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第25話 もっと知りたい(委員長side)

「じゃあ、私そろそろバイト行かないと」


 天野さんの言葉で時間を確かめる。

 どうやらいつの間にか、かなりの時間が経っていたらしい。


「あ、うん」


 そういえば天野さんって、何のバイトしてるんだろう?

 うちの学校はバイトを禁止してはいない。けれど、学業や部活で忙しいため、バイトをしている子は稀だ。


 天野さんのことだから、お洒落なカフェとか?


「天野さんって、何のバイトしてるの?」


 そう聞いた瞬間、天野さんの顔が引きつった。

 予想していなかった反応にびっくりする。


「ごめん、その、聞かない方が良かった?」

「いや、えっと、それは……」


 天野さんは1分近く頭を抱えた後、窺うような眼差しを私に向けてきた。


「他の人に言わない?」


 なにそれ可愛すぎる……じゃなくて!


「言わないよ」


 私だから、と天野さんが教えてくれたことを、他人にべらべらと話したりなんかしない。


「そうだよね、うん、委員長ならそう言うって知ってた」


 天野さんは軽く頷いて深呼吸をした。


「私、スーパーで働いてるの」

「え?」


 スーパー?

 スーパーってあの、いろんな食料品が売ってる、普通のスーパーよね?


 華やかな天野さんのイメージからは、全く想像できない。


「意外でしょ」

「……うん、意外」

「とりあえずお店出て、歩きながら話そっか」


 天野さんがテーブルの上に置かれていた伝票に手を伸ばす。

 その仕草がやけに大人びて見えて、私の胸が騒いだ。





「私、スーパーで働いてるって人に言ったの初めてだよ」

「そうなんだ……ありがとう、言ってくれて」

「ちょっと、そんな重く言わなくていいから!」


 天野さんは声をあげて笑ったけれど、初めてなんて言われたら、他に反応しようがない。


 天野さんって明るいしクラスのいろんな子と喋るけど、結構秘密主義みたいなところがあるのかも。


「なんで、スーパーでバイトすることにしたの?」


 聞かない方がいいのかな? と一瞬迷ったけれど、この流れで聞かないのは不自然だ。


「家から近いし、そこそこ時給よかったから」

「なるほど……」

「普通の理由でしょ」

「うん」


 近所で、時給はわりといい。

 バイトに選ぶ理由としては十分だ。

 でも逆に言えば、最初からバイトをすることが決まっていた、ということになる。


 お洒落なカフェに憧れたわけではなく、天野さんはバイトが必要だからバイトをしているのだ。


「……なんか、欲しいものとか、あったり?」

「あー、まあ、それはそうかな。服とか」


 服、自分のお金で買うんだ。


 私は服を自分で買ったことはない。必要になればお母さんが用意してくれる。

 欲しい服があった時も、お母さんに言えば買ってくれる。


 まあ、そういうの、家によるんだろうけど……。


 でも周りの人も、親に買ってもらったり、お小遣いの中でやりくりする子が多い。

 そもそも天野さん以外に、バイトをしているような高校生の知り合いはいない。


 何を言おうか迷っているうちに、駅に到着してしまった。


「私こっちだから」

「あ、うん」


 私と天野さんは逆方向の電車だ。


「またね、委員長」


 ひらりと手を振った天野さんを、待って! と私は思わず呼び止めてしまった。


「どうしたの?」

「今日、すごく楽しかった! ありがとう!」


 言い終わってから、大きく手を振る。

 天野さんは私を見てくしゃっと笑ってくれた。


「私もめっちゃ楽しかったよ!」


 天野さんのその言葉が嬉しくて、心が温かくなる。


 手を振り合いながら、私たちは別れた。


 一人で歩きながら、今日一日のことを反芻する。

 新しく知れたこともたくさんあるけれど、同時に、知りたいことも増えた。


「……天野さんのこと、もっと知りたいな」

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