EP12.揺れる想い
今回の主人公も引き続き、斉藤理紗です。
文化祭前日。
ときめきと戸惑いのはざまで、彼女はひとつの“選択”と向き合うことになります。
気持ちは、簡単に決められるものじゃない。
でも、自分の中の「揺れ」にちゃんと目を向けたとき、そこに確かな感情があることに気づけるかもしれません。
前日リハーサルが終わった夕方、校舎の裏手にまわったところで、理紗は呼び止められた。
「なあ、斉藤」
声の主は梶悠人。王子様役で注目を集めているクラスの中心的存在。
「……なに?」
夕焼けが体育館の壁に淡く差し込んでいた。空気は冷たく、でもどこか静かに澄んでいた。
「お前のこと、好きになった。文化祭終わったらでいいから、返事くれ」
一方的にそう言って、梶は背を向けた。
軽そうに見えて、あの時だけは真剣だった。
理紗の胸が、どくんと鳴る。
心臓の音が、耳の奥でうるさかった。
───
その夜、理紗はいつものように図書室にいた。
開いたノートの上、ペンは止まったまま。
台詞を直すつもりで開いたのに、気持ちがどこにも定まらなかった。
「何やってんだよ、明日が本番なのに」
声がして顔を上げると、榊颯真が立っていた。
大道具を担当している、静かで落ち着いた男の子。
「だからこそ。ここ、落ち着くから」
理紗がそう返すと、榊は小さく笑って隣に腰を下ろした。
しばらくの沈黙。図書室の空気は、気まずくない。むしろ、安心できた。
「……明日、ライブあるんだ」
「うん?」
「来てくれない? 俺の、いちばんかっこいいとこ。見せたいから」
その一言に、胸の奥がほんのり熱くなった。
───
その晩、布団の中で目を閉じても、いろんな言葉が渦巻いて眠れなかった。
梶のまっすぐな告白。クラスの人気者で、ちゃんと真面目で、真剣だった。
そして榊の、不器用だけど温かい優しさ。
私の趣味を否定せず、そばで見守ってくれるあの距離感。
(どうしたいんだろう、私)
乙女ゲームの世界なら、選択肢が画面に出てくる。
でも、これは現実だ。
どちらかを選ぶ。それは誰かを断つということ。
そんな重さが、胸にのしかかる。
(どっちかを選べるほど、私は強くない)
理紗は、両手で枕を抱きしめた。
*『サイドストーリーは恋をする~誰かの恋の真ん中~』シリーズ*
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
まっすぐな告白に心が動く一方で、
隣にいてくれる人の優しさにも惹かれている――
そんな“両方本物”な感情の間で、彼女は悩みます。
好きってなんだろう?
ときめくこと? 一緒にいたいと思うこと? 安心できること?
その答えは、きっとすぐには出なくて当然です。
次回はいよいよ文化祭本番。舞台、ライブ、そして返事。
それぞれの気持ちが交差するクライマックスを、ぜひ見届けてください。