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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第一章 断罪回避

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逃亡不可

 盗賊を縛り上げた後、近くの村まで行って宴が開かれた。


「いやー、あんたらが敵じゃなくて良かったよ」


「ほんとっすよ! ばったばったと薙ぎ倒す時のあの顔、まるで悪魔でしたね」


「おい! すんません。こいつ悪気はないんです」


 ルイス側にいた男達は四人、やはり俺が雇った盗賊だった。先程の俺を攫った男たちより気さくで、思ったより良いやつそうだ。盗賊に変わりはないが。


「それにしても、よくあそこにセシルさんが来るって分かりましたよね」


「ああ、何となく分かるんだよね。セシルはここに来るって」


「双子って凄いっすね」


 そんな何気ない会話をしながら一通り食事を済ませ、俺とルイスはひと足先に休むことにした。


 二階に上がり、借りた部屋に入るなりルイスが俺に抱きついて言った。


「心配したんだから。頭大丈夫? 痛いんでしょ?」


「うん。ごめん、ルイスに痛い思いさせて」


 俺が怪我をすればルイスにも痛みが生じる、逆も然り。なので、怪我の類はお互いに誤魔化しようがない。


 それより、最近はルイスと密着するとドキドキしっぱなしだったのに今は至極安心する。普段は数分でも離れたことが無かったのに半日以上離れたからだろうか。


 ルイスが心配そうな顔で俺に言った。


「どうする? 明日帰る? 今なら引き返せるよ」


「俺は帰らない。せっかく本当に盗賊に捕まったんだ。このまま二人で、二人だけで生きていこう」


 きっとこれが一番の最善なルート。リゼットは解放され王子様と結婚。我が家も没落回避。俺とルイスは知らない土地でセカンドライフ。


「良いよ。セシルがそうしたいなら。だけど……」


「分かってる。次危険な目にあったらその時は帰るから」


「約束だよ」


 そう言って俺とルイスは狭いベッドでいつものようにくっついて寝た。ルイスに包まれながらぐっすりと。


◇◇◇◇


「本当にこんなところで良いんすか? もっと隣国とか遠いとこまでお供しますよ?」


「いや、ここまで連れてきてもらっただけでもありがたいよ」


 そう言って、盗賊の男達と別れた。連れて来てもらったのはアヴリーヌ侯爵領からさらに進んだ隣国との境。


 隣国に行くにはどうしても入国審査が必要になってくる。我が家は今、必死になって俺とルイスを探していることだろう。きっと入国審査が通らないまま連れ戻されること間違いなしだ。


 攫われた時のように密輸すれば行けなくはないが、犯罪は駄目だ。なので、ほとぼりが冷めるまでの数年は拠点を移しながらも国内で過ごそうと思っている。


「セシル、これからどうしよっか。宿に泊まるにしてもお金かかっちゃうし、とりあえず野宿かな? それとも引っ掛ける?」


 引っ掛けるとはもちろん女性だ。この美貌があれば女性はいちころ、寝泊まりには困らない。一応、この美貌は男性にも通じる。


「目立ちすぎたら両親にすぐバレるから野宿だな。ひとまずテントはって薪でも焚べよう」


「オッケー。セシル単独行動は禁止だよ」


「分かってる」


 そう言って、俺とルイスは早速作業に取り掛かった。


 貴族だからそう簡単に自活出来ないと思う人もいるだろう。しかし、俺とルイスは昔から何でも出来る。教わってもいないことまで。小説の設定のおかげだろう。


 なのであっという間に寝泊まり出来る状態になった。


「ルイス、俺たちって凄いな」


「なに自画自賛してるの」


「このまま自給自足も良いけど、お金稼ぐ方法も考えないとな」


「そうだね。でも今日はもう休もう」


「うん」


 なんだかんだ家を出てから一週間は経っている。気を張り詰めていたから流石に疲れた。


「リゼットも元気にしてるかな」


 ルイスがポツリと呟いた。その表情はなんとも切な気だ。そんなルイスの頭をクシャクシャとかき混ぜながら俺は言った。


「俺たちがいない方が元気にしてるさ。今頃王子様とデートでもしてるんじゃないか?」


「そうだね……なんか僕、幻覚まで見えてきちゃった」


「幻覚?」


 ルイスの視線の先には噂の王子様ヴァレンティンとリゼットの姿があった。


「どうして……」


◇◇◇◇


 リゼットが俺とルイスの方に駆け、その後ろをヴァレンティンが歩いてやってきた。


「セシル! ルイス! 盗賊に襲われたって聞いて、私心配で……」


 そう言って、リゼットが俯いた。リゼットの背中を優しくヴァレンティンが撫でている。この二人は順調なようだ。それより……。


「なんで、こんな所に殿下とリゼットが?」


 俺の問いにヴァレンティンが応えた。


「リゼットが僕に頼みに来たんだ。お前達二人を探して欲しいって」


「……何故?」


 俺とルイスがいない方がリゼットは平和なのに……。そうか断罪する為か。話は既に固まっていたということか。


「公爵も必死で探しているが、見つからなくてな。リゼットが僕の力を頼ってきたんだ」


 なるほど、『精霊の加護』を使ったのか。この世界に魔法はない。しかし、王族にだけ与えられた特別な力、それが精霊の加護。


 精霊と話が出来、精霊に力を分けてもらって特別な力を使うことができる。


「そんなのって……」


 俺とルイスは初めから逃げることなんて出来ないじゃないか。リゼットはそんなに俺とルイスのことが許せないのか。


 そりゃそうか。あそこまで縛り付けて恐怖に陥れて許せるはずがない。でもせめて、せめて……。


「ルイスだけは助けて欲しい。俺はどうなっても良い。だけど、ルイスだけはどうかお願いします」


 俺はそう言ってリゼットとバレンティンに深く、深く頭を下げた。


「セシル? 何を言って……」


 ルイスが戸惑って俺に声をかけようとしたが、それをヴァレンティンが遮って言った。


「助けるも何も、お前らがあの盗賊半殺しにしたんだろう? 人身売買もしていたようだし、死刑になるだろうがな」


「え……断罪しに来たんじゃ」


「お前はさっきから何の話をしているんだ? リゼットに頼まれたから僕はお前らを探したが、お前らを攫った盗賊はとっくに捕まっているし、一体こんなところで何をしている」


 ヴァレンティンは怪訝な顔でこちらを見ている。そして、本当にただ盗賊から俺とルイスを助けにきただけのような口振りだ。


 俺は咄嗟に嘘をついた。


「えっと……この機会にサバイバルキャンプを」


「なんだそれは? もう良い。さっきからセシルかルイスかどっちか知らんが、疲れてるんだろ。早く帰って休め」


 リゼットがボソッと「セシルです」と呟いた声は誰にも届かなかった。

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