縛られたい
※ルイス視点です※
VIP席よりワンランク下のS席でリゼットと二人、演劇『嘆きのアーニャ』を観ている。
「これ何度観ても良いね」
「うん、泣けるね。私はもっと皆が幸せになるのが好きだけどね」
やはり、リゼットは縛られるのは好きではないようだ。
——僕は、セシル曰くヤンデレというやつらしい。好きな人に執着して、酷くなれば自分や好きな相手、他者まで傷つけてしまう。それを聞いて納得した。
それでもリゼットが欲しい。断罪されたって欲しいものは欲しい。リゼットを連れて逃げたい。初めはそう思っていた。
しかし、双子の片割れ、セシルがいなくなるのは嫌だ。どっちも手に入れたいが、どっちかしか手に入らないなら僕はセシルを選ぶ。セシルも僕を選んでくれる。
だが、僕とセシルのことを恐れていると思っていたリゼットは僕たちのことを大切だと言ってくれた。一緒にいたいと。
それでもリゼットが恐怖で萎縮していたのは確かだ。僕の愛し方は相手を束縛して苦しめてしまう。だから、リゼットとは良き友人として接するよう自分に言い聞かせてきた。
その反動でセシルを束縛しすぎているのは分かっている。リゼットとは違い、僕の性格を知り尽くしているセシルは僕に萎縮することもなく従順だ。
少しやり過ぎたかなと反省することもあるが、僕の行為で鳴くセシルを見ると堪らなく愛しい。
そして、今隣に座っているリゼットの手を握りたい。セシルにしたように押し倒して歪んだ顔を見たい。めちゃくちゃにしたい。
そんな衝動に駆られているとセシルがやってきた。安堵する反面、残念な気持ちもあった。今のリゼットなら、もしかしたらこんな僕でも受け入れてくれるのではと思ってしまうから。
「ルイス、大丈夫?」
顔が強張っていたようだ。セシルが心配してきた。
「うん。劇に夢中になり過ぎて感情移入してた」
僕は咄嗟に嘘を吐いた。しかしセシルにはお見通しなようで、言葉には出さないが、複雑そうな顔で僕とリゼットを交互に見た。
誤魔化すようにセシルにハンカチを手渡した。
「これから良いところだからさ、これも使って。セシルすっごい泣くんだから一枚じゃ足りないでしょ」
「うん、ありがとう」
そのやり取りを見ていたリゼットが不思議そうに言った。
「セシルって、そんなに涙脆かったっけ?」
「最近よく泣くんだよ。ね、セシル。大人になったんだろうね」
セシルは嘘を吐くのが苦手なので、代わりに誤魔化しておく。
「リュシエンヌが心配してるかもしれないから、そろそろ行くね」
そう言って僕はリュシエンヌの元へ向かった。
◇◇◇◇
「遅くなってごめんね。少し混んでてさ」
「いえ、大丈夫ですわ」
リュシエンヌは劇に夢中だったようで、瞳には涙が溜まっていた。その瞳がじっと僕を捉えている。
「あれ? セシル様?」
もしかして、早速入れ替わったのがバレたのだろうか。薄暗いから顔もはっきりは見えないはずなのだが。
平常を装って聞いた。
「なに? リュシエンヌ」
「いえ、なんでもありませんわ」
「そう。これから良いところだよ」
やはりリゼット以外に僕とセシルを見分けられる人なんていない。リゼットは僕の中で特別だ。どうしてもリゼットが欲しい。
そんな事を考えながら演劇を観ていた。
しばらくすると、リュシエンヌの手が僕の手に触れた。一瞬躊躇ったが、僕はその手を握った。
セシルには申し訳ないが、今後セシルとリュシエンヌの仲が拗れては困る。セシルの振りを完璧にこなさなければ。
セシルの振りと言っても、一人称を僕から俺に変えるくらいなのだが。
そんなことを考えていると、恥ずかしそうにリュシエンヌが言った。
「わ、わたくし、この手に縛られたいですわ」
「ッ——!?」
これはヴァレンティンがリゼットに言ったセリフ。そして、僕がリュシエンヌに教えた言葉。
——先日リュシエンヌがセシルに会いに家に来た時に、去り際に伝えたのだ。
『セシルの手を握ったまま、この手に縛られたいって言ったら喜ぶよ』
半分冗談だった。
あの時は僕の振りをせずに素の自分で接するという話になったので、セシルはとても緊張していた。なので、ヴァレンティンのことでも思い出して笑ってくれるかなと。
リュシエンヌがそのセリフを今言うと言うことは、あの時は羞恥のあまり言えなかったのだろう。
まさか、僕が教えた事を僕自身が聞く羽目になるとは思わなかった。
「ご、ごめんなさい。気持ち悪いですわよね」
「そんなことないよ、リュシエンヌ。俺がリュシエンヌを縛って良いの?」
「はい。わたくしはアーニャに愛されている男性のように心から愛されたいのです。駄目ですか?」
そう言ってリュシエンヌは僕の瞳をじっと見つめた。
胸が高鳴った。リゼットの時とはまた違った胸の高鳴り。この気持ちはなんだろうか。
「俺が縛ったらどこにも逃げられないよ。それでも良いの?」
「はい……」
「リュシエンヌ、俺なしではいられないくらい愛してあげるね」
僕はリュシエンヌをそっと抱き寄せた。




