むかしむかし
「…僕はね、小さな村のパン屋の家に生まれたんだ。子供の頃は沢山遊んで、大きくなったら父親の跡を継いで、村一番のパン屋になろうと思ってた。
でも、僕の未来は違うものだったよ。僕達の暮らす国が、段々周りの国と仲が悪くなっていったんだ。今考えると、原因なんて無いのかもしれない。ただ、そういう時代だっただけかもしれない。
少しずつ、でも確実に争いが広がっていた。僕の住む小さな村からも、若くて元気な人から兵隊になっていった。…勿論、僕もね。
兵隊になっても、最初の頃は見張り程度で、戦場からも遠い僕らの村を守るだけだった。でも次第に祖国が負けそうになると、そうもいかなくなっていったんだ…。
そうして、知らない土地でも戦うようになった、僕にはとても人を殺す事なんて出来ないと思っていたけど、…でも、そう言ってもいられなかった。
そして、あの夜あの森で敵の兵士達と戦いになった。僕達の部隊は既に皆満身創痍で、満足に戦える状態じゃなかった。弾も食料も尽きて、ボロボロになって。それでも僕は生きたかったんだ。生きて、あの村に戻りたかった。
…でも、それも叶わなかった。他人の時間を奪って生き残った生命は、いつか別の人間に奪われる。ただ、それだけの事なのかもしれないね・・・」