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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第五章 恋心を自覚するまで

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遭難

 ヴァレンティンとアスランが帰った。これで当初の予定通り、俺とルイス、リゼットの三人だ。


 早いとこ仲直りして、休日を楽しもう。そう思っていた矢先、雨が降り出した。


「残念、今日は中止だね」


「山の天気は変わり易いからね。酷くなる前に帰ろう」


 ルイスと俺は口々にそう言うと、バツが悪そうにリゼットが言った。


「セシルごめんね。私が怒ってたからあの二人帰したんでしょ?」


「元はといえば俺が悪いんだ。リゼットの好意を無駄にしてしまって……」


「ほら、仲直りしたんだから早く帰るよ。本降りになりそうだ」


 若干暗い雰囲気になってしまったが、それをルイスが打ち破り、俺達三人は足早に馬を繋いでいた場所まで急いだ。


 そして、戻ると馬はいなかった。馬を繋いでいた紐が断ち切られていたのだ。ルイスは不機嫌そうに言った。


「誰だよ、こんなことした奴。あいつかな?」


「アスランじゃないと思うよ。ヴァレンティンも一緒だし」


「歩いて戻るしかないね。リゼット歩ける?」


「うん、大丈……キャッ!」


 雷まで鳴り響き、本格的に嵐になりそうだ。


 ルイスがリゼットを抱き寄せて言った。


「大丈夫? リゼット雷苦手だよね。ひとまず雨風が凌げるとこ探そう」


「そうだな。雨も酷くなってきたし急いだ方が良さそうだ。ルイス、リゼットをお願いね」


「任せて」


 ルイスはリゼットを抱き抱え、俺たち三人はその場を後にした。


◇◇◇◇


「ひとまずここでやり過ごそう」


 丁度良い洞窟があったので、そこで一時休憩することになった。俺とルイスは服を脱いで水気を絞りながら口々に話した。


「今朝の天気とは大違いだな。帰れるかな」


「帰るのが遅くなったら使用人が探しに来てくれるから大丈夫でしょ」


「リゼットのとこは心配性だから、今にも迎えを寄越してるかもな。ね、リゼット……?」


 リゼットはその場にしゃがみ込み、小刻みに震えていた。唇は真っ青になり、全身びしょ濡れ状態のままだ。俺は慌ててリゼットに駆け寄り、服に手をかけた。


「リゼット! 何やってるの!? 早く脱がないと!」


「ダ、ダメ……」


「何言ってんの! チアノーゼ起こしてるじゃん。このままじゃ、体温奪われて死んじゃうよ!」


 拒絶するリゼットの服を無理矢理脱がせようとすれば、ルイスが俺の手を掴んで冷静に言った。


「セシル、リゼットは女の子だよ」


 その言葉にハッと我に返った。


「でも、このままじゃリゼットが……」


「僕たちは奥の方行ってるから、リゼット自分で脱げる?」


「……うん」


 震えながら返事をするリゼットを置いて、俺とルイスは奥の方へ移動した——。


「ありがとう、ルイス」


「いや、僕が先に気付いてたらセシルと同じことしてたよ。でも、どうしよっか。火をおこす道具もないし、リゼット大丈夫かな」


 こういった遭難シーンでは裸で抱き合うのが一般的だが、リゼットは嫌がるだろう。ヴァレンティンかアスランがいてくれたら、精霊の力で火を起こしたり脱出出来たりするのだろうが……。


 ルイスも同じことを考えていたようで、ポツリと呟いた。


「あいつ、どっかでリゼットのストーカーしてないかな」


「必要な時にいないよね。とりあえず、リゼットの様子を見に行こう。あ、もちろん見るって言っても声かけるだけだよ」


「分かってるよ。それに僕はリュシエンヌの裸にしか興味ないから大丈夫だよ。あ、あとセシルとね」


「こんな時に冗談言わないで」


「こんな時でも顔が赤くなるんだね」


◇◇◇◇


「リゼット? 大丈夫?」


「……」


「リゼット? 僕たち、後ろ向いてるから大丈夫だよ」


 俺とルイスの呼びかけに一切反応がない。


「ルイス」


「うん」


 俺とルイスが同時に振り返ると、リゼットは倒れていた。


「「リゼット!?」」


 服はびしょ濡れのまま全く脱いだ形跡がない。リゼットに触れると、とても冷たくなっていた。


「ごめん、僕のせいだ。あのまま無理矢理にでも脱がせていれば……」


「ルイス、後悔するのは後にしよ。緊急事態だ。リゼットには悪いがひとまず脱がせよう」


 リゼットの服を脱がそうとするが、濡れているのと手が悴んで思うように脱がせられない。


「くそッ!」


「セシル、代わって!」


 ビシャッ……ビリビリッ!


 ルイスはリゼットの服を思い切り引き裂いた。そして、リゼットを抱きしめた。


「あーあ、後で殴られるかな」


「命には変えられないよ」


 このまま体温が上がってくれたら良いが……。


「セシル、リゼット冷たすぎ。脈も弱くなってるし……背中の方お願い出来る?」


「うん。リゼットごめんね」


 リゼットに一言謝罪をしてから、リゼットの体を俺とルイスで挟んだ——。


 これで仮にリゼットの低体温が改善されたとして、その後はどうする。外は嵐で、火をおこそうにも手段がない。


 リゼットの服は着れないし、俺とルイスの服も絞りはしたが濡れた状態で着せるのは危険だ。再び体温を奪われる。


 そして、このまま三人が裸で抱き合ったところで長時間は持たない。せっかく異世界転生してもこれでは無力すぎる。


 魔法でも使えたらなぁ。


『魔法が使えたらどうにかなるの?』


「そりゃあ、魔法が使えたら体も一気に温めて、服をパパッと乾かせるからな。ついでに天候まで操れたりなんてしたら最高だよね」


「セシル、一人で何言ってるの?」


「え? ルイスが聞いてきたから」


「僕?」


 ルイスはキョトンとした顔で俺を見ている。


 切羽詰まって幻聴が聞こえたようだ。


『はい、これでお兄さんにも魔法が使えるようになったよ』


 まただ。なんて都合の良い幻聴なんだ。これが現実なら良かったのに。


『ほら、念じてごらん。服を乾かしたいんでしょ?』


 まぁ、念じるくらいなら良いか。火をイメージしても燃やすものがないからすぐ消えるか……。ここはドライヤーだな。


 すると、どこからともなく熱風が吹いてきた。


「え? これまじなやつ?」


『使えるようになったでしょ? 魔法』


「うん。え、めっちゃ格好良いじゃん。何このスキル! 他に何が使えるの? やっぱ箒に跨って空飛んだり、いや、転移も格好良いな」


「セシルさっきから何言ってるの?」


「え……?」

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