断罪寸前
「リゼット、何がいけなかったのか分かっているのかい?」
「僕たちは君を想って言っているんだよ」
「申し訳ありません」
リゼットは俺とルイスにひたすら謝っている。泣きそうなのを我慢している姿が愛おしい。
「そんなにあの王子様が良いのか?」
「いえ……」
「リゼット、これ以上は見るに堪えられない」
「きゃっ……」
俺はリゼットをベッドの上に乱暴に押し倒し、震えるリゼットの上に跨った。
そこで俺は気がついた。この状況を俺は知っている。デジャヴと言うやつだろうか。いや、違う。
目の前にいるのは恐怖のあまり声が出ないでいる金髪碧眼の可愛い女の子リゼット。そして、俺の横には俺と同じ顔をした紺色の髪と瞳を持った双子の弟ルイスがいる。
走馬灯のように脳裏に過去の記憶が流れてきた。
『初めまして、リゼット・ミュレルに御座います』
『僕がルイスでこっちがセシル』
『反対ですよね。こっちがセシルでそっちがルイス』
——思い出した。この世界は間違いない。俺が前世で妹からお勧めされて読んだ小説、若しくはそれに酷似した世界。
と言うことは、この状況は非常にまずい。このまま続ければ確実に断罪される。
「リゼット、今度からは気をつけてね」
そう言って俺はリゼットからそっと離れ、ルイスを連れて部屋を出た。
「セシルどうしたの? 急にやめちゃって」
「うん。気が変わった」
ルイスはキョトンとしながら俺を見ているが、あのまま続けていたら俺とルイスの将来はないに等しい。
——前世の妹は泣きながら俺に一冊の本を手渡した。
『この本読んでみてよ。めっちゃ泣ける』
『そんなにか……。まぁ、暇だから読んでみるわ』
そう言って何気なく読んだ小説。そして俺は号泣した。この世界は前世で読んだその小説に非常に酷似している。
双子のセシルとルイスは幼い頃からそれはもう瓜二つで、両親ですら見分けがつかない程だった。アヴリーヌ公爵子息である彼等はその地位と美貌により周囲からは非常に可愛がられた。
いつものように周囲の人間を揶揄い、セシルとルイスは入れ替わって遊んでいた。誰もが騙される中、リゼットだけは違った。必ず二人を見分けることが出来る。
セシルとルイスという二人で一つの存在ではなく、リゼットはそれぞれの存在を認めてくれた。初めてだった。幼い二人はそんなリゼットに次第に執着するようになった。過剰なまでに。
初めは楽しく遊んでいたリゼットも、その異常なまでの執着に恐怖を感じるようになっていった。
十五歳から貴族は皆、学園に通うようになる。その頃にはリゼットは全く笑顔を見せることはなくなった。
学園内でも、セシルとルイスによって他者との接触を悉く絶たれたリゼットはひとりぼっちだった。そんな折、王子様が現れた。
そう、本物のこの国の王子様ヴァレンティン・オラール。ヴァレンティンによってリゼットは徐々に笑顔を取り戻すことになる。
しかし、ヴァレンティンとリゼットが一緒にいること、リゼットが自分たちではなくヴァレンティンに笑顔を見せることに嫉妬したセシルとルイスの執着は更に加速した。
リゼットが逃げないように、他の男の元へ行かないようにセシルとルイスは肉体関係を強要した。
なんとか必死で逃げたリゼットの貞操は守られた。しかし、精神的ダメージは大きかった。そんなリゼットはヴァレンティンに縋った。
ヴァレンティンはリゼットを愛していた。愛する者の涙を見て、セシルとルイスを断罪することに決めた。
断罪されたセシルとルイスは一家没落、国外追放された。
その後、ヴァレンティンとリゼットは晴れてハッピーエンドを迎え、セシルとルイスの消息は断たれた——。
そんなドロドロからの純愛ラブストーリー。そして、俺は断罪される側。悪役令息のセシル・アヴリーヌに転生したようだ。
前世の記憶は大学生で止まっている。いつ死んだのか分からないが、ここで十六年生きた記憶がある。つまり、前世の俺は既に死んだのだろう。
前世の死を嘆きたいところだが、ここでの十六年の記憶の方が濃すぎてそれどころではない。
それよりも、先程リゼットを無理矢理にでも襲っていたら断罪は確実だっただろう。俺自身、過去を振り返っても酷すぎるヤンデレっぷりを発揮している。
破滅フラグは既に立っているが、どうにかルイスと共にそのフラグをへし折ろう。となれば、やる事は一つ。
「ルイス、リゼットを解放してやろう」




