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第1話 気に入らない委員長(ギャルside)

「おはよう〜! みんな!」


 教室の扉を開けて、大きな声で挨拶する。同じように返してくれる子も、頭を下げるだけの子もいる。

 もちろん、何の反応もくれない子も。


「みんな〜! じゃなくて、遅れてすいませんだろう、天野(あまの)

「あ、はーい。ごめんなさい、飯塚(いいづか)先生!」


 寝坊しちゃって! と可愛く笑ってみせれば、先生もそれ以上は責めてこない。

 しかも、まだ授業は始まっていないのだ。朝のホームルーム中なら、かろうじて遅刻にはならない。


「今度からは気をつけるから!」

「先生には敬語だぞ、天野」


 先生は呆れたように溜息を吐いたけれど、口元のにやけは隠しきれていない。

 先生、私のことお気に入りだもんね。


「厳密に言えば、ホームルームに遅れただけでも遅刻だけどね」


 ぼそっ、と小さな呟きが隣から聞こえてきて、私は思わず思いっきり顔をしかめそうになってしまった。

 いけないいけない、そんな可愛くない顔、したくないし。


「いや、まあそうなんだけどな、内申にも響くし、なるべく遅刻はつけない方がいいから」


 焦ったように言い訳をする先生に、そうだそうだ、とクラスメートたちが同調する。

 少し遅れただけでもちゃんと遅刻として扱うべきだ、なんて思う人なんていない。


 そう、この、葛城涼音(かつらぎすずね)以外には。


 腰まで伸びたロングの黒髪に、黒縁の眼鏡。笑っている顔なんて一度も見たことがない。

 いつも無愛想で、真面目な、うちのクラスの委員長。


「天野さんも、少しだけなんだから早くきたらいいのに」


 私を真っ直ぐには見ず、ぼそっと委員長は呟く。


 その少しが、朝は何より大事なんだって!


 大声で主張したくなるのを我慢し、だよね〜、なんて言いながら椅子に座る。


 今日はいつもより早く起きて、ちゃんとホームルームにも間に合うはずだった。

 でも、ヘアセットに時間がかかってしまったのだ。


 委員長には絶対、わかんないだろうけど!


 心の中で悪態をつく。絶対に目が合わないことにも腹が立つ。

 ああもう、なんで委員長の隣になんかなっちゃったんだろう。





「で、今日は数学のプリントやらないと帰れない、と?」

「そうなの! ねえお願い、愛梨沙(ありさ)、教えてよ!」

「いやいや、誰に頼んでんの? 私に教えられるわけないじゃん」


 愛梨沙は笑って、飲み終わったミルクティーの紙パックをゴミ箱へ向かって投げた。

 見事な放物線を描いて、紙パックはゴミ箱の中へ落ちていく。


「でもでも、愛梨沙は小テスト、合格したじゃん!」


 今日の三時間目、数学の授業で小テストが行われた。

 そして、30点以下だった私は、補習のプリントが終わるまで家に帰れなくなってしまったのだ。


「ああ、だって私、問題知ってたし」

「え?」

「2組が先に小テストやってたらしくて、こっそり彼氏に教えてもらったの」


 にっこりと笑って、愛梨沙は帰り支度を始めた。


「ごめんね。それに今日、デートだからもう帰らないと」


 ばいばい、と手を振って、愛梨沙は教室を出て行ってしまった。

 愛梨沙は、最近できた彼氏に夢中なのだ。


 まあ、ずっと好きだったの知ってるし、それはいいんだけど……。


「これ、自力でやれっていうの?」


 数学なんて、全然分かんないのに!


 最悪、と机に突っ伏そうとした瞬間、がら、と音を立てて教室の扉が開いた。


「愛梨沙? やっぱり戻ってきてくれた……って、わっ、委員長じゃん!」


 入ってきたのは、図書館の本を大量に持った委員長だった。

 私を見るなり、呆れたように目を逸らす。


「小テストの居残りでしょ」

「うん、そうだけど……」


 もしかして委員長が教えてくれるとか?

 委員長、成績は抜群にいいし。

 助けてくれるなんて、意外といいところもあるじゃん。


「ちゃんと自分でやるのよ」


 それだけ言い残し、委員長はまた教室を出ていった。


 はあ!? なにあれ!?


 意外といいところもあるのかも、なんて思ってしまった自分が恥ずかしい。


 やっぱり、委員長なんて気に入らない!

 早く次の席替えの日がくればいいのに!

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