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なろうラジオ大賞

君が飲む缶コーヒー

作者: 真鶴 黎

 「コーヒーを買うなんて珍しい。いつもはジュースなのに」


 缶コーヒーを一口飲む彼女の姿は見慣れない。

 僕と彼女はテストに向けて、学校に残って勉強をしているところだ。いつもならもう少し人数がいるのだが、今日は彼女と二人だけ。ちょっと休憩しようよ、という彼女の誘いに乗り、自販機で飲み物を買った。彼女はいつもテスト勉強の際にジュースを買っている。それが、今日は僕と同じブラックの缶コーヒーを買ったものだから驚いた。


「ブラック飲めるんだ」


「飲めるよ!」


 彼女はむっとしながら反論する。

 彼女は甘い物好きだ。問題集の隣にはチョコレート菓子が置かれている。テスト期間でなくとも、彼女が甘い物を美味しそうに食べているところをよく見かける。


「私のことをおちょくってるな?」


 ムキになったのか、彼女は缶コーヒーをあおる。ごくごくと勢いよく飲む彼女に意外と平気なんだと考えを改める。

 つもりだった。僕がぼんやりと見ていると、咳き込む音に意識を引き戻される。


「大丈夫?」


 思い切りむせている彼女の手から缶を取り上げて机に置く。


「にっが……」


 先ほどまでの威勢のよさはどこへ言ったのか、彼女は呼吸を整えた後、絞り出すように言葉を発する。


「本当は苦手なんじゃないの?」


 図星だったのか、彼女は見るからに動揺する。


「……苦手です」


 しばしの沈黙の後、彼女は白状する。


「どうして買ったの?」


 それもブラックを選んだのだろうか。

 僕が尋ねると、彼女は気まずそうに視線を逸らす。


「君がいつも飲んでるから、気になって……」


 彼女の潤んだ瞳と視線が交差する。


「二人きりの今、好きな人と距離を縮めたいと思ってはダメですか?」


 彼女の言葉が頭の中で木霊する。思考を整理したいのに、頭が働かない。

 しばらく僕が何も反応できずにいると、彼女は痺れを切らしたのか、顔を背けて立ち上がる。動き出した彼女に僕の思考が引き戻される。

 彼女が鞄に問題集を仕舞おうとする手を取る。今にも泣き出してしまいそうな彼女の顔が僕に向けられる。


「ダメではないです」


 ちぐはぐな言葉だ。けれど、これ以上の言葉をかけられるほど、僕は冷静ではない。


「だから、時間が許すなら話しませんか? 僕も君のことを知りたい」


 僕の誘いに彼女は照れくさそうに視線を逸らす。


「うん」


 彼女はゆっくりと席に着くと、ふにゃっとした笑顔を浮かべる。


「苦いのどこか行っちゃった」


 幸せそうに笑う彼女につられ、僕も自然と笑みがこぼれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて気恥しくなって口元がもにょもにょしてきました……。 甘酸っぱい……ブラックは苦いけれど
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