魔法
俺は魔法が使えるようになった。この世界で言うところの、王族だけに受け継がれるとされる『精霊の加護』だ。
なので、俺にも精霊と話ができるようになった。
「あの時は本当にありがとう。助かったよ」
「うん。役に立てたなら良かったよ」
——洞窟の中で、俺はドライヤ……熱風を出して衣服を乾かした。そして、リゼットには俺の服を着せた。
ルイスは不思議そうな顔で聞いてきた。
『セシル、何したの?』
『なんか、魔法が使えるようになったっぽい』
『へー。良いなぁ』
『ルイス、全然羨ましそうじゃないんだけど。驚かないの?』
体調が悪いのではないかと心配になる程にルイスの反応は薄かった。
それに対してルイスが淡々と言った。
『驚いてるよ。でもセシル、前世の記憶もあるくらいだから色々特別なんだろうなって』
『だからなんだね。お兄さんだけ、他と違うからどうしてだろうって思ってたんだ』
『うわッ! 誰?』
ルイスと俺の間に、突然小さな羽の生えた生き物が現れた。見た瞬間に精霊だと分かったが、見知らぬ人……精霊が目の前に現れたら『誰?』と聞きたくなるのが人の性と言うものだ。
精霊は律儀に自己紹介をしてくれた。
『僕はティム。人間には精霊って呼ばれてる。よろしくね』
『うん、よろしく。俺はセシル。ティムはルイスには見えてないの?』
『そのはずだよ。それより、その子早くお家に帰した方が良いんじゃない? 天候までは操れないけど、転移ならできるはずだよ』
『ありがとう。やってみる』
俺はリゼットとルイスを連れて、俺の部屋に転移した。さすがに、突然リゼットの部屋に転移してこのボロボロの姿を屋敷の者には見せられない。
低体温は改善したが、リゼットは熱を出していた。意識も戻っていないので、リゼットの着替えをメイドに頼み、俺とルイスで看病にあたった。リゼットが目覚めたのは翌朝だった。
リゼットは洞窟でのことは何も覚えていなかったので、裸にさせて抱き合ったことは秘密にしておいた。知らない方が幸せなこともある——。
「でも良かったの? 一人で使いこなせば最強になれたのに」
「うん、俺とルイスは二人で一つだから」
ティムはルイスにも加護を与えた。俺がティムにお願いしたからだ。
俺だって魔法が使えるだけなら何も言わなかった。だが、誰もが知っての通り、ルイスは嫉妬深い。俺とティムだけで話していると、ルイスの嫉妬は酷くなるばかり。
通常、精霊一人に対して人間一人にしか加護は与えられないらしい。しかし、そこは流石双子! といった具合にどうにかなった。使える魔法が半分ずつにはなってしまったが——。
ルイスが突然現れて、ティムに言った。
「ティム、これ凄いね。隣国までは無理だったけど、国境までは普通に行けたよ」
「セシルも凄いなって思ったけど、こんな短期間で使いこなせるルイスも凄いね」
ティムは嬉しそうにルイスを褒めている。
ちなみにティムはショタキャラだ。性別はないらしいが、茶色の癖っ毛にクリクリな大きな瞳の見た目は幼い男の子。
そして国境まで行ったというルイスの移動手段は、言うまでもなく転移だ。闇属性がルイスに渡ってしまった。別に良いのだが、ヤンデレが病み……闇属性を持つと最強キャラになるというジンクスがあるとかないとか……。
心配そうにティムが俺とルイスに言った。
「でも、その力、大っぴらに使わないでね」
「どうして?」
「昔、この力を巡って戦争が起きたことがあるんだ。だから今は、王族にしか加護は与えないってことになってるから」
ティムのその言葉を聞いて、今まで疑問に思っていたことを口にした。
「どうして俺にくれたの? 王族じゃないのに」
「うーん、魔法を欲してたから? ちょっと違うかな。分かんないけど、セシルなら良いかなって。王家の人間を次々にたらし込んでて面白いし」
「はは、そっか……」
そんなノリで加護を与えるティムは精霊界でお叱りを受けないのだろうか。心配になってきた。
そしてルイスも軽い調子で言った。
「リュシエンヌと結婚する予定なんだから良いんじゃない?」
「いや、でも結婚してもリュシエンヌが降格して俺は公爵になるんじゃ……」
「まぁ、なんでも良いよ。困った時に使わせてもらうね、ティム」
「うん。僕の力は精霊界ではトップクラスだから加減しながら使ってね」
こんな可愛い顔してトップクラスとは、人……精霊は見かけによらないな。
それより、人間界では身分を始め、座学、体術、剣術などあらゆることにトップクラスな俺とルイスは、ティムの魔法も加わることでチートな双子になったのではないだろうか。
戦闘パートはないと願いたいが、なんせ小説のシナリオが滅茶苦茶になってしまった今、何が起きるか見当もつかない。能力があるに越したことはない。
そして、俺が隠れてこっそりと箒に跨っているのはルイスには内緒。




