野外デート②
ヴァレンティンがリゼットに振られた。
こうなってしまった以上デートは中止にしよう。そう思った矢先、リゼットが言った。
「私は最後まで残りますから。ヴァレンティン殿下はどうぞ先にお帰り下さい」
「何を言う。僕は帰る気はないぞ」
ヴァレンティンも負けじとそう言い、何故かデートは続行することになった。なので、もう暫くこの何とも言えない状況は続くようだ。
ひとまず俺はヴァレンティンに謝罪することにした。
「ごめん。俺が野外デートにしたばっかりに……」
「いや、良いんだ。むしろリゼットのことが更に好きになった。僕は諦めない!」
ヴァレンティンは落ち込むどころかやる気に満ち溢れていた。
「私は更に嫌いになりましたけどね」
リゼットは逆に冷めていた。
それよりも、リゼットがおかしい。はきはき喋っている。思ったことをそのまま口にしている。そして、堂々としている。
以前のリゼットは、俯いて謝ってばかりだった。自分の思いなど後回しで、俺とルイスの顔色ばかりうかがっていた。
俺の思いを代弁するかのようにルイスがリゼットに言った。
「リゼット変わったね」
「ごめんなさい……」
「なんで謝るの? 今のリゼット良いじゃん。凄く素敵だよ」
「うん。気をつけるね……」
あれ? リゼットが戻った。
ルイスは褒めているのに、何故かリゼットは俯きながらルイスに怒られているかのように謝罪をしている。
ルイスも同じことを思ったようで、ルイスは口に出して言った。
「あれ? いつものリゼットに戻っちゃったね。まぁ、僕はこっちのリゼットも好きだけど」
もしかしたらヴァレンティンに見せていた顔が本来のリゼットなのかもしれない。俺とルイスには恐怖で萎縮している可能性は高い。
そして、俺とルイスがいる手前、プロポーズを受け入れられなかったのではないだろうか。ヤンデレな俺とルイスが何をしでかすか分からないから。
そうだとすれば、俺とルイスはこの二人の恋路を完全に邪魔している。予定通りヴァレンティンが頼りになるという所をリゼットに見せて、星空の下、愛を語り合ってから帰宅してもらおう。
「ひとまず火を起こそう。ヴァレンティンお願いできる?」
「ああ、任せておけ」
そう言って薪をセットするとヴァレンティンは精霊の加護を使った。その瞬間、辺りはキラキラと何かに包まれたような、上手く言い表せないが何とも不思議な、神秘的なものに触れたようなそんな感覚に襲われた。
「初めて見たけど、凄いな」
そのまま感想を言えば、ヴァレンティンが照れていた。そして、それをリゼットが打ち砕いた。
「せっかくの自給自足にそれを使うのは狡いです。自分の力で何かをしようとは思わないのですか?」
「リゼット?」
「あ、セシル、ごめんなさい……」
「いや、謝らなくて良いけど」
やりにくい。声をかけただけで、こんなに萎縮されるとは。でも一応ヴァレンティンの名誉だけは回復させてあげないと。
「リゼット、ヴァレンティンのこの力は正真正銘ヴァレンティンの力だ。持っているものは使ってこそ意味がある。悪用は駄目だけど、俺は存分に使った方が良いと思うよ」
怖がらせないように優しく微笑めば、リゼットは泣きそうな顔で謝った。
「ごめんなさい……」
「いや、責めたわけじゃ……」
ヴァレンティンも複雑そうな顔で間に入って言った。
「セシル、いや、ルイスか? とにかく俺が悪かったんだ。次からは使わないようにするよ」
「もう何でも良いよ。火が消えない内にパパッと焼いちゃおう」
そう言ってルイスは手際良く先程リゼットとヴァレンティンが串に刺してくれた肉やら野菜を網に並べていった。
◇◇◇◇
一通り串焼きを食べてから、後片付けしながら呟いた。
「俺もう帰ろうかな」
「セシル帰るの? じゃあ片付け終わったら解散しよっか」
ルイスも賛同してくれたので、帰る気でいるとリゼットが悲しそうな顔で言ってきた。
「セシル、ごめんね。私のせいだよね。ダメなとこ直すから帰らないで」
「リゼット……」
その態度が俺を帰らせたい原因なのだが、本人には言えない。
食事中も、ヴァレンティンには先程のような強気な姿勢を見せるのに対し、俺とルイスには謝ってばかり。
自分がリゼットをこんな風にしてしまった責任はあるが、正直傷付く。そして、これ以上こんな窮屈そうなリゼットを見たくない。
俺は自分の気持ちを素直にぶつける事にした。
「リゼット、聞いて」
「うん」
「俺はリゼットに自由に生きて欲しい。好きなことして、好きな人と一緒に未来を築いていって欲しい。だから、俺は金輪際リゼットに関わらない」
「嫌、セシル……嫌いにならないで」
「嫌いになんてなってないから」
「だったらどうして? 直すから。何がいけないの?」
俺のシャツを掴んでリゼットが泣きながら訴えかけてくる。そんなリゼットを見たくなくて、そっとその手を離して言った。
「今までごめんね」
「セシルの嘘吐き!」
そう言ってリゼットは逃げるように森とは反対の方へ走って行ってしまった。
それを見ていたルイスは慌てて言った。
「セシル、あっちはまずい!」
「そうだった。あのまま行けば崖が……」
俺とルイスがリゼットの向かった方へ走り出すと、ヴァレンティンもついてきた。
「セシル、僕に任せとけ。こういう時の力だ」
ヴァレンティンがニカッと白い歯を見せて爽やかに笑うと、再び辺り一面がキラキラと輝いた。




