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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第四章 新たな恋の予感

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デート

 本日はリュシエンヌと演劇鑑賞の日。


 デート用に新調した服に身を包み、髪もばっちり整えて準備は万全だ。


 そして、俺の横にはリュシエンヌ……ではなく、全く同じ服に同じ髪型、同じ顔のルイスと水色のドレスに身を包んだ可憐なリゼットが立っている。


「どうして、リゼットも付いて来てるの?」


「良いじゃん。僕だってリゼットとデートしたいもん。ねー、リゼット?」


「うん。私も劇みたい」


 リゼットは恐怖で縛りつけていないからか、以前のように萎縮する姿は見られなくなった。ルイスとは兄妹のように仲が良い。


 俺は変わらずリゼットの顔面破壊力に慣れず、リゼットも俺の婚約者リュシエンヌに遠慮して、俺とリゼットの間には少しだけ距離がある。ほんの少しだけ。


「例の件、リゼットにも話してあるからさ、大丈夫だよ」


「うん。リュシエンヌ様を騙すみたいでちょっと嫌だけど……」


 リゼットは困惑した顔で俺を見たので、すかさず謝った。


「ごめんね。こんなことに巻き込んで」


 実は本日、演劇の途中で俺とルイスが入れ替わることになっている。


 ——父が俺とリュシエンヌの関係が良好なのを知って、家族団欒食事の最中に冗談混じりに提案してきたのだ。


『リュシエンヌ様もあれだけセシルにぞっこんなんだ。リゼットのようにお前達双子を見分けられるんじゃないか?』


『それはどうかなぁ。難しいんじゃない?』


 ルイスはのんびりとした口調でそう返すと、父が言った。


『やってみないと分からないじゃないか。今度デートするんだろ? その時に入れ替わってみたら良い』


『そうね、見分ける事が出来たらそれはもう真実の愛よ』


 母も、うっとりとした顔でそう言った。


『じゃあ、父さんと母さんは僕たちに愛はないってことで良いんだね』


『うっ。愛はあるぞ。しっかりと』


『そ、そうよ。どっちも大好きよ』


 両親共に俺とルイスを未だ見分けることができない。十六年見分けがつかないので、今後も見分けることなど皆無だろう。


 それを棚に上げて、数ヶ月しか一緒にいないリュシエンヌに俺とルイスを見分けろとは無茶がすぎる。


『まぁ、面白そうだから一回くらいいっか』


『ルイスまで……。前あれ程代わってって言っても代わってくれなかったのに』


『今回はさ、何かあったら父さんと母さんのせいだから。ね』


 ルイスは両親ににっこり笑いかけた——。


 と言うわけで、劇の途中でトイレと称して俺とルイスが入れ替わる魂胆だ。


 それまではリュシエンヌにバレないように後ろから付いてくるらしいが……。


「そんなキラキラオーラ全開で尾行したらバレるんじゃないか?」


「しょうがないじゃん。僕たち三人美しすぎるんだから。隠しようがないよ。ねー、リゼット」


「セシルとルイスは格好良いけど、私はそうでもないよ。可愛いって言ってくれるのセシルとルイスだけだし」


 恥じらう姿が何とも愛らしい。心臓を射抜かれてしまいそうだ。そんなリゼットにルイスは平然と言った。


「他の男は見る目ないよね。こんなに可愛い子がいるのに。ね、セシル」


「う、うん。そうだね」


 見る目がないわけではない。俺とルイスがいるから声がかけられないだけだ。


 そんなことを露程も知らないリゼットは再び恥じらいながらお礼を言った。


「ありがとう」


 可愛すぎる。リュシエンヌとはまた違った可愛さだ。リゼットとリュシエンヌが二人並んで歩けば、それはもう一般の男性達はバッタバッタと倒れていくに違いない。

 

 それは置いておいてリュシエンヌを迎えに行かなければ。


「そろそろ時間だから行くね」


「うん。じゃあねー」


◇◇◇◇


「ご機嫌よう。セシル様」


「ッ——」


「セシル様?」


 リュシエンヌが見ている。何か言わなければ、挨拶しなければ。と思う反面、言葉に詰まる。


 プラチナブロンドの髪はゆるふわに編み込まれ、髪飾りなのか小さな花が散りばめられている。食べたら美味しそうだ……。


 化粧も普段と違って、いつもの凛とした化粧ではなく、おっとりと優しい雰囲気だ。極め付けに俺の色、つまり紺色のドレスに身を包み、ついついパクッと食べたく……とにかく可愛いのだ。


「今日もとっても可愛いね。その可愛い姿を他の男に見せると思うと部屋に戻りたくなってしまったよ」


「まぁ、セシル様。セシル様も格好良すぎますわ」


「ありがとう。行こうか」


 そう言ってリュシエンヌの手を引いて馬車に乗り込んだ。


 可愛すぎるのは目の保養を通り越して目の毒だ。


◇◇◇◇


 今日の席はヴァレンティンの時と同じVIP席。つまり薄暗くてカップルにはもってこいの席。俺にとっても目と心臓に優しい席。


「今日の演目は何?」


 演目についてはリュシエンヌに任せた。劇が好きで、良く観にくるそうだ。リュシエンヌ本人に任せればデートの失敗もない。


 そう思っていたのも束の間、リュシエンヌの口からは思いがけない演目が告げられた。


「嘆きのアーニャですわ」


「え……」


 またか。ヤンデレ要素満載の駆け落ちする話。感動するのは知っている。俺自身号泣したから。


 リュシエンヌに渋々聞いてみた。


「これ好きなの?」


「ええ、アーニャに愛される男性の気持ちになるととても共感できるのですよ」


「はは、そっか。楽しみだね」


「はい。あ、始まりますわ」


 そして、暫く劇を堪能した後、号泣する前にルイスと入れ替わった。

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