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EP9.気になる弟と妹

今回の主人公は、桐谷千鶴きりたに ちづる

前回に続いて登場です。

このエピソードは、千鶴のちょっぴりコミカルで、でも内心ではちゃんと揺れている気持ちを描いた回です。

とびきりの野心と、ほんの少しのさみしさを抱えた彼女の“サイドストーリー”を、どうぞお楽しみください。

教室の隅っこ、スマホの画面に映った彼の笑顔に、私はため息をついた。

ホストクラブのホームページ。

そこに載っている写真の中の彼は、私があの日、歌舞伎町で出会った“王子様”だった。

あの日から、毎晩このページを開いてる。別に何かが変わるわけじゃないけど、見てるだけでちょっと元気になるから不思議。

「はぁ……イケメンすぎん?」

キラキラの笑顔。きゅって上がった目尻。指先の血管。完璧。やっぱ好き。

でも、ずっと引っかかってた。「俺の弟と同じ制服」って言葉。

ここ、汐見台高校。つまり、私の身近に“弟”がいるってこと。

まさかね、と思いながら顔を上げた、そのときだった。

教室の前の席、ふと立ち上がった男子。この顔——どこか、似てる。

……いや、似てるどころじゃない。

「……うそ、絶対そうじゃん……」

北村春人。まなみの彼氏。あのイケメンの弟。

なんで今まで気づかなかったの!? 私って、ほんと抜けてるなぁ。こんな近くにいたのに。

「ねぇ、北村って、兄貴いる?」

何気ない風を装って聞いてみると、北村は少し間を置いて、

「……んー、まぁ、いるけど」

やっぱり、確定じゃん。

私は心の中で小さく拳を握った。まなみに見えないところで、そっと。


それから、私は“弟”を偵察するようになった。

兄に会うため、近づくため……とかじゃない。いや、正直ちょっとは期待したけど、それだけじゃない。

普通に、顔も性格もレベル高いし、彼女がいるのも納得。

でも、「将来伝説のキャバ嬢になるなら、あのくらいの男は落とせないと」って、勝手に目標ができてしまった。

私には夢がある。絶対にあの街で一番になる。

ナンバーワンになって、誰にも見下されない女になるって決めてる。

あの日、歌舞伎町で誠と出会った瞬間、その思いが本気になった。

あの人の隣に立てるような女になる。それが私の“理想の未来”だ。

だから、そのステップとして、春人のことをもっと知るのは当然の挑戦だった。

放課後、廊下ですれ違いざまに挨拶してみたり、給食の時に「それ好きなんだ〜」って会話の種ふったり。だって、キャバ嬢って、お客さんの好みとか、得意なこととか、そういうのを会話の中から見つけるのがうまいって聞いたもん。だから、まずは練習だ!


ある日の放課後。春人がひとりでスマホをいじっているのを見つけ、私はチャンスとばかりに近づいた。

「ねぇ、北村くんってインスタやってる?」

「え、あー、一応」

「私ね、フォロワー結構いるんだよ! こないだもカフェで写真撮ってたら、後ろから『モデルさんですか?』って声かけられちゃってさ〜、ナンパかなって思ったら、インスタのDMも来たりして。北村くんも、もしよかったらフォローしてくれてもいいんだよ?」

わざとスマホの画面をちらつかせ、自分のインスタのフォロワー数をアピールしてみた。なんか、こんなこと言ってる自分、ちょっと恥ずかしいけど、これも練習だもんね!


春人は、私の話を聞きながら、徐々に目が点になっていく。口が半開きになり、スマホを持つ手がピタリと止まっていた。戸惑いを隠せない、というより、どう反応していいのか全く分からない、といった様子だ。

「あー……その、えっと……うん、機会があったらね」

**言葉を選んでいるのが見て取れる、ぎこちない返事。**その返事に、私は少しだけ肩を落とした。もっと食いついてくれるかと思ったのに。


だけど——

「ごめん、今からまなみと行くとこあるから」

「え、そうなんだ。毎日仲良しだね〜」

「……まあ、大切な人だからな」

にっこり笑って、まなみの方へ歩いていく背中。

まなみと並ぶ彼の後ろ姿を見ながら、少しだけ自分が惨めに思えた。私には、あんな風に「大切な人」って言い切れる相手も、あんな風に隣で笑ってくれる相手も、まだいない。

比べてしまってた、自分とまなみを。

「……やっぱ、誠の方がいいや」

そう口にした瞬間、少しだけ心が軽くなった気がした。

まなみは、時々話すクラスメイトだけど、私にとっては大切な友達。そのまなみの彼氏を、自分の目標のためとはいえ、ちょっとでも「落とそう」なんて考えた自分が、なんだか最低で、胸がチクリと痛んだ。

私は二人に向かって走り出し、まなみに後ろから抱きついた。

「ねぇ、まなみ? 私の妹にならない?」

(もし私が誠と付き合って、誠の弟である春人とまなみが付き合い続けたら、私とまなみって義理の姉妹になるってことだよね? なんか、ちょっと面白いかも!)

まなみは「千鶴はなんか頼りない」って笑った。


*『サイドストーリーは恋をする~誰かの恋の真ん中~』シリーズ*

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

EP9は、前回の「一夜の夢」から少し地に足がついた視点に戻りつつ、千鶴という女の子の素顔をもう少し深掘りした回でした。

強くて派手で自由に見える彼女も、心の奥ではちゃんと誰かをうらやましく思ったり、自分を試したくなったりしている。

まなみとのやり取りや、春人との微妙な距離感の中で、千鶴は「誰かの隣に立つ」ことの意味を、少しずつ考え始めているのかもしれません。

次回は文化祭回。タイトルは『ちづるんクレープ始めます』???

クラスの仲間たちと巻き起こす、ちょっぴり笑えて、じんわりあったかい青春エピソードをお届けします。

また次回も、よろしくお願いします。

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