EP5.やっぱり私はこっちがいい
今回の主人公は、斉藤理紗。図書室が好きで、ちょっと内向的な、2年生の女の子です。
誰かに好かれること、好意を向けられること。
普通なら「嬉しいこと」のはずなのに、心が動かない――そんな経験、ありませんか?
このお話は、“恋じゃない感情”と、“自分らしくいること”の大切さに気づいていく、理紗の物語です。
恋愛の正解はひとつじゃないからこそ、自分のペースで答えを探す彼女の気持ちに、そっと寄り添ってもらえたら嬉しいです。
「斉藤さんって、モテるよね」
まただ、と思う。
給食の時間、隣の席の女子にそんなことを言われても、もう何度目かわからない。
「いや、そんなことないよ」って笑って返すのも、だいたい同じ。
LINEを交換した男子の名前も、もういくつか浮かばない。
別に、嫌なわけじゃない。
ただ、彼らとの会話に、なぜか心が震えないのだ。
みんなが言う「キュン」とか「ドキドキ」が、私にはよく分からなかった。
でも、
帰り道に開くのは、スマホの乙女ゲーム。
この国の王子、ルイス=グランフォード様が私を見つめて言う。
「理紗、お前のすべてを守りたい。剣にかけて、誓おう」
その瞬間、心が跳ねる。
ルイス様は、いつも私の味方でいてくれる。
決して私を傷つけず、私がどんな姿でも受け止めてくれる。
それは、現実の誰にもできないことだった。
現実の男子のどんな告白よりも、こっちのほうが、ずっと効く。
───
図書室でラノベを読みながら過ごすのが好きだ。
騒がしくないし、誰にも話しかけられない。
と思っていた。
「それ、おもしろいよね」
本棚の反対側から声がした。
榊くん。クラスメイトで、たしか軽音部。
普段はあんまり喋らない。いつもヘッドホンをしていて、近寄りがたい雰囲気だったから、正直驚いた。
「ローグってじじいなのにカッコよすぎるな」
「……わかってんじゃん」
「ルキアもいいやつなんだよな」
「……アイツは裏切る」
言葉は少なかったけど、嫌じゃなかった。
むしろ、この物語の核心を、初対面に近い相手と共有できたことに、胸の奥がじんわり温かくなった。
何より、“この人とは話せる”って、不思議と思った。
───
それから、榊くんとは図書室で何度か話すようになった。
お互い読んでる本の話を少し、ゲームの話を少し。
私が好きな乙女ゲーの話をしても、笑わなかった。
「ルイス様って、あの中世系の?」
「うん。設定甘いけど、顔と声が完璧なの」
「へえ、絵柄見せて」
「……いいよ」
スマホの画面を向けると、榊くんは食い入るようにルイス様のイラストを見た。
「……あー……あれ?」
「なに?」
「ちょっと俺、似てない?」
「は? ないし」
「調子乗りすぎたか」
榊は私の顔を覗き込むように笑った。
その距離の近さに、一瞬戸惑う。彼の目は、私をからかっているようでもあり、何かを試しているようでもあった。
「……似てないよ」
そう言ったけど、心のどこかが、少しだけざわついた。
今まで誰にも言えなかった、私だけの世界を、彼は覗き込んでいる。
それなのに、嫌な気がしない。むしろ、不思議な感覚だった。
───
その数日後。榊くんに、呼び出された。
図書室じゃなくて、校舎裏。
夕暮れ時、誰もいない校舎の裏手に彼の姿を見つけた時、胸が少しざわついた。
まさか、告白されるなんて、思ってもいなかった。
「俺、斉藤のこと、ちょっと気になってる」
「……どうして?」
「たぶん、一緒にいて楽だから」
「……そっか」
気持ちは、わかる。私も、たぶん同じだった。
だけど、この言葉が、なぜか胸にストンと落ちてこない。
楽、それだけ? それだけが、人を好きになる理由なのだろうか。
でも——
「ごめん。私、たぶん現実の恋って、向いてないんだ」
「うん、そんな気はしてた。お前、そういうの、あんまり興味なさそうだったもんな」
榊くんは、少し笑った。
無理に引き止めたり、問い詰めたりしない。
その優しさに、少しだけ胸が締め付けられた。
「でも、なんか言いたくなったんだよね。お前にだけは、ちゃんと伝えたかったから」
「……ありがとう」
それだけ言って、私は背を向けた。
彼の言葉に、嘘はないのだろう。
だが、私にとっては、彼の言う「好き」は、ルイス様の「愛しているよ」とは、根本的に違うものだった。
───
帰り道。スマホを開く。
ルイス様が、微笑んで言う。
「愛しているよ、理紗。君だけを」
私は思わず笑ってしまった。
画面の中のルイス様は、いつも完璧で、私の理想を裏切らない。
彼の言葉は、私の心を優しく包み込み、決して傷つけない。
「……やっぱり私は、こっちがいい」
誰かに理解されなくてもいい。
現実の恋が、私を不安にさせたり、期待を裏切ったりすることがあるとしても。
この世界が、ちゃんと私の心を救ってくれる。
そのことだけは、本気で信じられるから。
そして、その世界で、私は私らしく、幸せでいられるから。
*『サイドストーリーは恋をする~誰かの恋の真ん中~』シリーズ*
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
このEP5は、「恋愛に乗れない自分」に悩む子の視点から書きました。
誰かに想いを向けられても、ときめかない。周囲のように“普通”に恋ができない。
そんな理紗の感情は、“そういう自分でも大丈夫なんだ”と気づいていく過程でもあります。
物語の中で、現実の恋よりもゲームやフィクションに安心を感じること。
それは逃げではなく、「今の自分にとって、心がちゃんと動くもの」を選んだ結果だと、私は思います。
そして——
次回は、榊颯真の目線で、この物語の続きを描きます。
静かに彼なりの想いを抱えた“彼の気持ち”を、ぜひ見届けてください。




