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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第五章 恋心を自覚するまで

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自覚

 俺とルイス、リゼットの前には張り付けた笑顔のデイヴィッドがいる。リゼットはやや俯き加減で挨拶も出来ないでいる。


 リゼットの代わりに、ルイスもデイヴィッドに負けない程に作り笑いをして言った。


「これはこれはデイヴィッド殿、何か御用でも?」


「君たち双子はリゼットから手を引いたのでは?」


「誰がそのようなことを?」


「社交界では噂になっているよ。まぁ、今更君たちに出る幕などないけれど」


「どう言う意味だ?」


 俺がデイヴィッドに問い正せば、デイヴィッドは悪戯な笑みを浮かべてリゼットに言った。


「自分の口で説明してあげなよ。僕とリゼットは、何したんだっけ? ん?」


「私とデイヴィッド様は……約しました」


「ん? 聞こえないよ。もっとはっきり大きな声で」


「婚約致しました。私とデイヴィッド様は婚約致しました」


「「え……?」」


 リゼットの言葉に俺とルイスは固まった。


 リゼットが婚約? そのような話は一切聞いていない。しかも相手は、この腹黒なデイヴィッドだ。リゼットが選ぶとは思えない。


「リゼット、婚約って……?」


「お父様、事業に失敗して……」


 そこに付け入ったのか。数ヶ月でも俺とルイスがリゼットを突き放したから、俺の家からは援助はしてもらえないと思ったのかもしれない。


「リゼット? 政略結婚させられそうになったらルイスに泣いてお願いするんじゃなかったの? こいつのこと好きなの?」


「だって……ルイスには頼めない」


 肯定しないと言うことは、この婚約にリゼットの意思は反映されていない。


 リゼットの言葉にルイスがショックを受けたのか、小さな声で呟いた。


「やっぱり僕のことは嫌いなんだ。前より良い関係に戻れたと思ったのは勘違いだったんだ。僕は馬鹿だね」


「ルイス、違う……」


「違わないでしょ。セシルは婚約しちゃったから仕方ないにしても、僕のこと友達だと、大切だと思ってくれてるなら相談くらいするよね。何にも聞かされてないんだけど」


「ごめんなさい。でも……ルイスは好きな人がいるんでしょ?」


「……」


 ルイスの事を考えて敢えて相談しなかったのか。ルイスの想い人がリュシエンヌとは知らないにしても、相談したらルイスは確実にその恋心を諦めてリゼットを優先させるから。


 リゼットとルイスが黙り込んでいると、デイヴィッドが口を開いた。


「お別れは済んだようだね。と言うわけだからさ、僕のリゼットを早くこっちへ引き渡してもらおうか。君たち双子のお友達ごっこはこれで終わりだよ」


「リゼット……」


 行くなと言いたいが、デイヴィッドと正式に婚約している以上、他の男は口出しできない。


 リゼットは一歩前に出て、振り返って困ったような笑顔ではっきり言った。


「セシル、ルイス、ごめんね。今までありがとう」


 リゼットのその言葉に、その表情に酷く胸が締め付けられた。そして俺は気がついた。


 俺は八年前から何も変わっていない。前世の記憶を取り戻してからもずっと、ずっとリゼットのことが好きだったのだと。


◇◇◇◇


 それから夏季休暇に入ったこともあり、リゼットとは疎遠になった。リゼットの父親に抗議文を出してみたりもしたが、なんせ婚約相手が三大公爵の一人息子。門前払いだった。


「セシル、今日も会わないの?」


「うん。ルイスお願い」


「良いけど、このままだと本当に素のセシルで関わるのが難しくなっちゃうよ」


「良いから。お願い」


 リゼットへの恋心を自覚してからは、リュシエンヌに会えなくなった。なので、面会は毎回ルイスにお願いしている。


 ルイスが出て行ったと思えば、ティムが俺の周りをふよふよ飛びながら聞いてきた。


「セシルはどうしちゃったの? 僕に出来ることある?」


「ティム、ありがとう。でもこればっかりはどうにもならないかなぁ」


 失恋の傷は時間が解決してくれる。ただただ時が経つのを待つばかりだ。


「時間が早く進めば良いのになぁ」


 ぽつりと呟くと、ティムが平然と言った。


「できるよ」


「え、出来るの?」


「時間がというより、時間軸をセシルが移動する感じ。過去にも行けるし未来にも行けるよ」


 それはタイムリープではないか。何とも便利な。と言うことは……失恋の傷を癒すよりも、リゼットの婚約前に戻った方が良いのでは。


「あ、でも時間を移動するにはルイスの方の力かぁ。ルイスに連れてってもらう? だけど、セシルも連れてってなると二人同時だから、魔力量が足りないかなぁ」


 ティムが一人で自問自答している。


「ティム、結局行けるの? 行けないの?」


「行ける……とは思う」


「方法を教えて」


「えっとね、————」


 藁にも縋りたいとはこのことだ。可能性がゼロでないのなら試したい。俺はティムの話を真剣に聞いた。


「つまり、もう一人協力者がいると。そういうことか?」


「うん。でも、加護を受けた人なら誰でも良いってわけじゃなくて闇属性の魔力をもらった人に限られるんだけどね」


 ティムのその言葉に疑問が生じたので聞いてみた。


「俺とルイスは二つに分けたから俺は闇属性ないけど、他の人は基本一人で全部もらえるんじゃないの?」


「まさか。全属性を与えられる精霊は僕くらいだよ。他の奴はせいぜい二つが限度かな」


「ティムって凄いんだね」


 ティムは見かけによらず、チートな精霊のようだ。


「ただし、時間軸を移動できるのも三回までだから気をつけてね」


「なんで?」


「そんなに何度も移動して未来が次々と変わるのは良くないでしょ。四回目を発動しようとしたら、危険人物扱いされて魔力が自然と精霊……って僕なんだけど、僕に返ってくるようになってる」


「便利なストッパーだな」


「まぁ、セシルが幸せになれるように頑張ってよ」


「ありがとう。でもどうして精霊は人間に力を与えるんだ?」


 ティムはニコッと笑って言った。


「自分の力で他人が幸せになる姿を見るのが好きなだけだよ」


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