3.そうおんむおん
『うるさい! なんじゃここは!! とんでもない場所に来てしまったようじゃ!!』
誰? このジジ臭いしゃべり方するのは。
『ここは主の場所か?!』
何言ってるの?
『いいから少し音量を下げてくれぬか?!』
音量?
『こっちに来ればわかる!! 早く来て音量を下げてくれ!!』
来い?
「来いってどこに…」
『来たな?! よし、早く音を小さくするのじゃ!!』
「へ?」
目の前に大きなスピーカーがあった。そこからズンドンズンドンとてつもない音が出ている。
「わっ! うるさっ!」
音量と思われるつまみをひねる。
スピーカーから出る音が小さくなった。最小まで音量を下げたつもりだったが、わずかに音が漏れている。
『ふぅ、まったくとんでもない場所に来てしまったようじゃ』
「………猫?」
『猫ではない! 確かに羽から猫が生えておるが断じて猫ではない!』
「喋ってる! なにこれすごい! 羽生えてるし珍獣!? もしかして地球外生命体とか?!」
『違う。そんな奇っ怪な生き物ではない』
「動物夢想天外とかに応募しようか。あ、でもあの番組もう終わってるんだ。えっと、じゃあ今なら天才木村どうぶつえんとかかな」
『部屋の通りやかましい奴じゃの』
「いや、むしろUMAとして連絡した方が面白いかも」
『主は人の話を聞かんな』
「聞いてるよ。でもあなた人じゃないでしょ?」
『揚げ足をとるでない。主と居るとどうも疲れる…』
「ところでさ、ココどこ?」
どこかの部屋みたいだけど。知らないな。私の部屋くらいの広さだけど、部屋の三分の一くらいをスピーカーが占めている。あと小さなテーブルと座布団と、ぬいぐるみが少々。可愛らしい壁紙はいかにも女の子っぽいが、少々低年齢向けかな。小さな窓にはカーテンがかかっている。
『ここは主の場…』
「変な場所だね。スピーカーでかいし。誰が住んでんだろ」
『じゃから主が…』
「私? 私の部屋はちゃんとあるよ。こんなでっかいスピーカーはないけど」
『人の話は最後まで聞くものじゃ』
「あなた人じゃないよね?」
『じゃから揚げ足をとるなと!』
「わかったよ」
『…おや、思ったより素直じゃな』
「私は最初から素直です。なんていうの? 無邪気の恐ろしさ?」
『揚げ足を取るあたり邪気だらけそうじゃが』
「ひどーい。…と、そういえば私帰れないの? あなたがうるさいとか言って私を呼んだみたいだけど。スピーカーの音量を下げるくらい猫の手でも出来るんじゃない。あなた私より頭良さそうだし」
『何度も言いかけたように、ここは主の場所なのじゃ。じゃから異物の儂がここに干渉することはできん』
最後まで台詞を言えたのが嬉しいのか猫はにこりと笑った。
「私の場所? よく分かんないことを言うね。私の知らない私の場所。本当にココは私の場所なの?」
『主は若いからの。今回来るのが初めてなだけじゃよ。歳をとるほどこの場所にはよく訪れることになる』
「ふぅん。じゃあさ、お母さんやお父さんも来るの?」
『各々の場所に行ったことはあるじゃろうな』
「ココには?」
『主が不在の間に来ることはできないはずじゃ。それに主の許可も必要じゃからな』
「なるほど。それはよかった。勝手に部屋に入られて掃除されるのは嫌だからね。好きなだけ散らかせるよ」
『…まぁ、好きにせい』
そうして猫は黙って眠りはじめた。
うーん。私の場所か。よくわかんないけど、とりあえず好きにしていいのかな。
そうね。最初はまず周囲を知ることから始めなきゃ。コンビニとかあるかな。
部屋を見渡すと大きなスピーカーの隣に出入口らしき扉が見つかった。
もちろん出る。
扉の向こうはすぐに外だった。そして小さな庭があってその先に私の身長プラス子供一人くらいの高さの塀。ちょっと越えられそうにはない。
その塀をつたって歩く。
半周くらいするとそこには門があった。部屋の入口とちょうど反対側。裏口というわけでも無さそうだから出鱈目な設計だ。
…あれ、でも私の場所ってことは私が出鱈目ってこと? 自分で言ったけどなんだか心外だ。
まぁいいや。探検しましょ探検。
息勇んで門を出る。するといきなり学校に着いた。
「は?」
あれ? 門から学校なんて見えなかったのに…。
振り向いてみる。あたり前のようにさっきの建物は見えない。
ふぅん。学生の本分は勉強みたいなものだから、家と学校の往復になるってことか。通学には便利だけど、つまんないの。
なんだか不満があったけど仕方ないと言えば仕方ない。学校に通えるだけ幸せなんだから。
でも学校か。誰か居るのかしら。
しんとしたグラウンドを歩く。
えっと、明るさでいったらまだ夕方くらいかな。普通ならまだ運動部が掛け声しながら動き回ってるはずだけど。
あ、でもここは少し違う場所っぽいしそんなことないのかなぁ。
校舎内に入ってみる。
「へぇ…」
実物の学校と全く同じ構造だった。まるっきり私の通っている学校だ。人が居ないことを除けばだけど。
「あ、ポタとモタも居ない」
ポタとモタは下駄箱の近くに置いてある水槽の中にいる二匹の金魚のことだ。
ぽったりとしたボディの奴がポタ。モタモタ動く出目金がモタ。安易だ。でも生徒の間ではそう呼ばれている。
この金魚達の飼い主は教頭先生で本当の名前はキャサリンと太郎らしい。
この名前の差別感はなんだろう。
金魚の居ない水槽でポンプが出す泡を見つめながらそんなことを思う。
「あれ? 山野じゃん。何やってんの?」
「…!?」
思わず身を縮めてしまった。
「お、おいおい。そんなに警戒すんなって。俺だよ、木部だよ」
予想してなかった訳じゃないけどまさか私以外にも人が居るなんて。
「しかし、誰も居ないなんてどうなってんだ?」
彼は同じクラスの木部くん。
人当たりが良くて成績優秀、面白くてかっこ良くて、けれど少しスポーツは苦手。でもそんなところが萌えポイントらしい。
とにかく、クラス、いや、学年、ううん、学校でもかなりの人気者のモテモテ君だ。でもそんなところを鼻にかけないものだから余計にモテちゃうようだ。週一くらいで告白されてるし、ラブレターだって毎日のように届いているとか。だけど誰かと付き合ってるとかいう話は聞いたことない。
「なぁ山野、なんか知らないか?」
私は首を横にふった。
「そうか…」
木部くんは何も知らないようだ。たぶん無意識のうちにココに来たのだろう。あの猫が言っていた通りなら誰でもいつでも来ることができるはずだし。
…ん、でも確かここは私の場所って猫が言ってたような。じゃあこの木部くんは本物じゃないってことになるのかしら。
「?」
あの猫他にも何か言ってたような気がするけど、なんだっけ?
まぁ、忘れるってことは大したことじゃないんでしょ。
「山野、どうやら俺達閉じ込められたみたいだぞ?」
「?」
閉じ込められた?
「学校から出られないんだ」
あ、そういえば何だかんだで帰る方法聞いてなかったな。でも、まぁそのうち帰られるでしょ。別に急ぐ用があるわけでなし。
となると、自室と学校しかないのはずいぶんつまらない。遊ぶ場所はなさそうだし。
でも、今目の前で困ってる木部くんをからかってみるのも悪くない。
「木部くん…」
「ん? どうした山野」
「だ、誰も居ないの?」
「…ああ、校内全部回ったけどネズミの一匹居やしなかった」
「えと…、それって木部くんと二人きりってこと…?」
「えっ?! ん、ああ、まぁ…、そ、そういうことになるな」
じっと木部くんを見つめる。
「だ、大丈夫だよ! 変なことしないから!」
「…へ、変なことって?」
「え?! いや、まぁ、その…」
木部くんは耳を真っ赤にして俯いてしまった。
えっと、この反応なら私は一応木部くんの中では水準以上って受け取ってもいいのかな。
ここで軽くあしらわれたら結構ショックだったかもね。
でも、本物の木部くんだったらこんな反応してくれるだろうか。この木部くんが私の生み出した妄想なら、都合のいいように流れるんだろうな。本物でもこんな反応してくれたら…。
む、違う違う。
「…信じるよ」
「ありがとう。と、とにかく脱出する方法を考えないとな」
脱出する方法か。あの猫に聞けば早いんだろうけど、木部くんはここから出られないみたいだし、私が通ってきた道まで行けないよね。それに部屋に戻ったところであの猫がまだ居るとも限らない。少し真面目に考えた方がいいかもしれない。
「木部くんはどうやってココに来たの?」
「ん、さぁ、どうやったんだろ。気がついたら教室で寝てたんだ。誰も居ないから放課後まで寝てしまったのかと思ったけど、どうやらそんな感じじゃないし。仕方なく外に出ようと思ったら…、ほら」
木部くんは校舎の出入口に向かうと、開いている扉の何もない空間に手をついて見せた。その手は中空で止まり、それ以上先に進まない。
木部くんは見えない壁に阻まれているようだ。私とは少し状況が違うみたい。
「こういうパターンって、ホラー映画とかにありがちだよね。正確にはちょっと違うけど」
「はは、まさか。まだこんなに明る…」
突然周囲が暗くなり、廊下の電灯が灯った。
「は?」
「斬新なパターンだね」
外はどこまで続いているかわからないような暗闇。すっかり日は落ちてしまったようだ。街明かりがない夜はこの世とは思えない雰囲気だ。
でも暗すぎやしないだろうか。どんなに田舎の夜でもこんなに暗くはならないはずだけど。
空らしき場所を見上げる。月は出ていない。星さえ灯っていない。雲が空を覆っているのだろうか。完全な闇夜だった。
「ヤバくないか?」
「やばい?」
「ここまで完璧にシチュエーションを作られたら化物のひとつでも出てきそうだろ」
「化物っていうか幽霊だと思うな」
「ゆ、幽霊?! そんなの居るわけないだろ!」
でも私は今なら信じられるかもしれない。
幽霊なんかとは方向性は違うといえ、私は今現在おかしな経験の真っ最中なのだ。突然知らない部屋に居たり、羽の生えた猫が喋ったり。誰も居ない校舎に、突如沈む太陽。
おかしなことだらけだ。
怖くはないけど、少し気持ち悪い。
「木部くん、怖いの?」
「な、そ、そんなことあるわけないだろ!」
「ふぅん」
「し、信じてないな?」
「そんなことないよ。さっき信じるって言ったもん」
「え? あ、ああ…」
「そんなことより、早くここから脱出する方法を考えなきゃ」
何か手助けになるようなものを見つけなきゃ。とりあえず教室を探すのがいいだろう。
一番近い教室の扉を開けようと取っ手に手をかける。
―ガッ
「開かない…」
まるでコンクリートの壁のようにその扉は開かない。
「さっき俺が調べたときには開いたけど」
私の代わりに木部くんが扉に手をかける。
すると、扉は簡単に開いてしまった。
「開いたぞ? 何か引っ掛かってたんじゃないか?」
「そ、そうかな…」
気を取り直して教室の中を覗く。電気の点いていない教室は真っ暗でひんやりとしている。
「ちょっと気味が悪いね」
「ふーん。なんだ、山野も怖いんだな」
「…も?」
「!!」
墓穴を掘ったか。
「あ、いやー、そ、それにしても山野って意外と喋るんだな」
「…そう?」
露骨に話題を逸らしてきたね。
「だってさ、山野は大人しい子ってイメージがあったし。友達と居てもあんまり喋ってるの見たこと無かったしさ」
「そうだよ。私はあんまり喋らない子だもん」
「あ…、ご、ごめん…」
「いいよ。本当のことだし」
『ほぉ、意外じゃの』
先程ぶりの声。
『あの主が大人しく喋らぬ子か? 儂にはどうも信じられんな』
「な、なんだこの声!?」
「大丈夫だよ木部くん。猫だよ」
「ね、ねこぉ?」
「ほら、あそこ」
廊下の向こうを指差す。
羽の生えたどら猫がこちらへ向かって歩いてきた。
『猫ではないと何度も言ったはずじゃが。やはり聞いておらなんだな』
「そんなことはどうでもいいよ。帰る方法を教えてよ」
『それは構わん。じゃが、交換条件じゃ』
「交換条件?」
『そう。主の話を…』
「ちょっと待ってくれ。俺おいてけぼりなんだけど」
状況が飲み込めない木部くんが言う。
『ほうほう。ここは主の場所か。随分と陰湿な場所じゃな』
「俺の場所?」
「ここ木部くんの場所なの?」
『そうじゃ。主はさっきそこの部屋の扉を開けられなかったじゃろう?』
「そうなんだ」
『………やはり話を聞いていなかったようじゃな。それとも記憶力のない馬鹿か』
「む…」
毒舌猫。
「それで、俺の場所ってどういうこと?」
木部くんが聞くと、猫は私に説明したようなことを話始めた。
「なるほど。だいたい状況は読めたよ」
「読めるもんなの?」
「ここは俺の場所。いうなれば俺の心象世界といったところかな。さっき突然暗くなったのも、幽霊と聞いて陰湿な暗闇を想像したからだ。たぶんね」
『ふむ、そちらの小娘とは違って主はずいぶんと聡明なようじゃな』
「買い被りすぎだよ」
「聡明じゃなくて悪かったわね」
『さて、交換条件じゃったな』
猫は私に向いた。
『あのような模様の部屋を持つ主が、物静かとは信じられんのでな』
「ただの上がり症だよ」
「確かに山野はよく噛んでたよな」
『それだけではなかろう?』
「どうしてそう思うの?」
『勘じゃよ』
やっぱりこの猫は騙せないか。
「…確かにそう、私は上がり症。木部くんさっき言ったこと覚えてる?」
「え?」
「友達と居るときもあんまり喋ってるのを見たことないって」
「あ、ああ。そういえば慣れ親しんだ友達の前で上がるってのはおかしな話だな?」
「…思ったことが口にできない。ん、ちょっと違うかな。よくわからない」
「人が苦手とか?」
「だったら今も話せてないよ。父さんや母さんともまともに話せないのに」
話したいことはいっぱいあるのに。聞きたいこともいっぱいあるのに。どうしても話すことができない。
「待てよ。それじゃあなんで今は平気なんだ?」
「あ…」
そういえばそうだ。今私はちゃんと喋っている。
あれ? でもそれって普通じゃない?
木部くんの解釈を借りるならここは心象世界。つまり私を写し出した場所。口から音として声を出すことはできなくても、頭の中で物事を考えて議論することはできる。今現在話しているのは頭の中の私で、実際の私は一言も音声を発していない。
だから今私がまともに話せているのは別に不思議なことじゃない。
「でもここは心象世界なんでしょ? 頭や心の中では何とでも言えるんじゃないの?」
『じゃが小娘、ここは主の場所ではない。ここはそこの坊主の場所。自分のルールは通用せぬ場所じゃ。他人の場所に入っておる者が自分の場所に居るときのように振る舞えるはずがない。さっき、主がそこの扉を開けられなかったことと同じ理由でな』
「とすると、山野が今喋っているのはおかしいな」
「なんか頭の中ごちゃごちゃしてきた…」
「山野、こっちに来てから何かしたんじゃないか?」
「別にただ歩いてただけだけど」
『ほぅ、なるほど!』
猫は何かひらめいたようだ。笑顔で得意気に私の周りを回る。
「何か分かったの?」
猫に訪ねる。
『簡単じゃよ。儂が主をなぜ呼んだかを考えればな』
私がなぜここに呼ばれたか。確か、突然声が聞こえたんだ。この猫の声。うるさいと私を呼ぶ声。
「まさか、あのスピーカー?」
『それしか考えられん』
「じゃあ、あれはなんなの?」
『おそらくは主の主張じゃろう。話したくても話せないそのフラストレーションがあのスピーカーから大音量で流されておったのじゃ』
「でも、主張の音量を下げたらそれこそ誰にも聞こえなくなっちゃうんじゃ…」
『うるさい場所で話すときはどうする?』
「そりゃ、大きい声で話すよ。でないと聞こえないし」
「そうか。山野、逆なんだ!」
木部くんも何か分かったようだ。
うう、私一番馬鹿確定じゃない。自分のことなのに。
「逆?」
「たぶん山野はそのスピーカーの音量が大きすぎたんだよ。だから山野がいくら大きな声を出しても外に聞こえない。スピーカーの音に声を掻き消されてしまっていたんだ」
『じゃからあのスピーカーの音さえ調節すれば、今の主のように普通に喋れるようになるということじゃ』
「ほんとに?」
『恐らくはな。じゃが、気になることもある』
猫はペタリと床に座った。
『あのスピーカーの音はずぐにもどるかもしれん』
「なんで?」
『主が部屋を出た後、儂はあの部屋でうたた寝をしておったんじゃが…。だんだんと音が大きくなってきたんじゃ。それで逃げ出してきた、ここにな』
「音が戻ったら…」
『このままならば、前と同じ状態に戻るじゃろうな。じゃから、主は音量を調節することを覚えんとな』
「音量ちょ…」
声が詰まった。
『戻ってしまったか…』
***
「木部! 山野!」
誰かにたたき起こされる。
「…教室?」
木部くんが不思議そうな顔でキョロキョロしている。
「木部、お前が成績いいのは知ってるが、内申というものがあってだな…」
先生の言葉を話し半分に聞きながら木部くんはこちらを見た。
「山野もだ」
「……はぃ」
話はまるで聞いていなかったか先生は満足したようだ。
いつの間にか戻ってきたみたい。
寝てたの?
あの猫に呼ばれたときも確かこの授業だったような。ほとんど時間は経ってないってこと?
頭がくらくらする。そんなに寝てないのに…。
授業終了の鐘が鳴る。
生徒たちは疎らに動き出す。帰る者や部活に行く者いろいろだ。
「おーい、マユ帰ろう!」
授業が終わるとやって来たのはミナミ。高校で最初に友達になった子だ。
いつも一緒に帰っている。
私は頷いた。
「そーそー、駅前のケーキ屋さんがね今ケーキ祭り開催中で千円で食べ放題なのよ。ちょっと寄っていかない?」
食べ放題!?
それは見逃せない!
もちろん行く行く!
「あ、ちょっと待ってくれ」
「あれ? 木部くんじゃない。何か用かしら?」
「ああ、ちょっと山野に」
「ダメよ。マユはこれから私とケーキ食べに行くの」
ミナミがぐいと私を掴む。
「頼むよ古藤。すぐ済むから…」
「むぅ、少しだけよ」
「悪いな。山野、ここじゃなんだから屋上へ」
私は頷いた。
話したいことは分かってる。たぶん確認したいんだろう。さっきの夢のことを。
でも夢なのだろうか。あれが私の心象世界だとしたら、なかなか合っているのではないだろうか。
そんなことを考えながら木部くんの後ろを歩く。
階段を上ると屋上に出た。
夕方だ。
でも日が沈むのはまだ先みたい。
誰も居ない。
部活している生徒はここに来ないだろうし、帰宅部もわざわざ学校に残ったりはしないだろう。
「山野、あれは夢か?」
私は首をかしげた。
「…やっぱり喋れない?」
私は頷いた。
「でも…、少し、…まし」
「そうか」
「…じゃあ、…行くよ?」
ケーキ食べたいし。
「待てよ。もうひとつあるんだ」
「?」
少し躊躇うように、木部くんは口を開いた。
「俺は、山野が好きだ。俺と付き合ってくれ!」
「………」
は?
「ずっと好きだったんだ」
「!?」
ちょっと待って。なんでこんな展開になってるの? 全然脈絡ないんだけど?!
えっと、突然すぎて頭がついてかないよ。
「おーい、マユー! 早くしないとケーキ無くなっちゃうよー!」
「………」
「………」
タイミングがいいのか悪いのか。ミナミが呼んでいる。
「…返事はまたでいいからさ」
私は一度だけ頷いてその場を後にした。
屋上に出る階段のところにミナミは居た。
「何話してたの?」
「別に…」
「顔赤いけど、大丈夫?」
「………」
思わず逃げ出してしまった。
「あ、ちょっとマユ! 何があったのー?!」
まとめられなくてちょっと長くなったよ。
オチも付けられなかったよ。
でもいいかぁ。




