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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第四章 新たな恋の予感

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愛しい人

 王城へ面会に行ってから一ヶ月が経った頃。


「今日もリュシエンヌ来るの?」


「うん。そうみたい」


「毎週来てるね。学園でもよく来るし」


 どうやらリュシエンヌは俺に本気で惚れてしまったようだ。正確にはルイスの演技をしている俺に、だが。


「セシルもさすがに見慣れたみたいだね。顔赤くなってないもんね」


「う、うん。そうだね……」


 見慣れたのはあるが赤くならない訳ではない。常にドキドキは止まっていない。


「え、違うの?」


 リュシエンヌがいる時は、ルイスは遠慮してリゼットの元へ行ってしまう。なので、ルイスにはまだ演技のことは言っていない。恥ずかしくて。


「セシル。隠し事はしないって約束だよね」


「うん……」


「この間まで素直だったのに、最近可愛がってあげなかったせいかな? セシル、こっちへおいで」


 ルイスはソファに座ったまま、隣に座るよう言ってきた。


 まずい、セシルのお仕置きが始まってしまう。


 俺が躊躇っていると、ルイスの口調が更に優しくなった。


「セシル、聞こえてるよね? それともリュシエンヌと遊ぶのに夢中で僕なんてどうでも良いのかな? 僕とセシルは一心同体、唯一無二じゃなかったの?」


「ごめん。恥ずかしくて……」


「何が恥ずかしいの? 何もしないから、こっちへおいで」


 嘘だ。行ったら絶対に何かしてくる。けれど、ルイスからは到底逃げられない。


 潔くルイスの隣に腰をおろした。


「良い子だね。じゃあ教えてくれる? 何隠してるの?」


「実は、————」


 ルイスに王城でのこと、その後もリュシエンヌと会う時はルイスの演技を継続していること、ルイスの演技をしている時は赤面せずにすんでいることを素直に全て話した。


 きっと笑われる。腹を抱えて笑われる。


 そう思っていたのに、ルイスはキョトンとした顔で言った。


「良いんじゃない? 上手くやれてるなら」


「笑わないの?」


「うーん、予想外だったけど昔のセシルに戻っただけと言うか……それに、リュシエンヌと会ってる時も僕のこと考えてくれてるってことでしょ? 普通に嬉しいよね」


「ルイス……」


 ルイスの言葉に少し感動していると、悪戯っぽい笑顔でルイスが言った。


「セシル、ちょっとやってみてよ」


「え、やだよ。恥ずかしい」


 即答すれば、ルイスは俺の腕を引っ張った。いつもとは逆に俺がルイスを押し倒す形でルイスの上に跨った。


「な、ルイス何してるの」


「ほら、やってみてよ。僕は何もしないって言ったでしょ」


「や、やらないよ」


 そう言ってルイスから離れようとすれば、悲しそうな顔で言われた。


「いつもセシルばっかり気持ちよくなってずるいよね。僕だって……」


「ルイス……」


 俺はルイスの顔をそっと撫でた。そして、自分と同じ顔が快感で歪む姿を見——たりはせず、いつものようにルイスが俺の上に跨った。


「うん、こっちの方がしっくりくるね」


「え、俺の覚悟は」


「何それ。僕はやっぱ支配されるより、する方が良いかも」


 攻めと受けは逆転しなかった。そして、ルイスのにっこり笑顔が怖……美しすぎる。


◇◇◇◇


 いつものようにルイスに可愛がられた後、タイミング良くリュシエンヌがやってきた。


「やぁ、リュシエンヌ」


「ご機嫌ようセシル様。なんだか顔が赤いようですわ。体調が悪いのでは?」


「いや……」


 否定しようとすれば、ルイスが間に入って言った。


「そうなんだよ。僕が言ってもリュシエンヌに会いたいって聞かなくて」


「まぁ、そんなにわたくしのことを……」


 リュシエンヌは頬をピンク色に染めた。可愛すぎる。


「良かったらベッドに寝かせるの手伝ってくれない?」


「はい。もちろんですわ」


 ルイスとリュシエンヌによって俺の意思に反してベッドに寝かされた。


「あの、俺は体調は万全……」


「ほら、見てリュシエンヌ。まだ言ってるでしょ。こんなに顔が赤いのにね」


「これはルイスが……」


「僕が、なに?」

 

 ルイスに可愛がられた末の顔の火照りだとは到底言えない。黙っている俺にルイスが耳打ちしてきた。


「たまには素の自分でも良いんじゃない? 毎回疲れるでしょ」


「ルイス……」


 これを見越してあんなエロいことを……。


 いやいやいや、騙されてはいけない。あれはルイスに弄ばれただけだ。


 そんなことを考えていると、リュシエンヌが俺の手を取って言った。


「何かわたくしに出来ることはありますか?」


 瞳を潤ませながら、本気で心配しているリュシエンヌ。申し訳なく思いながらも、その顔を直視してしまって俺の顔は更に真っ赤になった。


「うん。そばにいてくれるだけで大丈夫」


 なんとかそれだけリュシエンヌに伝えて一旦目を瞑った。現実逃避する為に。


「じゃあ、僕はあっち行ってるから」


「はい」


「あ、そうだ、リュシエンヌ……」


 何やらルイスがリュシエンヌに耳打ちしているが聞こえない。良からぬことを言っていないと良いが。


 パタン。


 ルイスが出て行ったので、薄っすら目を開くと、リュシエンヌの顔が真っ赤になっている。やはり、ルイスはよからぬことを言ったようだ。


「リュシエンヌ? ルイスに何言われたの?」


「い、いえ。何でもありませんわ」


「そう」


 いつものようにルイスの真似をして『俺だけ仲間はずれにするの? 悲しいな』とか何とか言って聞き出しても良いが、今日は素の自分で誠実に対応しよう。ベッドに寝ている時点で誠実ではないのだが。


 とりあえず何か話題を……。


「リュシエンヌ、いつも家ばかりだから今度は出かけないか?」


「お出かけですか? 是非」


「リュシエンヌは何が好きなの? 女の子だからドレスとか見に行く? それとも」


「わたくし、劇が観に行きたいですわ」


 懐かしい。ヴァレンティンの失態を思い出す。俺もやらかさないように注意しなければ。


「良いね。次の休みは劇を観に行こっか」


「はい」


 嬉しそうに笑うリュシエンヌ。この人が将来俺の奥さんになると思うと、何だか妙に愛おしく感じた。

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