大切な人②
俺の横ではヴァレンティンが横たわっている。
そして、ルイスはリゼットを膝の上に乗せた状態で言った。
「なんだー。そう言うことだったんだ。早く言ってよ」
「言う間も与えず、ヴァレンティンは殴りかかってくるし、ルイスは俺だけ狡いって言ってリゼットを抱きしめだしたんじゃないか」
「ごめん、ごめん。セシルも後でちゃんと抱くから安心して」
「いや、言い方……」
——俺はリゼットから『大切な人』と言われた事で感極まってリゼットを抱きしめた。
しかし、ちょうどルイスとヴァレンティンの喧嘩が終わった後だったようで、俺とリゼットが抱き合っているのを見た二人はそれぞれ興奮していた。
ヴァレンティンは俺が無理矢理リゼットを襲っているように見えたようで、殴りかかってきた。
『何をしている! 僕のリゼットから離れろ! お前にはリュシエンヌと言う婚約者がいるだろう。婚約早々他の女性と……許せん。この女泣かせが!』
威勢は良いが、ヴァレンティンより俺の方が強かったみたいで返り討ちにしてしまった。
そんな俺とヴァレンティンをよそに、ルイスはリゼットに抱きついた。
『どうして僕だけ仲間はずれにしてるの? リゼット、セシルに他には何されたの? 同じことしないと不公平だよね。ねぇ、教えて。その可愛い唇にキスでもされた?』
そう言って、ルイスはリゼットにキスしようとしたので急いで止めに入った——。
そして、事の経緯をルイスと横たわっているヴァレンティンに説明し、何とか分かってもらえた……はず。
「だからルイス、リゼットをおろしてあげて」
リゼットはルイスにお膝抱っこされているのでおろすように言うと、ルイスは渋々頷いた。
「分かったよ。はい」
「は?」
リゼットがルイスの膝の上から俺の膝に移動した。
「僕だけお膝抱っこしたから怒ってるんでしょ? 次はセシルの番」
「いやいやいや、怒ってないし、俺はただリゼットの許可もなく……」
「セシル顔赤くなってないね」
「あ……」
本当だ、と思った矢先、リゼットが俺を見上げた。顔と顔の距離が数センチしかない。みるみる顔が耳まで真っ赤になってしまった。
「あー、駄目だったかぁ。克服したのかと思っちゃった」
「セシル大丈夫? 熱出てきたかな?」
そう言って、リゼットの額が俺の額にくっついた。
ッ——!?
リゼットを膝抱っこしている手前、落とすわけにはいかない。意識を手放しそうになるのを必死で耐えていると、ルイスがリゼットをひょいと抱っこして降ろしてくれた。
「あ、ありがとう……」
「セシルにはまだ早過ぎたね。ごめんごめん」
ルイスが困り顔でそう言うと、ヴァレンティンがムクっと起きて言った。
「次は僕の番だ。ルイス、リゼットを貸せ」
「は? 何言ってんの? そんな穢らわしいところに僕の可愛いリゼットを連れてくわけないでしょ」
「お前さっき、同じことしないと不公平だと言っていたではないか」
「それは僕とセシルが二人で一つ、一心同体だからに決まってるでしょ。リゼットは、あいつに抱っことかギューってされたい?」
ルイスがリゼットにそう問えば、リゼットはにっこり笑顔で返した。
「絶対、いや」
◇◇◇◇
残りの授業を終えると、ヴァレンティンは随分と凹んで帰っていった。反対にルイスは嬉しそうだ。
「じゃあね、リゼット。また明日迎えに来るね」
「ありがとう。また明日」
リゼットも普段より声のトーンが高く、嬉しそうだ。リゼットと別れた後、思ったことをそのままルイスに言った。
「ルイス嬉しそうだね」
「うん。だってリゼットをあんな近くで感じられたんだよ。それに、あいつの顔見た? この世の終わりみたいな顔しちゃってさぁ、最高だよね」
「はは、そうだね……」
リゼットも同様の理由で嬉しそうなのかもしれない。そう思うと、ヴァレンティンが不憫に思えてきた。
「でもセシル、結婚しちゃったらアレが義兄になるんでしょ? 災難だね。婚約やめちゃえば?」
「そう簡単にやめれないよ。それよりさ、ルイスどうするの?」
「うん。どうしたら良いかなぁ……」
ルイスは悪戯っぽい笑顔から一変、儚げな表情に変わった。
リゼットが俺のことを大切だと言ってくれた。それはルイスに対しても同様だ。すなわち、ルイスの初恋は諦める必要はないということになる。
今の俺は、リゼットに対して執着していないし、リュシエンヌとも婚約をしている。ルイスは何も気兼ねする必要なく前に進める。
「俺は応援するよ」
「だけど、リゼットは多分……」
「ルイス?」
「ううん。とりあえず、現状維持。せっかく三人元通りなんだし。むしろ前より仲良いし」
「そうだね」




