EP6.王子様には負けるけど
今回の主人公は、榊颯真。
図書室と音楽を愛する、無口で不器用な2年生男子です。
前回のエピソードでは、斉藤理紗の目を通して描かれた“ちょっと気になる存在”だった彼。
今回はその彼自身の視点で、静かに芽生えた想いと、それを言葉にしようとするまでの過程を綴っていきます。
完璧な王子様みたいにはなれないけれど、
それでも、ちゃんと誰かを好きになる気持ちは、まっすぐで尊い。
そんな「不器用な恋のかたち」を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
「ごめん。私、たぶん現実の恋って、向いてないんだ」
……うん、そう来ると思った。
斉藤がそういう子だって、最初からわかってた。
でも、それでも、言いたくなったんだよ。
“好き”って。
───
最初に話したのは、図書室だった。
同じラノベを手にしてるのを見て、つい口が出た。
「それ、おもしろいよね」
普段の俺なら、そんなこと言わない。
人と喋るの、別に得意じゃないし。特に女子相手なんて。
でも、あのときの斉藤は、
本を読むときの目がすごく真剣で、
それでいて、どこか遠くにいるみたいな感じだった。
まるで、自分だけの世界に深く潜り込んでいるような。
その瞳に、俺は抗えなかった。
“この子、どんな世界を見てるんだろう”って、気になったんだ。
───
何度か話すうちに、彼女の好きな世界のことも知った。
乙女ゲーム、推しはルイス様。中世騎士で、完璧な王子。
顔、声、性格、全部そろってる。
「なんかちょっと似てない?」って冗談で言ったら、
「似てないよ」って一言でバッサリだったけど、
それでも、少しだけ、照れた顔をしてたのを俺は見た。
その瞬間、心臓が大きく跳ねた。
彼女が、俺の言葉に少しでも反応してくれた。
それが、俺にとって、決定的な瞬間だった。
あの一瞬で、たぶん好きになってた。
───
“王子様”が相手なら、負けてもしょうがない。
そりゃそうだよ。俺なんて現実の高校生で、
別に顔がいいわけでも、口がうまいわけでもない。
恋愛イベントだって、何一つ発生しない。剣を振るうことも、国を守ることもできない。
でも——
「現実が全部じゃない」ってことを、あの子は教えてくれた。
彼女と話すうちに、俺は知ったんだ。
目の前の世界だけが全てじゃないって。
本やゲームの中にも、人を救ったり、心を豊かにしたりする、確かな物語があるってことを。
そのくせ、現実にちゃんといて、たまに俺に笑ってくれた。
それだけで、俺には十分すぎるくらい、物語だったんだ。
───
「斉藤のこと、ちょっと気になってる」
そう言ったあの日の俺は、
勝算なんて何もなかったけど、ちゃんと立ってた。
声は震えなかった。後悔しないように、ただ、まっすぐに。
そして、ちゃんとフラれて。
それでも、彼女の「ありがとう」が、
ただの義理じゃなかったことも、わかってた。
彼女の瞳の奥に、少しの戸惑いと、俺への感謝があるのを感じた。
それだけで、俺の心は救われた。
───
図書室。いつもの席。
彼女は今日も、スマホでゲームをしてる。
画面の向こうの誰かに、ときめいてる。
俺はそれを横目に、別の本を開く。
恋愛ラノベ。普段なら読まないやつ。
物語の中の登場人物が、葛藤し、愛を育む姿を読む。
理紗の好きな世界を、もっと深く知りたい。
彼女が何に心を震わせるのか、理解したい。
……今なら、ちょっとだけ気持ちがわかる気がした。
いつか、王子様よりも近くで、
“現実も悪くないかも”って思わせられる日がくるなら——
その時はまた、ちゃんと向き合いたい。
焦らなくていい。
俺には時間がある。彼女と、同じ時間が。
この図書室で、隣に座り、同じ空気を吸い込める時間が。
「のんびりいこう」
俺はそうつぶやいて、ページをめくった。
*『サイドストーリーは恋をする~誰かの恋の真ん中~』シリーズ*
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
今回の物語は、斉藤理紗を静かに見つめていた榊くんの心の内にフォーカスを当てました。
誰よりも遠くから、でも確かに彼女を理解しようとしていた彼。
王子様にはなれなくても、“隣にいる誰か”としてそっと寄り添おうとするその姿は、とてもやさしくて、強いと感じます。
自分の想いを伝えること。
それがたとえ叶わなくても、ちゃんと「伝えよう」と思えること。
それこそが、恋の本質なのかもしれません。
次回のテーマは魔法少女の恋???
次の“恋の真ん中”も、ぜひ覗いてみてください。




