二
陰陽師は嫌いだった。それは、武家の人間ならば誰もが少なからず思っていることだろう。
神の力を借り、か弱い女でも一人で鬼と対する事ができる。反して、どんな死線を越えようと、どれだけの鍛錬を積もうと普通の人間一人では鬼に敵う事は無い。だからこそ、数で押し、幾多の犠牲の上に鬼一体を殺すのだ。
父も兄も京で死んだ――武士の青年はぎりと奥歯を噛みしめ、そして、
「ああぁぁぁあぁああああっっ!!!」
太刀を振り下ろした……けれど、それは鬼の腕を斬ることはなく。
鬼が腕を振るたびに味方が血を流し倒れていく。鬼の爪に少しでも当たれば肉は裂け、腕に触れれば吹き飛ばされ、近づき捕まれば牙で喰われる。
――不公平ではないか。
神が助けてくれぬことは知っている。だからこそ、そう神に罵った。
誰も助けてはくれない。だが、鬼は殺す。そうでなければ、誰を恨めばいいのだ。
「――ぉぉぉぁあああああああっ!!!」
咆吼し、再び太刀を振り下ろした……けれど、
キィン……
軽い音をたて、振り抜かれた鬼の腕に刀は折れる。
「ガァアアアアアアァアッッ!!」
よろよろと後ろに下がる青年に、鬼が雄叫びを上げた。
――誰も助けてはくれぬ、神さえも。
「――ごめんなさい」
最初、その声を聞いたとき、神が謝ったのかと思ってしまった。
だが、女の……しかも、子供のような声だと気付き、亡霊か怪士が出たのかと……とうとう死ぬ時が来たのだと覚悟を決める。
――タンッ
と肩を蹴られ、青年が呆然と空を見つめる中、その者は紅白の装束を靡かせ舞い上がった。
――ィン
小太刀が鳴き、首を斬られた鬼は声を止め、その場に固まった。
そして、血を噴き出しながら、ゆっくりと頭を垂れ、そのまま倒れる。
「…………」
青年もまた声を出すことは出来ず。
ただ、駆けていくその背中を、少女……いや、幼子の姿を見つめた。
紅白の装束は陰陽師のもの……だが、陰陽師にもかかわらず術を使わず刀で鬼を斬り、しかも、一太刀で殺した。
自分がいくら斬ろうとしても斬れなかった鬼を、いとも簡単に一太刀で。
――だから、陰陽師は嫌いなのだ。
「くそったれめ……」
青年は虚しく呻き、折れた刀を下ろした。




