EP2.ラーメンとスイーツと未来
今回の主人公は、西村まなみ。前回に引き続き、彼女の恋の続きをお届けします。
このエピソードでは、“恋をして、笑って、ご飯を食べる”――そんな何気ない幸せの瞬間を描いています。
少しだけお腹がすくかもしれませんが、よければ最後までお付き合いください。
春人の手は、ちょっとだけ温かかった。
指先を繋いだまま、私は黙って歩いていた。
校門を出て、夕暮れの坂を下りながら、ふと思った。
「あのさ……ラーメン、食べに行かない?」
「え?」
「今めっちゃ、お腹すいてるんだよね」
「いいじゃん。ラーメン最高。あ、ちょうど俺も腹減ってたし」
春人がニッと笑う。
その笑顔を見て、私の中の何かがふわっと軽くなった。長らく自分を縛り付けていた鎖が、ゆっくりと解けていく感覚。“我慢する自分”じゃなくて、“一緒に楽しむ自分”でいていいんだと、心の底から思えた。
───
駅前のラーメン屋は、こぢんまりとしていたけど、いい匂いがした。
あたたかい湯気がガラスに曇りを描いていて、なんだかほっとした。
券売機の前で、私は少し悩む。
「うわ、チャーシュー丼セットとかあるじゃん。これ絶対うまいやつじゃん……でも、食べたらまた……」
「頼みなよ。さっき“頑張った”って言ってたろ? 俺が隣にいるんだから、気にすんなって」
「うん。……じゃあ、頼む!」
「いいね。俺は味玉ラーメンにする。あと餃子も半分こしようぜ。最近、餃子にハマっててさ」
ラーメンを待っている間、私はこっそり笑っていた。
ずっと避けてきたもの。カロリー計算とか、脂質とか。
だけど今は、どれも全部「嬉しい」に変わってる。隣に春人がいる。それだけで、こんなにも景色が変わるなんて。
「私さ、実はめっちゃ食べたいものいっぱいあるんだ」
「たとえば?」
「パンケーキ。ふわふわのやつ。あとクレープ。生クリームたっぷりの」
「いいね、それ」
「チョコパフェも食べたいし、あったかいアップルパイも好き」
「食べ放題行けるな、それ」
「ね、行こうよ。全部行こう? 私、もう我慢したくない」
「うん。行こう、ぜんぶ。今度、美味しいパンケーキの店、探しとくわ」
そのときラーメンが来た。
湯気が目の前で立ちのぼる。スープのにおいがたまらない。
私はれんげを持って、勢いよくすすった。
「……やば、うまっ」
「そりゃそうだろ。良かったな、食えて」
ふたりで笑った。
この一杯に、どれだけの時間をかけてきたんだろうと思った。
でも今、このラーメンが、涙が出そうなくらい美味しい。春人の隣で食べられるだけで、幸せすぎた。
───
ラーメンを食べ終え、外に出ると、空には星がちらほら出ていた。
夜風が少し肌寒い。でも、心はあったかかった。
「ねえ、私たちさ」
「うん?」
「たぶん未来、めっちゃ太るよね?」
「……確かに」
「スイーツばっか食べて、ラーメンも餃子もパンケーキも全部いったら、もう……どうしよう。また元に戻っちゃうかな」
「……俺はそれでもいいよ。まなみが笑っててくれれば、俺はそれで満足だし」
「なんでよ」
「だって、“美味しい”って笑うまなみ、最強にかわいいから」
「……うるさいな」
「ほんとだって」
私は少しだけ、春人の腕に寄りかかった。
お腹はいっぱい。心もいっぱい。
未来のことはまだ分からない。でも、少しずつ、ありのままの自分を受け入れていける気がした。
ほんの少し怖くても、こうして一緒に笑えている今が嬉しかった。
ただ一つ確かなのは——
きっと、私たちの未来は、幸せと食べ物にあふれている。そして、その全てを、春人と分かち合えるということ。
*『サイドストーリーは恋をする~誰かの恋の真ん中~』シリーズ*
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
まなみにとって「食べること」は、ずっと葛藤の象徴だったかもしれません。
だけどそれが、誰かと分かち合うことで“幸せなもの”に変わっていく――
そんな心の変化が描けたらと思いながら書きました。
ラーメンもスイーツも、ただの食べ物だけど、
好きな人と笑って食べれば、それはきっと未来の思い出になる。
まなみと春人の物語は、ここでひと区切り。
次回はまた、新しい“誰か”の恋をお届けします。




