協力者
俺はルイスに包み隠さず、リゼットへの想いを伝えた。そして、タイムリープしたいことも。
「そっか。それならリゼットも報われるね」
「どういう意味?」
「リゼットが幸せになれると良いねってこと」
ルイスも同意してくれたようなので早速本題に入る。
「まずは協力者を見つけないとな。誰だと思う?」
「さぁ。国王陛下だったりしてね」
「はは、頼むのが恐ろしいね」
「こういう時はあいつに聞くのが手っ取り早いよね。ちょっと待ってて」
そう言ってルイスは消えた。そして一分もしないうちに再び現れた。ヴァレンティンと一緒に。
「なんだ、急に。説明くらいしろ」
「お前、リゼットに幸せになってもらいたいよね?」
『リゼット』と言うワードに、ヴァレンティンは突然連れて来られた怒りは一瞬で消えたようだ。
「リゼットがどうした? 何かあったのか?」
ヴァレンティンの問いに俺が応えた。
「婚約したのは知っているだろう?」
「ああ。納得いかんがな。こればっかりはどうしようもない」
「婚約が白紙になるかもしれないって言えば、協力してくれるか?」
「もちろんだ。なんだってやる」
「言ったからな、約束だぞ」
俺のリゼットへの気持ちは、ヴァレンティンにはまだ伝えない。伝えたら口を閉じそうだから。
本題のタイムリープについてを説明すると、ヴァレンティンは立ち上がって言った。
「それは、僕が行っても良いんじゃないか? 僕に行かせろ!」
「駄目だよ。お前が行ったらリゼットはデイヴィッドの元へ喜んで行きそうじゃん。逆効果だよ」
「なっ、そんなことは……」
あると思ったのだろう。ヴァレンティンは口を閉じた。
「だからさ、闇属性の持ち主教えてよ。で、説得するの手伝って」
「それが人にものを頼む時の態度か!」
ヴァレンティンの座っているソファの背もたれにルイスは乗っかっている。つまり、上からヴァレンティンを見下ろしながら頼み事をしている。
「態度なんてどうでも良いよ。リゼットをあの男に取られたままでも良いの?」
「それは嫌だ。どこの馬の骨とも分からんやつにリゼットはやれん」
どこの馬の骨って……三大公爵家、ランベール公爵の一人息子。れっきとした高貴な血筋だよ。と、突っ込みたいところだが、本日は思いとどまった。
「で、誰なの? 闇属性の持ち主」
「アスランだ」
「ガチか……」
なんとも微妙な相手だ。ルイスの恋敵……表面上は俺の恋敵だが。つまり、敵にエールを送るようなものだ。
アスランは協力する代わりに、婚約破棄を条件に出してくるだろう。俺の心配をよそに、ルイスは言った。
「良いんじゃない、婚約を破棄したら。てか、リュシエンヌと婚約する前に戻って婚約なしにしちゃおうよ」
「それで良いの? 今まで積み重ねた愛がなくなるよ」
「元々、嘘で塗り固めた愛だからね。一から僕が落としてみせるよ」
ヴァレンティンはルイスとリュシエンヌのことは知らないので、呆然とした顔で俺とルイスを見ている。
「お前、もう帰っても良いよ。次はあいつ連れてくるから」
「待て待て待て、せめて最後まで見届けさせろ。アスランが渋ったら僕も説得してやるから。な?」
「しょうがないなぁ。今回だけだよ」
「ありがとう。セシル!」
「ルイスだよ……」
◇◇◇◇
そして、アスランにもヴァレンティン同様に説明した後、協力を仰いだ。アスランの返事は分かりきっていた。
「嫌だね。どうしてセシルの為に力を貸さないといけないの」
「お願いだよ。アスラン、ほら、あーん」
「はむっ……なにこれ?」
俺は金平糖を数個掴んでアスランの口に入れた。
「どう? 美味しいでしょ? こんなのもあるけど食べる?」
「う……何、この真っ黒い物体は」
「これは餡子たっぷりのおはぎだよ。そしてこっちはわらび餅、きっと気に入ると思うよ」
そう、我が家ではこの国で取れる食材を使って和菓子に非常に良く似たおやつを作っているのだ。
初めは洋菓子に飽きた俺が我が家の専属シェフに頼んで作ってもらった。シェフはその異様な見た目に味見が出来ないでいたが、俺が美味しそうに食べる姿を見て一口食べた。
その瞬間から、我が家のスウィーツと言えば和菓子になった。甘いものが好きなアスランもきっと気にいるはず。
「ほら、アスラン。あーん」
「はむッ……ん……!?」
アスランの金色の瞳がキラキラ輝いている。口にあったようだ。
「なにこの甘くて美味しいの! セシルはこんなのを毎日食べているの?」
「そうだよ。羨ましいでしょ?」
「うん。もっと食べたい! あれも食べて良い?」
「僕の時と待遇が全然違うが……僕はこれが食べたい」
ヴァレンティンが羊羹に手を出そうとしたので、すかさず羊羹の前に氷のシールドを作った。
「それはアスランの! ヴァレンティンは最後に残ったら食べて良いよ」
「残飯処理とは、解せん」
「ほら、アスラン。あれは気にしなくて良いからね。次はこれ食べてみて?」
「はむっ……」
その様子を眺めながら、呆れた顔でルイスが言った。
「セシル、わざわざそれしなくて良いんじゃない? リュシエンヌとの婚約白紙に戻すってさっさと言えば良いじゃん」
「ダメだよ。こういうのは、しっかり餌付けしてからじゃないとすぐ反発するんだから」
前世で飼っていた犬がそうだった。拾ってきた野良犬だったせいか、警戒心が強かった。
餌を与えると、徐々に懐いてはくれた。しかし、そろそろ良いかなと思って首の辺りをわしゃわしゃと撫で回していると、思い切り噛みつかれたのだ。
十分に餌付けされてからは、俺に従順だった。愛を囁けば顔をぺろぺろ舐め回して、とても可愛い犬だった。
愛犬にしていたように、アスランの顔をすりすり撫でながら囁いた。
「ほら、アスラン。俺のお願い聞いてくれたら、いつでもこの和菓子食べに来て良いよ。《《俺は》》リュシエンヌから手を引くし」
「本当に!? うん、聞くきく。魔力貸せば良いんでしょ?」
従順なアスランに耳と尻尾が見えてきた。今度は首輪でもプレゼントしようかな……。
「セシル……それ犬じゃないよ」
余談だが、ルイスは俺とアスランの仲は嫉妬しない。出会った当初こそしていたが、小動物に向ける愛情に等しいと分かってからは、遠い目で見守ってくれている。
「じゃあ、アスラン。早速明日決行するから、今日はゆっくり休むんだよ」
「うん」
気が変わったなんて言わせないように、俺はアスランをそのまま朝まで可愛がった。




