第38話 ゆっくりと(委員長side)
学校から少し歩いて、駅からは遠いファミレスにやってきた。
天野さんいわく、駅前のファミレスはすごく混雑するらしい。
「どれにする?」
席に座ってすぐ、天野さんがメニューを広げた。
「そうね……」
メニューを見てみると、思っていたよりも品揃えが豊富だ。
揚げ物もあるし、パスタもドリアもあるし、丼ものもある。
「私はこれかな」
天野さんが指差したのはハンバーグ定食だった。
ご飯と味噌汁もついているし、なにより、目玉焼きの乗ったハンバーグが美味しそうだ。
「じゃあ、私もそれにしようかな」
「了解! おそろいだね」
ふふ、と軽く笑ってから、天野さんはタブレットで二人分のハンバーグ定食とドリンクバーを頼んだ。
「頼んだからもうドリンクバー行けるけど、行く?」
「うん」
ドリンクバーは席のすぐ近くにあった。
念の為鞄を持ってドリンクバーへ向かう。
「天野さんって、よくファミレスくるの?」
慣れた様子でコップを用意している天野さんを見ながら聞いてみた。
うん、と天野さんは予想通り頷く。
「長時間居座れるし、スタバより安いし」
「確かに」
「たまに、お母さんときたりもするよ」
天野さんがそう言った瞬間、わずかに空気が張り詰めたのが分かった。
私もだけど、天野さんは日頃あまり家族の話はしない。
なのに話題にしたってことには、それなりに意味がある気がする。
たとえば、私ともっと距離を縮めたい……とか。
「委員長は、親と外食したりする?」
言いながら、天野さんはコップに氷を入れた。
私も同じように氷をコップへ入れつつ、あんまり、と答える。
「滅多にないかな」
「そうなんだ」
「うん、うちの親、忙しいから」
家族で外食するどころか、一緒に食卓を囲むことすら稀だ。
誕生日とか、合格祝いとか、そういうイベントがあれば外食に行くこともあるけれど。
天野さんは頷いただけだ。
委員長の親は何の仕事してるの? なんて聞いてこない。
そういう気遣いが嬉しくもあり、もどかしくもある。
「ねえ、ドリンクバー、おすすめの混ぜ方があるんでしょう?」
先程の話を思い出して言った。
天野さんが笑顔になったのを見てほっとする。
他の人には言いにくいことや、自分のことを話すのは大事だ。
だけど、全部一気に話さなきゃいけないわけじゃない。
天野さんとの関係を大事にしたいからこそ、ゆっくり進めていくべきなのかもしれない。
「りんごジュースと、カルピスソーダを混ぜるの!」
「……それって、美味しいの?」
絶妙な組み合わせだ。美味しそうな気もするし、美味しくなさそうな気もする。
「美味しいから、やってみてよ」
「分かった」
物は試しだ。それに、まずくてもきっと楽しい。
ドリンクバーにコップをセットし、りんごジュースとカルピスソーダを半分ずつ入れた。
天野さんも同じ飲み物を作り、私たちは席へ戻った。
「飲んでみて!」
キラキラした目で見つめられて、断れるはずがない。
少しだけ緊張しながら、コップを口元へ運んだ。
……これは。
「どう? どう?」
りんごの味と炭酸、そしてカルピス特有の甘み。
相性が悪いわけじゃない。ただ……
「別々に飲んだ方が、美味しいかも」
「ちょっと! 委員長、正直過ぎ!」
天野さんはげらげらと笑ってジュースを飲んだ。
私的には最高なんだけどな、と呟いているのが可愛い。
「でも、ジュース混ぜるのは楽しいかも」
「でしょ!?」
どんな味になるんだろう……と想像するのは楽しいし、ドリンクバーでなければできない。
家でわざわざ混ぜようとは思わないだろうし。
「委員長にもこの楽しさが伝わってよかった!」
ふにゃり、と笑った天野さんがあまりにも愛らしくて、とっさに目を逸らしてしまう。
どきどきし過ぎて、天野さんとなら何をしても楽しいよ、なんて言えなかった。




