タイムリープ 一回目
今現在、タイムリープが決行されようとしている。
「ティム、どうやってアスランの魔力をルイスに流すの?」
「手と手を重ねて、そこに向けて魔力を流し込めばルイスに流れていくよ」
ティムがそう言うと、ルイスとアスランは心底嫌そうな顔をした。
「何で僕がこんなやつと」
「俺だって嫌だよ。セシルじゃダメなの?」
「ルイス、リゼットの為だよ! アスランも見てごらん、ルイスは俺と同じ顔だろ? 俺だと思えば大丈夫」
ルイスとアスランを宥めれば、二人は渋々手を重ねた。それを見ながら、ティムが思い出したように言った。
「言い忘れてたけど、あっちに滞在できる時間は五時間だから。それ過ぎたら自動的に戻ってくるよ」
「それ早く言ってよ。セシル、予定通り夜会の日で大丈夫?」
「うん。リュシエンヌと婚約はせずに、リゼットに想いを伝えればどうにかなるよ」
「了解。じゃあ、行くよ」
ルイスはアスランから手を離し、俺の手を握ると一気に目の前がぐにゃりと歪んだ——。
◇◇◇◇
そして、目を開けると馬車の中だった。俺とルイスの服装は夜会に着て行ったものだ。
リゼットはまだ乗っていない。ということは、夜会の前にリゼットを迎えに行く途中のようだ。
ルイスが感心したように言った。
「本当に戻ってきたんだね。凄いね」
「うん。だけどさ、この時ってなんか俺たち、リゼットにぎこちなかったよね。どう接して良いか困るね」
「そうだね。まぁ、どうにかなるよ。それよりセシルは大丈夫? もう鼻血出して倒れたりしないでよ」
悪戯な笑みを浮かべながらルイスがそう言うので、俺はやや不貞腐れながら応えた。
「最近は見慣れて、赤面もあんまりしないから大丈夫だよ」
この夜会で、リゼットの顔面破壊力が凄まじいことに気がついた。そして鼻血を出して倒れたのだ。ついでにルイスと深い口付けを交わしたのを思い出してしまった。これは忘れよう。
「ほら、もうすぐリゼットのとこに着くよ」
ルイスの言葉に俺は気を引き締めた。
◇◇◇◇
俺とルイスとリゼットは夜会会場に到着した。今回はルイスとリゼットが既に恋人同士なのではないかという勘違いはしていないので、いつものようにリゼットが真ん中だ。
ちなみに、馬車の中ではルイスが先陣を切って口を開いてくれた。
『リゼット、今日は一段と可愛いね。僕たちのために張り切ってくれたの?』
『……うん』
『この髪飾りなんてさ、僕とセシルの色でしょ?』
『うん。変かな?』
『とても似合ってるよ』
結局馬車の中で話した内容は前回とほぼ一緒だった。ルイスとリゼットの言葉のラリーが前よりスムーズに行われたくらいだ。
突然俺がリゼットに愛の告白なんてしたらリゼットに警戒される。俺の想いは夜会でダンスでも踊りながら二人きりの時に伝えるつもりだ。
そして今、俺は鼻血を出して倒れていないので、夜会に遅刻せずに参加できている。着いて早々に前回同様ヴァレンティンがやってきた。
違うのは隣に既にリュシエンヌがいることくらいだ。なので、リゼットは王女のリュシエンヌがいる手前、強気に出るのは控えたようだ。ヴァレンティンとの言い合いは無かった。
そして、俺たちは互いに挨拶を済ませるとやってきた。セルベル侯爵令嬢が。
「セシル様、どうして夜会に私を誘って下さらなかったのですか? 私はずっと待っていましたのに」
相変わらずセルベルのわざとらしい演技に反吐がでる。前回同様の会話をすれば、ヴァレンティンがリュシエンヌを婚約者として勧めてくる。
故に、俺は最初からセルベルをバッサリ切ることにした。
「君が裏で何を企んでるか知らないとでも? 俺は姑息な手段を使って他人を陥れる令嬢とは同じ空気を吸うのも嫌だね」
「えっと……何の話でしょう? 身に覚えが全くありませんわ」
セルベルは白を切るつもりのようだ。俺は冷ややかな目で言った。
「そう、だったらここで全て明るみにしようか? 困るのは貴女だと思うけど?」
「うっ……何の話かは存じませんが、今日のところは身を引きますわ」
悲劇のヒロインぶったセルベルが取り巻きを連れてその場を後にした。
よし、ヴァレンティンからリュシエンヌの婚約を勧められることもなく乗り切った。そう思ったのも束の間、リュシエンヌが思わぬ事を口にした。
「セシル様、見事でしたわね。セシル様は婚約者をお探しなのでしょう? それならば、わたくしと婚約して頂けませんか?」
ヴァレンティンからではなく、まさか本人の口から婚約を申し出るとは思いもしなかった。
ヴァレンティンからの提案ならともかく、相手は王女、断るのは失礼にあたる。しかし、断らなければ。断り方を考えていると、リゼットが隣で困ったような笑顔で俺に言った。
「良かったね。リュシエンヌ様とならセシルも幸せになれるね」
「リゼット、俺は……」
「私、気分が悪くなっちゃったから先に帰るね」
「待って……」
俺の声はリゼットには届かず、リゼットは走り去ってしまった。俺の気持ちを知らないヴァレンティンは嬉しそうに俺の肩を叩いて言った。
「決まりだな。セシルが弟になるのか。嬉しい限りだ」
「セシル様、宜しくお願い致します」
リュシエンヌは淑女の笑みを浮かべた。




