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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第二章 ラブラブ大作戦

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束縛

 本日から新学期スタート。つまりは断罪の日。


「大丈夫だって。セシル心配しすぎ」


「だって、万が一ってことがあるだろ? まだまだ油断出来ないよ」


 ヴァレンティンからはどんな形であれ、俺とルイスを断罪しないと言質は取った。小説のシナリオ通りにはならないはず。


 でも不安なものは不安なのだ。前世は平和すぎて断罪なんて経験をしたことがない。今世もないが。


 周囲を警戒しながら歩いていると、腰のあたりまである綺麗な金髪の少女を視界に捉えた。後ろ姿ではあるが、見間違えるはずがない。


「リゼットだ」


「本当だ。クラスの令嬢と一緒だね」


「リゼット友達出来たんだな。ルイス、あっちから行こう」


 そう言って回り道をしようとしたら、令嬢がリゼットに向かって見下すように言った。


「あなた最近、セシル様とルイス様に相手にもされていないみたいじゃない」


「そうよ。たかだか伯爵令嬢の分際で生意気なのよ」


「ヴァレンティン様にまで色目を使って」


 リゼットが俯きながらも小さな声で反論した。


「私、そんなことしてない……」


 クラスの令嬢は友人ではなく、リゼットを虐めていただけだった。


 俺は腹が立ってリゼットを助けに向かおうとしたところ、ルイスに腕を掴まれて止められた。


「セシル、駄目。リゼットを自由にさせてあげるんでしょ」


「でも……」


「今出て行ったら今までと何も変わらないよ。あいつらは裏でたっぷりと躾ければ良いよ」


「うん」


 俺の腕を掴んでいるルイスの手に力が入ったのが分かった。そして、不気味な笑みを浮かべてルイスが言った。


「ふふ、リゼットに手を出した罪は重いんだから」


 冷静に俺を止めてくれたのかと思いきや、ルイスの方が正気ではなかったようだ。ルイスが一番怖い。あの令嬢三人はもう助からないだろう。


 心の中で令嬢三人に手を合わせていると、リゼットの元へヴァレンティンが駆けつけた。


「ヴァレンティン、タイミング良いな。さすが王子様」


「僕とセシルに恋路を協力して欲しいって言ってたけど、一人でどうにか出来るんじゃない?」


「うん。こう言う場面を繰り返すうちにリゼットが恋に落ちていくんだろうね」


「複雑だけどしょうがないね。セシルに慰めてもらおう」


「うん。そうだね……って、ルイス、ここ外だから」


 ルイスが項垂れる形で、俺の胸にぽすんと顔を埋めた。一応、ルイスの頭をぽんぽんと撫でるが周囲の視線が痛い。


「ルイス? 大丈夫?」


「セシルの心臓の音聞いてるとホッとする」


 何故だろう。ルイスに言われると裸を見られるより恥ずかしい気分になってきた。


「セシル大丈夫? 急に鼓動が早くなったよ」


「う、うん……気にしないで。それよりリゼットとヴァレンティンもう行ったよ」


「残念……じゃあ僕らも行こっか」


 ルイスはニコッと笑って軽快に歩き出した。


「さっきまであんなに落ち込んでたのに、気持ちの切り替えが早いな」


◇◇◇◇


 教室に入るなり、ヴァレンティンに声をかけられた。


「おはよう。聞いてくれ、ルイス」


「セシルです」


「セシル、先程な、リゼットが何やら揉め事に巻き込まれていたから助けに入ったんだ」


「良い感じになったんですよね。良かったですね」


「それが事態が悪化するから入ってこないでくれと怒られたんだ。少し胸を貸してくれ」


 そう言って先程のルイス同様、次はヴァレンティンが俺の胸に寄りかかって項垂れている。


「は? ちょっと、みんな見てますって」


 クラス中、黄色い声が上がった。俺とルイスも絵になる双子だが、俺とヴァレンティンも美形同士、非常に絵になる。後で妙な噂が流れない事を願おう。


 そんな事を考えながらも落ち込んでる人を放ってはおけないので、ヴァレンティンの頭をぽんぽんと撫でておく。


 ルイスが青筋を立てながら、口元だけニコッと笑って俺に言った。


「セシル? 何してるの?」


「え? いや、俺じゃなくて勝手に殿下が……」


「じゃあ、その手は何? 誰にでもそういう事するんだ」


「ごめん、つい。でも……」


「ついで誰にでもするんだね。セシルの言い訳は聞きたくないよ。勝手に二人仲良くイチャイチャしてれば」


 そう言ってルイスは自分の席に座った。


 浮気現場を彼女に目撃されて修羅場に発展したようなこの状況はなんだ。俺が悪いのか? 


 そもそもリゼットがヴァレンティンを怒ったからこうなっているのであって、その当人であるリゼットは……悲しそうな顔で俺とヴァレンティンを見ている。


 あの顔は間違いない。俺がリゼットのヴァレンティンを取ったと勘違いしている。俺がリゼットのイチゴを横取りした時も同じ顔をしていた。早くこの状況から脱しなければ。


「ヴァレンティン殿下、リゼットが見てますよ。シャキッとしないと嫌われますよ」


 俺がヴァレンティンにそっと耳打ちをすると、さっと俺から離れてヴァレンティンが言った。


「すまん。今度はリゼットのいない所で胸を借りることにする」


「いや、そういう意味では……」


「また後でな」


 爽やかな笑顔を見せてヴァレンティンは自分の席に戻っていった。


 俺も自分の席に向かうが、俺の隣の席はルイスだ。何故かルイスに先程怒られたので足取りが重く感じる。


 案の定、ルイスは俺を睨んできて言った。


「何がいけないか分かってる?」


「ごめん……」


「セシルはあいつが好きなの?」


「好きじゃないよ。ルイス、ごめんって。許してよ」


「もう二度としないでよね」


「はい」


 双子の弟の束縛が強すぎる。今までは自分が束縛する側だから気付かなかった。縛られる側はこんなにも疲れるのだと。


 そして、俺はルイスと二人で同じことをリゼットにしていたのだ。それも八年間毎日のように。


 理不尽に俺とルイスから怒られるリゼット。一回でこれだけ疲れるのだ。これを毎日されたら精神的に追い込まれるのも分かる。


 改めて、俺はリゼットの幸せを願った。リゼットとヴァレンティンを本格的に応援しようと。

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