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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第一章 断罪回避

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王子様の初恋

 俺はルイスと二人でお出かけしていたはずだ。ヴァレンティンとは無縁……むしろ敵、恋敵なはずなのに。テーブルを囲って仲良く三人でお茶をしている。


「で、どっちがどっちだ?」


「だから、俺がセシルでそっちがルイスです。何度言ったら覚えるんですか」


「覚えられる訳ないだろう。こんなにそっくりなのに。せめて服を変えろ。そうだ、僕の服とどっちか交換しよう」


「そんな高貴な服と交換できる訳ないでしょう」


 何度も名前を確認されて話が進まないので、担当直入にルイスがヴァレンティンに聞いた。


「ところで、ヴァレンティン殿下は僕らに何か御用でも?」


「ああ、別に用はない。たまたま見かけたから声をかけただけだ」


 用がないなら声をかけないで欲しかった。一国の王子と話すことなど何もない。リゼットから僕とルイスのことも聞いているはず。早々に話を切り上げよう。


「そうですか。殿下もお忙しいでしょうから、俺たちはこれで失礼しますね」


 そう言って立ちあがろうとすれば、バレンティンに制止された。


「ちょっと待て。今日は忙しくないから気にするな」


「左様ですか」


 ルイスも顔には出さないが心底嫌そうだ。そんなことを露程も知らないヴァレンティンは言った。


「せっかくなので、相談に乗ってもらえると助かる」


「相談?」


「リゼットのことだ。僕はリゼットに恋をしてしまったんだ」


 コーヒーを思い切り吹き出しそうになってしまった。リゼットとのことを俺とルイスに話すとはどういった要件だ。嫌がらせにも程がある。


「初恋なんだ。初恋は実らないと聞いたことがあるが、どうしてもリゼットが欲しい」


「……」


 もうすぐあなたのモノになりますよ、と言いたい。というより、既に良い感じのはず。そして、三日後には俺とルイスを断罪する気なのだろう?


 油断させてばっさり斬るタイプなのだろうか。それならタチが悪い。


 俺の心配している事をルイスが代弁して、ヴァレンティンに聞いてくれた。


「殿下は僕とセシルの事をリゼットからなんて聞いているんですか?」


「幼馴染だと聞いている。話をしてもいつもお前達の話ばかりだ」


 やはりリゼットはヴァレンティンに俺とルイスによって傷付いた心を癒してもらっていたようだ。内心落ち込んでいると、ヴァレンティンが続けて言った。


「リゼットは何が好きなんだ? 何をしたら喜ぶ? 教えて欲しい。お前ら二人、いつもリゼットと一緒だっただろう」


「……」


「初めはな、お前達がリゼットのことを好きなんだと思っていたんだ。だけど違うのだろう? 最近リゼットがお前ら二人に嫌われたと嘆いていた。もう修復は難しそうだと」


「それ聞いて、何故僕とセシルにリゼットについて聞くんですか?」


 ルイスがそう問えば、ヴァレンティンは伏し目がちにこう言った。


「藁にも縋りたい思いなのだ。お前ら二人が恋敵なら到底敵わない。何かしら理由を付けて国外追放でもしようかと考えたくらいだ」


「は? それで?」


 ルイスが怒っている。相手は王子、態度には出さないが。


「でも違ったと分かった今、協力してもらった方が最善な気がしてな。駄目か?」


 駄目かと言われても、俺とルイスが関わるまでもなくリゼットとヴァレンティンは結ばれる運命。だが、ここで恩を売っておいて損はない。


 ルイスの方をチラリと見ると、同じことを考えているのが分かった。なので俺はヴァレンティンに言った。


「俺とルイスが協力したとして、メリットはありますか?」


「メリットか……僕に叶えられる事であれば何でも一つ願いを聞こう」


「何でもですね?」


「何でもだ」


「では……リゼットから俺とルイスの事は聞いていると思います。その事について俺たちを罰しないと約束して頂けますか?」


 ヴァレンティンが暫し考えた後に言った。


「良いだろう」


 よし、言質は取った! これでひとまず断罪は回避出来たということで良いのだろうか。


 小説の強制力みたいなのが働く可能性があるから注意は必要だが、ヴァレンティンによる断罪はなくなったと考えたい。


 そんな事を考えていたら、ヴァレンティンが言った。


「でも、そもそも罰する程のことなのか? リゼットが大切に最後まで取っていたケーキのイチゴを食べただけだろう?」


「「は?」」


◇◇◇◇


 俺とルイスは帰宅するなり口々に思いの丈を述べた。


「まさかリゼットがあんなしょうもないことしかヴァレンティンに話してないとは思ってもいなかった」


「セシルの前世の記憶は当てになるの? 全くもってリゼットは心の内をあいつに見せていなさそうじゃん」


 そう、ヴァレンティン曰くリゼットとは世間話しかしていないらしい——。


『ケーキの苺をセシルに取られたこと。噴水の近くで遊んでいたら三人でびしょ濡れになって怒られたこと。夜中にこっそり屋敷を抜け出して三人で星空を見たこと等、楽しそうに話していたぞ』


『は? 楽しそうに?』


『笑っていたから楽しいんじゃないのか?』


 まさか俺は、自分たちの話をして笑ったリゼットを見て嫉妬したのだろうか。そんなことでリゼットを傷つけようとしたのだと思うといたたまれない気持ちになった。


『でも最近は何だか元気がないんだ。理由を聞いても教えてくれなくて』


 きっとまだヴァレンティンに心を開いていないだけで、執着し過ぎた故の心の傷はしっかりと刻まれているのだろう——。


「リゼットとの仲はいまいちでも、あいつ、僕とセシルの国外追放を考えていたね」


「うん」


 嫉妬に狂った俺とルイスが無理矢理リゼットを抱いていたならシナリオ通り断罪されていたに違いない。


 ルイスが暫し考えて俺に聞いてきた。


「これからどうする? 言質取ったし僕はリゼットをもう一度縛って三人で楽しくやりたいけど……セシルは嫌なんでしょ?」


「うん。これ以上リゼットに傷付いて欲しくない。恐怖を植え付けて震える姿より、自由に笑っている姿が見たい」


「分かった」


「ルイス、良いの?」


「リゼットはもちろん好きだけど、セシルは僕の分身、片割れだからね。セシルの嫌がる事はしたくない」


「ありがとう」


 こうして俺とルイスはリゼットとヴァレンティンの恋のキューピッドを務めることとなった。

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