初デート
本日は『ヴァレンティンとリゼットのラブラブ大作戦』第一回目のデート。
「俺とルイスは別に来なくても良かったんじゃない?」
「良いじゃん、面白そうだし。それに、僕もセシルとデートしたいし」
「まぁ、変装してるからバレないとは思うけど」
俺とルイスはいつものように双子コーデではなく、全く別にしてみた。髪色もウィッグを付けて俺は茶色の長髪を後ろで束ね、ルイスは襟足の辺りで綺麗に切り揃えられた黒髪に眼鏡を着用している。
顔のつくりまでは変えられない為、お互いに格好良すぎるが俺とルイスだとは誰も思わないだろう。
ちなみにヴァレンティンには付いてきたことは内緒にしている。恋愛に臆病なヴァレンティンのことだ、俺とルイスがいると分かれば不自然にこちらを見て助けを求めるに違いない。
「ほら、あいつとリゼットも合流したみたいだよ。行こう」
「うん。あのさ、ルイス……」
「ダメ」
「まだ何も言ってないのに」
「セシルが自分で言ったんでしょ。この手は離さないよ」
「はい……」
余談だが、俺は先日ルイスに言ったのだ。『自らルイスに縛られに行く』『不安なら常に手を繋いでルイスが俺を守って』みたいなことを。なのであれからルイスの左手は常に俺の右手に繋がれている。
双子の俺とルイスが手を繋ぐのなんて以前は日常茶飯事だったので、周囲の目も温かいものだった。しかし、今は違う。
全く違う容姿のイケメン同士が手を繋いでいる。周囲の視線が痛い程に突き刺さる。歩く人歩く人、頬を赤らめながらこちらを見ているので、脳内で様々な妄想が繰り広げられていることだろう。
それはさて置き、今はヴァレンティンとリゼットの恋路を見守らなければ。ヴァレンティンはどうでも良いがリゼットには幸せになってもらいたい。
本日のプランは演劇を観て、お茶をして帰る。
一回目のデートはシンプルに。俺なりのデートの鉄則だ。物足りなさを感じさせ、次回のデートの日取りをその場で決める。
こうして徐々に親密度アップだ。
「セシル楽しそうだね」
「人が幸せになるのを見守るのも良いもんだね」
「何それ」
◇◇◇◇
「ルイス、何でVIP席にしちゃったの?」
「え? ダメなの? あそこの方が二人きりで良い感じになりそうじゃん。それにあいつああ見えて王子だし」
「そうなんだけどさ」
ルイスにヴァレンティンとリゼットの席の予約をお願いしたのだが、VIP専用の特別シート、いわゆる薄暗い中二人きりになれるカップルにはもってこいの席だった。
ヴァレンティンは王子だからカップルでなくとも通常はこの席を使用する。間違いではないのだが、相手はリゼットだ。
リゼットは俺とルイス以外の男性に免疫がない。その上、初めてのデートで異性と二人きりなんて、警戒心を抱かずにはいられないはず。
ほら、リゼットの動きがぎこちない。薄暗くて顔までは見えないが。
「まぁ、面白い演目なら良いか……演目なんだっけ?」
「嘆きのアーニャだよ」
「それって……」
初デートで見るものではない。
ある女性が一人の男性に恋をする話。しかし、身分の違いにより女性の初恋は実ることはなかった。それでも男性のことが忘れられず、無理心中する話。
「もっと他に無かったの?」
「え、良いじゃん。アーニャの心情を考えたら共感できる部分が沢山あるんだよ。泣けるよね」
「いや、泣けるけどさ」
ルイスにお願いしたのが間違いだった。ヤンデレはやはりヤンデレ要素満載の物語に共感を持つようだ。
「ほら、セシル始まるよ」
◇◇◇◇
演劇を観終えて、予定していた近くのカフェにて。
「ね、泣けるって言ったでしょ」
「うん、凄く泣けた。悲しすぎる」
俺は恥ずかしながらハンカチ片手に号泣してしまった。劇に夢中でリゼットの様子を見れなかったので、ルイスに聞いてみた。
「ルイス、リゼットはどうだった?」
「暗くてよく分かんなかったけど、イチャイチャはしてなかったかな。終わった時には何故かリゼットとあいつの距離が広がってたよ」
「演劇観ながら距離が広がることなんてあるの?」
「普通ないよね。僕とセシルなんて最終的にゼロ距離だったもんね」
「それもおかしいけどね。まぁ、後は軽くお茶して次の約束まで取り付けられれば成功だな」
ヴァレンティンとリゼットの方をチラリと見れば、リゼットが笑顔で何やら話をしている。俺の席とは距離があるため声は聞こえないが、良い感じなようだ。
初デートにしては何とも言えない演目の劇だったが、デートは成功したのだろう。
でも何故かリゼットの笑顔を見ると胸の辺りがチクリと痛んだ。
ルイスの方へ視線を戻すと、ルイスも複雑そうな顔をしている。この胸の痛みはルイスのものか。やはりルイスはまだリゼットのことを……。
「ルイス」
「なに?」
「はい、あーん」
そう言って俺はルイスの口に生クリームたっぷりの甘いケーキを押し込んだ。




