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5.いつつめのもん

一年ほどほったらかしにしていた世界樹の迷宮を遊んでたら一週間が経っていた…。おかげでクリアまでいきました(笑)

んな事してないで続き書けって話なんですけどね。

「チサ。飲んでる?」

「うん。飲んでる」

「その割りには顔赤くないわね」

「残念。顔に出ない質なのよ。それよりユカリは飲み過ぎ」

「あっははは。大丈夫大丈夫。これくらい平気だって。…ぅぃっく」


 私の部屋は今酒臭い。それにキムチ臭い。

 これは全部ユカリのせいだ。大学からの帰りに、彼女は突然鍋(キムチ鍋)をしようと言い出したのだ。大学から近いからという理由で私の部屋がその会場に選ばれ、今に至る。スーパーから材料とお酒を買い込んで、具材を切って後は鍋にポイポイ。後片付けは面倒だけど、店に行くより安いし、時間も気にしなくていい。人数が集まれば個人の単価も安くなるし楽しいし、メリットが大きいのです。

 ちなみにメンバーは私とユカリ、サヨコちゃんの女性陣。坂下先輩とミチユキ君の男性陣。

 みんなはサークルのメンバーで、割りと気心知れた仲なのだ。


「サヨコも飲んでる?」


 ユカリは私のノリが悪いとわかると今度は後輩であるサヨコちゃんに絡み始めた。


「私、未成年なんですけど…」

「んなこと誰が一体守るっていうの。私は中学生から飲んでたわよ」


 うん。偉そうに言えることじゃないね。ほんとにユカリは酒癖が悪い。以前、その辺の居酒屋に入ったことがあったけど、あの時は散々だった。思い出しただけで怖気がする。

 絡み続けるユカリを宥めながらサヨコちゃんは私に助けての視線を送る。けれど私も酔ったユカリは簡単に止めることはできない。

 私は静かに首を横に振った。哀願の視線は痛いけれど、頑張って耐えて、サヨコちゃん。


「立石。そのくらいにしとけよ。白崎が困ってるだろ?」


 助け船を出したのは坂下先輩だった。坂下先輩はこのサークルの代表者。


「じゃあ私の相手してくれます? 坂下先輩」


 ユカリの標的が坂下先輩に変わる。

 相手っていうのはあっちの…。いやいや、お酒回っちゃったかな。思考力が少し鈍っているみたい。

 ユカリが自分の上着に手をかける。


「って! なに脱ぎ始めてるの立石さん!」

「あらら、ミッチーってば初々しい反応ね。もしかしてドーテー?」

「な、なに言って…!」


 ミッチーことミチユキ君は赤面してしまった。まぁ、奥手な感じは見た目通りか。

 さて、そろそろこの酔っぱらいも放っておけなくなってきた。


「私の部屋で破廉恥な行為は禁止です。他所でやってね」


 私はユカリの首根っこを掴むとそのまま玄関へ運んだ。鍋が美味しいこの季節。暖房の行き届かない玄関は、氷の上のように冷たくて寒い。


「あー、やめてチサ! 玄関は! 玄関だけは! ひゃっこいの!」


 問答無用で放り出す。


「少し頭冷やしてね」


 私は語尾にハートマークを付けて言った。うん。きっとかわいい。


「あくまー! ちびたいよー!」


 はぁ。本当に酔っぱらいって面倒くさい。何を仕出かすか分からないから私がちゃんと見張ってないと。別に坂下先輩やミチユキ君を信じない訳じゃないけど、やっぱり男の人が居るとね。気を使っちゃうよ。


「相沢、ご苦労様」

「ほんと、チサ先輩のその小さな体のどこにあんな力があるのか不思議です」

「小さ…」


 サヨコちゃんとしては本当にただの疑問を発しただけなのだろう。その言葉で坂下先輩とミチユキ君が凍りついた。


「そうだねー。サヨコちゃんサークル入ったばっかりだもんね」


 うやむやになっていた新歓の意も込めての鍋だからね。知らなくても仕方ないよねー。

 サヨコちゃんのほっぺたを摘まむ。そしてうにうに動かす。まぁ、柔らかい可愛いほっぺだこと。


「サヨコちゃーん。この世にはねー、言っていいことと悪いことがあるのー」

「ひ、ひはひれす…」

「特にねー、小さい人に小さいなんて言っちゃダメなんだよー?」

「わ、わひゃりみゃしは…」

「うん。分かればよろし」


 サヨコちゃんのほっぺを離す。戒めは別にして、やわらかいほっぺはもう少し触っていたい。けれど、後輩に嫌われちゃイヤだから我慢する。


「でも相沢さんて頼りになるよね」

「そうだな。相沢が結婚したら間違いなくカカア天下だな。というか、横田は誰と結婚しても尻に敷かれそうだ」

「否定できないんですよね、それ…」


 確かにミチユキ君は気が強い方じゃない。意見があっても人の方に合わせちゃうし、人から頼まれたことは断れない。優しいというか情けないというか…。


「はいはーい。ここでチサの弱点発表!」


 酔っぱらいの復活である。しかも全然冷めてない模様。


「チサってばすっごい怖がりなのよ? 怪談話とかするとすごく怖がるんだから」

「へぇ」


 皆が意外そうな顔で私を見る。


「ただね。怖がりのくせに強情でまだ泣いてるところを見たこと無いのよね」

「そうか。じゃあ、次回は怪談大会でもやろうか」


 坂下先輩が提案する。


「あ、面白そうですね」

「私チサ先輩が泣いてるとこ見てみたいです」

「よし! じゃあ次回は【泣かぬなら泣かせてやろう相沢を! 恐怖! 季節外れの怪談SP!】だ!」

「おー!」


 なんですかその仰々しいタイトルは。恥ずかしくないですか。なにが悲しくて怪談大会なんてしなくちゃならないの。みんな乗り気だよ。それもこれも全部…。


「うふふ、ユカリ。もっと寒いところ行こうか」

「いやー! 外は、外だけは! 凍えちゃうのー!」






 ***






「う、うー…ん」


 いつの間にか寝てしまったようだ。飲み過ぎたのか頭が重い。

 周囲は暗い。何時かな。時計を探してみる。見当たらない。

 とりあえず部屋の電気をつける。パッと明るくなったので私は眩しくて目を細めた。

 その薄目で壁にかけてある時計に目をやる。時計は短い方が9、長い方が12を指している。


「…」


 9時だ。

 暗さからして夜かな。

 でも、私たちが鍋パーティーを始めたのが午後7時くらいだったから、それもおかしい。

 最後の可能性としては次の日の午後9時だけど…。それは寝過ぎだろ私。

 状況を確認するため周囲を見回す。

 私以外には誰も居ない。炬燵の上にあった鍋も片付いている。

 うわぁ、第三の可能性が濃厚になってきたよ。

 ため息が漏れる。

 仕方ないか。後で皆にお礼の連絡を入れておこう。

 それにしても、次の日だと分かるとなんだかお腹がすいてきちゃったな。何か買いに出よう。

 簡単に身支度をして玄関を出る。


「あれ?」


 部屋の中は真っ暗だったけど、外は昼間のように明るかった。


「そっか。またあそこか」


 状況を飲み込み一人納得する。

 たまにあるのだ。ここに来てしまうことが。

 空を見上げた。桃色の空が揺らめきながら流れていく。恐らく現実の私は酔いが回って寝てしまっているのだろう。

 でもどうしてまた来たんだろう。今までの私の経験からの憶測だけど、ここに来るときは大抵理由がある。

 それが何なのか、考えるのがまた面倒くさい。考えるのが嫌ならここを出ればいい。でも、現実での経過時間は大したものじゃないし、息抜きとして過ごすのなら悪くない。

 そろそろ出ようかな。今回はあんまり長居したい気分じゃないし。

 玄関を出る。

 目の前は塀だ。この塀に沿って歩けばすぐに門へとたどり着く。そこを通ればここから出られる。

 だけど、今回は少し違った。

 いつも出ている門の隣に4つほど別の門があった。つまり全部で5つの門がある。


「なにこれ?」


 一番手前にあるのがいつもの門。

 そのひとつ奥に砂でできたような門。触ると砂がさらさらと落ちた。扉は付いていない。

 その隣には木製の門。いや、木製というか木そのまんま。素材を活かしまくった門だ。青々とした葉が見事。

 その木の門の隣には、黒い鉄製のしっかりとした門。どっかの豪邸の門をコンパクトにした感じだ。

 さらにその隣には、蔦が絡み付いた門。その蔦の隙間からいくつか小さな花が咲いている。

 門が5つ。こんなことははじめてだ。門がどこかに続いているのは知っている。

 いつもの門をくぐれば、いつものように戻ることができるだろう。けれど、この見たことのない4つの門は私の好奇心を擽るには十分だった。

 じゃあ、まずこの砂の門から行きましょう。さして迷うことなく決める。さてはて、どうなることやら。

 ワクワクしながら門をくぐった私は、すぐに後悔することになった。


「あ、あつい…」


 燦々と照りつける太陽。どこまでも広がる青い空。キラキラと輝く青い海。

 少し揺らめく視界は陽炎のせいだろうか。


「暑すぎる!」


 さっきまで寒い場所に居た私は当然厚着している。はっきり言って季節は真逆。当然こんな服を纏っていることなんてできない。


「もしかしてチサ?」


 耳慣れた声がした。

本日の問題児、ユカリの登場。なぜかビキニの水着姿。相変わらずスタイルはいいようで。


「なんでチサがいるのよ」

「それはこっちの台詞。てか暑すぎだよ!」

「ここは私のテリトリーだからね。私が居て当然じゃない」

「えぇっ?」

「それよりチサ。あんたその格好ふざけてるの?」

「ふざけてなんかないよ。さっきまで寒かったし」


 私の説明などどこ吹く風。ユカリは私の姿をジロジロ眺めていた。


「夏! 海! ねっ!?」

「わ、分かんないし」


 ねっ!?って何。ねっ!?って。


「分かっちゃいないわね。夏、海、と来れば水着よ!」

「は、はぁ…」

「というわけで、ホレ」


 ユカリがパチンと指を鳴らした。すると、なんだか体が軽くなる。なんというか、スッとしたような。

 ゆっくりと自分を見下ろした。


「ぎゃあっ!?」


 両肩を抱えて屈む。

 さっきまでの厚着がなくなって水着になっている。しかもなぜかビキニ。

 ビキニは嫌いだ。ビキニだけは絶対に着たくなかった。何が悲しくてこの幼児体型を他人に見せつけなくてはならないのだ!


「は、早く戻して!」

「んー、ちょっとさっきの仕返しをねぇ。私の自由にチサをいろいちゃちゃこにできる滅多に無いチャンスですもの」


 くっ、戻ったら覚えてなさい!

 敵意の視線を向けるがユカリはまるで意に介さずといった具合だ。

 その後、何度か水着を変えられ、最終的に落ち着いたのが…


「うん。チサの体型にはやっぱりこれよね!」

「………」


 プールの授業の時に着る、紺色のあの水着。ご丁寧に胸元の白い布には相沢と私の苗字が書いてある。小学生が乱入しているとか、泳ぐの速そうだねとか、私のトラウマしか詰まってない最悪の水着だ。人はそれをスクール水着と呼ぶ。


「じゃあチサ、ちょっと泳がない?」

「やだ」


 私はプイと顔を背けた。


「あれ? なんでそんな不機嫌なの?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ!」


 私が言うとユカリは本当にその仕草をした。しばらくして何かに気が付いたのか、ポンと手を叩く。


「大丈夫大丈夫! チサのおっぱもすぐ大きくなぶっ…!」


 なぜか都合よく転がっていたスイカ型ビーチボールを、ユカリの顔面に思いっきり投げつけた。


「違う」

「ナイスツッコミ…」

「あんたとは高校からの付き合いだからね」

「私たちコンビでやったら可能性あるんじゃない?」

「ないない」

「キビシー! じゃあ泳ごう! 気分スッキリするよ?」


 ユカリは海を指差す。

 海、空、夏。

 ユカリの開放的な性格がよく現れていると思う。小さいことに悩まないで前向きで。悪く言えば大雑把ってことだけど。それがまるで短所のように見えない。

 ただ、性にも開放的過ぎるのは少し問題かも。


「私そろそろ戻るよ」


 他の門にも入ってみたいし。


「じゃあ私も行くわ」

「なんで?!」

「チサのところに行ってみたいのよ」

「却下」

「いいじゃない、せっかく行き来できるんだし」


 ユカリは強引についてきた。

 砂の門をくぐる。

 もとの場所に戻ってきた。相変わらず寒い。


「さむっ!!」

「水着だもん!!」


 ビキニのようにお腹が出てないから私の方が幾分ましだけど、五十歩百歩か。


「チサ! あんた冷えきってるよ!」

「悪かったわね」

「我慢できない! 私行くわね!」

「あ、ちょっと待って!」


 ユカリは黒い鉄製の門へと走る。私の制止も聞かず中に入ってしまった。

 ユカリの後を追い門をくぐる。

 するとそこはとても綺麗な部屋に繋がっていた。ふかふかの絨毯に、キラキラ輝くシャンデリア。その他にも一般家庭には無さそうなものばかり。

 先に入ったユカリはポカンと口を開けていた。

 どうしたの?と問いかけようとしたとき…


「立石の次は相沢か。今日は客が多いな」


 声のした先に目をやると、そこには坂下先輩が立っていた。


「先輩、なんですかその格好」


 真っ白な白衣を纏っていて、その姿は研究者のようで、また医師のようにも見える。


「水着姿の君たちに言われたくないな」

「うっ…」


 まったくその通りです。


「まぁ、俺の格好は見ての通り医者だよ。親父が病院の院長をやってるからな。その影響だと思う」

「ええ?! そうだったんですか?!」

「で、でも先輩は経済学部ですよね。うちの大学には医学部もあるのに」


 先輩は苦笑いを浮かべた。


「俺は血が苦手なんだよ。向いてないんだよ。それに俺末っ子だし、結構自由なんだ。医学部卒の兄貴も居るから、病院の方は大丈夫だよ」

「血が苦手なんてかわいいところあるんですね。あんまり表情が変わらない鉄人の坂下先輩も人間っぽいところあるんですね」

「立石。だからお前は相沢にさんざん仕置きされるんだ。それともマゾヒストなのか?」

「し、失礼ですね! 私はどっちもいけます!」

「あ…、そう…」


 さて、あの門のうち2つがユカリと坂下先輩に繋がっていた。数と状況から考えれば、残りはサヨコちゃんとミチユキ君に繋がっているはずだ。


「チサもう行くの?」

「うん。別の門にも入ってみようと思って。たぶん残りはミチユキ君かサヨコちゃんに繋がってるはずだから」

「それは面白そうだ。俺もいこう」


 なんかどんどん増えてくなぁ。RPGじゃないんだけど。

 さっきの門をくぐりまた戻る。


「さむっ!!」

「水着だからだよ!!」

「服を着ろよ!!」


 坂下先輩の冷静なツッコミが入ったところで、次はどれにしよう。


「木! 木で決まりだわ! なんかぬくそうだし!」


 またユカリが勝手に決める。いいけどさ。悩む時間って楽しいじゃない? それを奪われた気分。


「早く行こう!」

「あ、待って」

「何チサ早くしてよぉー」


 いつまでもこんな格好してる必要はないんだ。えっと、あったかい格好。

 体が少し重たくなる。でも腕も足も暖かくなった。


「ふふん」

「あ、ズルい!!」

「だから立石も服を…」

「寒い! 先行くよ!」

「って、人の話を聞け!」


 まったく賑やかなパーティですこと。

 二人を追い、木の門をくぐる。

 ここで厚着したのをまた後悔することになるとは…。


「ここは…?」

「ジャングルだな」

「蒸すわぁ」


 じっとりとした汗で服が張り付いて気持ち悪い。

 見渡す限り草、木、土。頭の上の方では鳥の鳴き声が聞こえるし、そこらじゅうを昆虫が闊歩している。


「ジャングルって初めて来たわ」

「普通の観光ではあんまり行かないよね」

「俺はドイツに行きたいな」

「僕は断然ジャングルだね」


 ……ん?

 後ろを振り返る。

 門がある以外におかしな所がないジャングルが広がっていた。

 やっぱり気のせいだったのかと、前に向き直ると。


「どうもー」

「きゃっ!?」「うわっ!?」

「そ、そんなに驚かないでくださいよ。僕です」


 ミチユキ君だった。

 そして彼の後ろにもう一人。


「あー、先輩方いらっしゃいませー」


 サヨコちゃんだ。


「サヨコちゃんどうしてここに?」

「なんか変わった門があったから入ってみたらここに。そしたらミチユキの所に」

「呼び捨て?」

「あっ!」


 確かミチユキ君は私たちと同学年。サヨコちゃんは私たちの一つ下。だからミチユキ君の後輩になるはずなんだけど。


「あはは、隠すつもりはなかったんだけど、僕とサヨコは付き合ってるんです」


 え、なに、その突然のカミングアウト。


「薄々は勘づいていたがな」

「ぜんぜん証拠無かったものね」

「え? そーなの?」

「チサ鈍い」

「う…」


 言い返せない。

 というかミチユキ君表とは別人だなぁ。明るいし、どもらないし。


「ミチユキっていろんな人と繋がってるんだね。私の門、ミチユキとしか繋がってないし…」

「え?」


 サヨコちゃんはミチユキ君としか繋がりが無い?

 待って。それじゃああれは…。最後のひとつの門は、どこに繋がってるの?


「私、先に戻るね!」

「あっ、どうしたのチサ!?」


 ユカリの質問を無視して私は門をくぐった。

 相変わらず寒い場所。私の場所。並ぶ門。5つの門。5つ目の門。

 ここは…。

 確か…。


『寒い場所じゃな』


 突然聞こえた声。年寄り臭い口調の声。初めて聞く声だけど、懐かしさを感じるのはなぜだろう。

 声のした方を見つめる。

 部屋の玄関に羽の生えたどら猫が一匹寝そべっていた。いや、話では確か羽から猫が生えているんだっけ。

 そいつは頭だけを上げてこちらを見ている。


「…あなた、【はねこ】さんだよね?」

『ほぉ。儂を知っておるのか』

「あなたの話、あの子からよく聞いてたから」

『儂の話を? 誰にじゃ?』


 私は俯いた。


「…思い出せない。大切な人だったはずなんだけど」

『その門をくぐればよいのではないか?』


 猫は蔦の絡み付いた門を見た。

 けれど、それを知るのがなんだか怖い。この向こうに何があるか想像したら恐怖を感じる。


『門があるということは、向こうも主の来訪を認めておるということじゃろう。行くかどうかは主の勝手じゃ』

「でも、ここは…」


 蔦の門に触れる。

 しっとりと、がっしりとした蔦だ。隙間から小さな花を咲かせているが、これは…。


「…?」


 花は蔦の花ではないようだ。蔦を掻き分けてその正体を探る。蔦が何に巻き付いているのかはすぐわかった。


「水玉…?」


 蔦の下には水玉模様の柱があった。そこから花はのびていた。恐らくはこれが門の本体なのだろう。

 水玉は確かあの子の好きな模様だった。


『水玉じゃと?』


 猫が寄ってくる。

 下の柱を見て猫は眉を潜めた。


『これは…』


 猫は羽を使い浮き上がると、私の顔の高さの辺りでピタリと止まった。


『主は台風が怖いと言う娘に会ったことはないか?』

「台風が?」

『父親を亡くしておったはずじゃ』


 台風。台風…。

 泣いているあの子が浮かぶ。


「…ミナ…ちゃん」


 そうだ。ミナちゃんだ。

 幼稚園を卒園してすぐに引っ越して行ってしまったミナちゃん。連絡先も分からなかったから結局それっきりになったんだ。

 ちょっと意地っ張りで、だけど優しくて、台風のあの夜泣いていたミナちゃん。私の最初のお友だちだった。


『知っておるのだな』


 私は頷いた。

 それを見て猫は一息ついた。


『ようやく見つけた…。儂はあの者ともう一度話さねばならぬのだ』

「どういうこと?」

『個人的な約束というものじゃよ。あの娘がどう思っておるかはわからぬがな』

「行くの?」

『決まっておる』


 猫が門へ足を踏み出す。しかし、なぜか猫は途中で足を止めてしまった。

 一瞬何があったのか分からなかった。門を確認しようと思ったが、いつの間にか門があった場所は壁になっていた。


『遅かったか…』

「何で門が消えたの?」

『単にこちらを離れただけの事。いずれまた繋がるはずじゃが…。いつになるかわからぬ』

「……そう」

『のぅ…』


 猫が私を見上げた。


『しばらくここを間借りしても構わぬか? 別に悪いことはせぬ』

「別にいいよ。ミナちゃんの話ではあなたはいい人(?)だったもの」

『ありがたい。じゃが、ひとつ願いを聞いてくれぬか?』

「なに?」

『もう少し暖かくしてほしいのじゃ』


やっぱり一話一話が長いかなぁ、と思ってみたり。途中からぐちゃぐちゃになってるし。でも、今さら感があるから改善は次回。

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