幸せ
俺とルイスは王城に遊びに来ている。
俺はヴァレンティンとリゼットに会いに。そして、ルイスはリュシエンヌに会いに。
「ヴァレンティンはリゼットと喧嘩はしないの? 前はよくしてただろ?」
俺がそう問えば、リゼットが応えた。
「前はヴァレンティン様のせいで私がセシルとルイスに見捨てられたと思って嫌いだったの。誤解だって分かってからも何となく急に態度変えれないでしょ?」
「てことは、今は仲良しなんだ?」
「そういうことになるな」
——三回目のタイムリープで、デイヴィッドとリゼットの婚約はなくなった。しかし、リゼットが婚約者として選んだのはヴァレンティンだった。
内心ショックだったが、元の時間に戻ってからヴァレンティンから奪えば良いと思っていた。しかし、小説の挿絵のように仲良く並んでいる二人を見ると邪魔するのはやめようと思った。
リゼットが幸せならそれで良い。俺はリゼットの、愛する人の幸せだけを願って生きていく。あわよくば、近衛騎士にでもなって近くで見守りたいとは思うが。
俺がリゼットとヴァレンティンの姿を眺めていると、庭園にリュシエンヌが歩いているのを確認した。
「ルイス、あそこ」
「うん」
ルイスは立ち上がって、お手洗いに行くと称して庭園に向かった。《《初対面》》のリュシエンヌに会いに。誰かに注意されても道に迷ったとでも言えばどうにかなる。
無事にリュシエンヌとの出会いを済ませ、ルイスとリュシエンヌの幸せな顔が見られることを心から願っている。
結局俺は独りぼっちだが、それはそれで良いかもしれない。ティムが言っていた。
『自分の力で他人が幸せになる姿を見るのが好きなだけだよ』
うん。正にその言葉。今ならすごく分かる……。
「って、え……?」
ティムの幻聴が聞こえてきた。リゼットがキョトンとした顔で見てきた。
「どうしたの、セシル?」
「いや、なんでもない」
まさかね。過去を変えたせいで未来が変わっているのだ。魔法も使えなくなっているし、ティムがいるはずない。そう思っていると、ヴァレンティンが俺に向かって言った。
「お前は誰に付いている精霊だ? 見ない顔だが」
「は? 俺?」
「違う違う、お前の肩に乗ってるんだ。精霊が」
まさかと思って視線を肩にずらすと……いた!
「セシル、やっぱり僕は君が良いよ」
「え? ティム? 過去が変わったからティムは俺のこと分からないんじゃないの?」
「そうだよ」
「じゃあなんで?」
「ナイショ」
屈託のない笑顔を見せるティム。細かいことは分からないが再開できたことに感動を覚えている。
「セシルには精霊が見えるの?」
「そうみたい」
「良いなぁ。可愛い?」
「うん、リゼットの次に可愛いよ」
リゼットの頬がピンク色に染まった。やはりこの世で一番可愛い。
ティムが俺のケーキを食べながら聞いてきた。
「セシル、魔法が使いたい?」
「いや、魔法はもう良いや。使い道もうないし」
ティムの為にケーキを小さく切り分けながら俺は続けた。
「俺、今ぼっちだからさ、ティムがそばにいてくれたらそれで幸せ」
「じゃあ、僕と精霊やる?」
精霊やる? とはどういうことだろうか。人助けのことだろうか。
「精霊は元々は何かに宿る魂みたいな存在なんだよ。それが木でも川でも何でも良い。例え人間でもね」
「つまり、本物の精霊になれるってこと?」
「うん。人の行く末を見られて楽しいよ」
悪く言えば、俺のセシルとしての人生は終わりを迎えるということか。悩ましい問題だ。
「ちょっと考えさ……」
「僕もなれるのか? 精霊に」
ヴァレンティンがティムに突然話しかけたのでティムが驚いて咽せている。
「ティム、大丈夫?」
「う、うん。王子様が精霊になりたいだなんてどういうこと?」
ヴァレンティンがバツが悪そうに言った。
「リゼットはな、本当は僕が好きではないんだ」
「は? でも仲睦まじい……」
「演技に決まっているだろう。だから、俺が精霊になればリゼットを陰ながら支えられるかなと」
「いや、待て待て待て、リゼットの想い人ってじゃあ誰なの?」
リゼットを見ると俺をじっと見つめて頬を赤らめている。
まさか、ルイスの言うように俺? でも俺は二回も振られている。ここで勘違いして告白したら三度目の失恋になる。俺はもう傷つきたくないんだ。
「セシル、私はセシルが好きなの」




