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断罪寸前の悪役令息に転生したので、ヒロインの幸せを願うことにします。  作者: 陽七 葵
第一章 断罪回避

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初めての喧嘩

 俺は今、自室で一人リゼット宛に手紙を書いている。


 押し倒したこと含め、今まで縛り付けていたことの謝罪を書いた。後腐れがないように素っ気なく。そして、もうリゼットには関わらないから自由に生きて、と。


 前世の記憶を取り戻した俺はリゼットを自由にすることに決めた。


 今まで必要以上に縛り付けておきながら急に突き放すのも如何なものかと思うが、なんせ時間がない。断罪までは目前だ。それに、王子様の元へ送り届ける為には俺とルイスの存在は邪魔でしかない。


 小説の中でも王子様に心の傷を癒してもらって恋愛に発展するのだ。ゆっくりと解放して、万が一にも王子様との恋愛に支障が出たら困る。


 それにしても今世の十六年間を振り返って俺は思った。


「俺は最低だ。そして、自分自身が怖い……」


 リゼットが俺とルイスから逃げられないそもそもの原因は身分のせいだ。俺の父親は公爵で、その父と懇意にしているリゼットの父親は伯爵。リゼットは家の事を考えて自ら繋がりを断てない。


 それでもリゼットは頑張って自分の意見を言ったこともあった。


『もう少しここへお邪魔する頻度を減らそうと思うの』


『は? リゼット何を言ってるの?』


『ダメに決まってるでしょ。父上に言いつけても良いの? 困るのはリゼットのお父さんだよ』


 成長するにつれ、次第に大人の事情も分かってきたリゼットは益々拒むことが出来なくなっていった。


 次に問題なのは、リゼットの交友関係を全て絶ったこと。リゼットと俺が出会ったのは八歳の頃。それまでに仲良くしていた御令嬢も何人かいたが、裏で手を回して関係を全て絶たせた。


 これでリゼットは心の内に秘めていることを誰にも話せないのはもちろん、俺とルイス以外にリゼットと仲良くしてくれる人はいないと思い込ませた。


 さらには、夜会やパーティーの誘いは全て俺とルイスとでリゼットを挟み、周囲の人を牽制して回った。『俺たちのリゼット』に手を出すな、と。


 言わずもがな、リゼットはヒロインなだけあって見目麗しい。金髪碧眼で、その瞳はこぼれ落ちんばかりに大きい。ニコリと一度微笑めば周囲の男性を次々と魅了していく。


「思い出しただけで顔がニヤけてしまう。って、いやいやいや、俺はリゼットを解放するんだ!」


 そんな俺もリゼットに負けないくらい超絶イケメンだ。転生して良かったのはこの顔くらいだろう。


 しかもこの顔がもう一人いるのだ。三人並べば非常に絵になる。俺とルイスは外では猫を被っているので、仲睦まじい三人に見えていることだろう。そのキラキラオーラに誰も声をかけられないでいる。


「でも、裏でリゼットに『男に色目を使うな』だの、『その美しい瞳に俺たち以外映すな』だの無茶言いすぎだろ、俺」


 そして去年学園に入学してからも同じように授業以外は俺とルイスでリゼットを挟んでいる。そんな包囲している中で、どうやってヴァレンティンがリゼットと仲良くなったのかって?


 それは、クラスの席。たまたまヴァレンティンの後ろがリゼットだった。ヴァレンティンは王子様なので権力では牽制できない。そして気遣いのできる素晴らしい王子様なのでリゼットの心の傷に気付いたのだろう。


 俺とルイスの前ではひたすらに恐怖の顔しか見せなかったリゼットがヴァレンティンの前で笑ったのだ。それが我慢出来なかった。めちゃくちゃにしてやりたいと思った。


 そして、昨日初めてリゼットを強引に俺たちのモノにしようとした。


 今思い返すと、自身のヤンデレっぷりに呆れを通り越して泣きたくなった。前世の記憶を取り戻した今の俺はヤンデレとは程遠いと思う……多分。


 俺がリゼットを自由にしたとしても、問題なのはルイスだ。俺が前世の記憶を話したところで信じはしないだろう。むしろ信じないと言って更にリゼットを縛りつけそうだ。


 ——昨日も俺がルイスに提案すると怒っていた。


『リゼットを解放してやろう』


『は? 何言ってるの。解放って何? 縛り足りないくらいだよ。セシルはリゼットが嫌いになったの? 僕との約束は? 三人で幸せになるんじゃなかったの?』


『そうできるならしたいけど、このままじゃ幸せは訪れない。当然の報いと言われればそれまでだが、今思い出したのも何か意味があるのかもしれない』


『セシルが何言ってるのか全然分かんないよ! セシルのバカ!』


 そう言ってルイスは部屋に戻っていった——。


 ルイスとは初めての喧嘩だった。仲直りの仕方を知らないルイスだから、後で俺から謝ろう。そして俺が『悪者』になろう。


◇◇◇◇


「ルイス? いる?」


「……」


 ルイスの部屋をそっと覗いて声をかけた。返事はないが確かにそこにいる。


 ちなみに、俺とルイスはそれぞれ部屋を用意されてはいるが普段は寝る時も常に俺の部屋で共に過ごしている。ルイスがここで寝るのは十六年生きているが初めてのことだ。


「ルイス、昨日はごめん」


「……」


「ルイス、俺はもうリゼットいらない」


 俺のその言葉にルイスが布団からガバッと飛び起きて言った。


「昨日からどうしちゃったの!? セシルおかしいよ。リゼットのことあんなにお気に入りだったじゃん」


「飽きたんだよ。あんな女いくらでもいるだろ。王子様にくれてやるよ」


「セシル。本気で言ってるの? いくらセシルでも許さないよ」


 ルイスはそう言って俺の胸ぐらを掴み、まっすぐ睨んできた。そんなルイスの瞳を見つめ返し、俺は言った。


「俺は本気だ。俺はルイスさえいればそれで良い。お前は俺よりリゼットを選ぶのか?」


「セシル……」


「ルイス、俺はお前が一番だ。産まれた時からずっと一緒だろ? 唯一無二なんだ」


 断罪なんてされてルイスを失いたくない。どの道リゼットは手に入らない。それなら手遅れになる前にルイスだけでも助けたい。


「分かったよ、セシル」

 

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