嫉妬
「で、いつまで居座る気? お前がいると楽しい休日が台無しなんだけど」
「ルイス、ヴァレンティンの従兄弟ってことは王族だよ。今更だけど、お前とかその言葉遣いはまずいんじゃ……」
俺の心配をよそにアスランは平然と言った。
「別に構わない。お前らにぺこぺこされる方が逆に腹立つし」
「だそうだよ、セシル。セシルは優しいから僕が言ってあげるからね」
デジャヴかな。ヴァレンティンの時も似たような会話をした気がする。
「お前がセシルじゃなかったのか?」
「さっき変わったの見てなかったの? そんなんだからリュシエンヌを取られちゃうんだよ。しっかり見てなきゃ」
俺とルイスは何一つ変わってはいない。変わったとすれば、シートの上に座ってランチをしていることくらいだ。
「分かった。お前から目を離さない。そして、見分けがつくまで帰らない」
そう言ってアスランが俺の顔を穴が空く程見ている。そして、素直すぎる。さすがヴァレンティンの従兄弟だ。
見つめ返してやりたいところだが、美しすぎる顔は目に毒だ。やっとリゼットに慣れてきたと言うのに、次から次へとこの世界の人間は顔面破壊力がすごい。
ただ見られているのも気まずいので、アスランに聞いてみた。
「アスランはお昼食べないのか?」
「持ってきてないからね」
「え、俺たち夜まで帰らないけど」
「一食くらいどうにかな……んぐっ」
手に持っていたパンをアスランの口に突っ込んだ。アスランはパンを食べ終えると、すぐさま口を開いた。
「何をする。俺は腹など減ってない……んぐ」
次はチーズをアスランの口に放り込んだ。アスランは吐き出しもぜずにモグモグ食べている。案外可愛いな。
次は何を食べさせようか迷っていると、皆の視線が集まっていることに気が付いた。
「あ、これはあの決してアスランが可愛いからやってることではなくて、お腹が空くと可哀想だなと思って……」
ルイスのお怒りを受けるかと必死で言い訳をしていると、ルイスではなくリゼットが言った。
「セシル、この人のこと好きなの? 可愛いの?」
「いや、好きじゃないよ。全然。可愛くもないよ、こんなの……」
言い訳の途中でアスランがやや苦しそうに言った。
「セ、セシル、水ちょうだい」
「はい。どうぞ……」
「ありがとう。次は肉食べたい」
「はい、あーん……じゃなくて、リゼット違うから。別に好きとかじゃないからね」
「良いよ、もう。セシルの好きにすれば」
プイッとそっぽを向くリゼットの姿が可愛すぎ……ではなく、俺はリゼットを怒らせてしまったようだ。ルイスは……見なくても分かる。
一日は始まったばかりなのに、この調子で夜まで持つのだろうか。
◇◇◇◇
俺はアスランに頭を下げている。
「やっぱり帰ってくれないかな?」
「嫌だ。見分けがつくまで帰らない」
「このままだと、せっかく修復できた友情にまた亀裂が入りそうなんだ。頼む」
そう、リゼットはまだ怒っている。
昼食を済ませてから近くの小川に行ったのだが、リゼットはルイスとは話すのに俺が話しかけてもそっぽを向いて言うのだ。
『私の相手より、そちらの可愛いお友達の相手をしたら? ルイスあっち行こ』
『リゼット、ごめんって。俺の友達はリゼットしかいないの知ってるだろ?』
『リゼットだけじゃないぞ。僕もいるだろ』
『ヴァレンティンは出てこなくて良いから、アスランの相手しててよ』
来るなと言われながらも俺はルイスとリゼットの後ろを付いて歩き、ルイスも困惑した顔で俺とリゼットを交互に見るばかり。
ちなみに、ルイスの怒りは収まっている。十六年も一緒にいるのだ。そして、ヤンデレの機嫌の取り方は大体分かっている。ひたすらに俺はルイスのモノだと訴えかければ良い。
しかし、リゼットに同じことをするわけにはいかない。リゼットはヤンデレでも無ければ、俺はリゼットのモノでもないから。
それに、そんな発言をしようものならアスランがリュシエンヌに報告して婚約破棄は間違いない。ついでに王女を欺いたと思われてリゼットと共に断罪なんてことも考えられる——。
アスランは不貞腐れたように言った。
「なんで俺が帰らないといけないの? 俺別にあの子に何もしてないんだけど」
「そうなんだけど……」
リゼットは俺をルイスだと偽り、俺をアスランから庇ってくれた。それなのに、敵であるアスランに優しくしてしまった。恩を仇で返してしまったのだ。恐らくリゼットはそれに怒っている。
しかし、そんな事をアスランには説明できない。言い淀んでいると、ヴァレンティンがアスランの肩に手を乗せて言った。
「アスラン、僕と帰ろう。リゼットの為だ」
ヴァレンティンが初めて空気を読んでくれた。それに感動した俺はヴァレンティンの手を取って言った。
「持つべき物は友だな」
「やっと分かってくれたか。では、しっかり仲直りしてから帰れよ。アスラン馬を出せ」
「命令するなよ。セシル、今日は帰るけどリュシエンヌは絶対取り返して見せるから」
そう言い残して、アスランとヴァレンティンは帰って行った。
——この後、この二人を帰さなければ良かったという事態になることも知らずに。




