいのは分かってる。でも、まだ距離感がつかめない。失敗したらどうしよう。変な空気になったら。そんなことばかり頭の中をぐるぐる回っていた。
ちらりとスマホを見る。
この時間、妹はもう寝る準備をしてる頃だ。
……頼っていいか。
そう思った瞬間、もう足は廊下に出ていた。
ドアをノックもせずに開けると、ベッドに潜りかけた妹がいた。
眠そうに半開きの目で、こちらを見ている。
「なにぃ……?ああ、コラボ配信って今夜か……」
声がいつもより二段階くらい低くて、完全に寝ぼけてる。
「……緊張してるの?」
「……うん。やばい。全然落ち着かない。」
「んー……大丈夫だよ。」
まぶたを閉じたまま、ぽそぽそと喋る。
「リスナーの人たち優しいからね。同期の人たちもたぶん大丈夫。上手く喋れなくても許してくれるよ。」
言葉は少しあやふやなのに、妙に心に沁みる。
眠気混じりの声なのに、落ち着く。
「ほら、ギュッてしてあげる。」
布団の中から両腕を出して、ゆっくり俺のほうに引き寄せた。
「一緒に深呼吸ね。スーハー……スーハー……」
……完全に寝ぼけてる。
でも、その呼吸に合わせて俺も息を整える。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
……少しずつ、鼓動が落ち着いていく。
妹の髪が、微かにシャンプーの匂いを残してて、それだけで安心する。
「もういい……?」
「……うん。助かった。」
「じゃあ私は寝る。おやすみ……。」
そのまま、また眠りに落ちていった。
静かに部屋を出る。
廊下を歩きながら、苦笑する。
「……寝ぼけながらも、ちゃんと支えてくれるんだもんな。」
明日はお詫びに、お菓子でも買ってやろう。
そんなことを思いながら、自分の部屋へ戻った。
モニターの前に座る頃には、もう手の震えは止まっていた。




