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戦狂のキキ  作者: shio
第五章
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 陰陽師は嫌いだった。それは、武家の人間ならば誰もが少なからず思っていることだろう。

 神の力を借り、か弱い女でも一人で鬼と対する事ができる。反して、どんな死線を越えようと、どれだけの鍛錬を積もうと普通の人間一人では鬼に敵う事は無い。だからこそ、数で押し、幾多の犠牲の上に鬼一体を殺すのだ。

 父も兄も京で死んだ――武士もののふの青年はぎりと奥歯を噛みしめ、そして、


「ああぁぁぁあぁああああっっ!!!」


 太刀を振り下ろした……けれど、それは鬼の腕を斬ることはなく。

 鬼が腕を振るたびに味方が血を流し倒れていく。鬼の爪に少しでも当たれば肉は裂け、腕に触れれば吹き飛ばされ、近づき捕まれば牙で喰われる。


 ――不公平ではないか。


 神が助けてくれぬことは知っている。だからこそ、そう神に罵った。

 誰も助けてはくれない。だが、鬼は殺す。そうでなければ、誰を恨めばいいのだ。


「――ぉぉぉぁあああああああっ!!!」


 咆吼し、再び太刀を振り下ろした……けれど、


 キィン……


 軽い音をたて、振り抜かれた鬼の腕に刀は折れる。


「ガァアアアアアアァアッッ!!」


 よろよろと後ろに下がる青年に、鬼が雄叫びを上げた。


 ――誰も助けてはくれぬ、神さえも。


「――ごめんなさい」


 最初、その声を聞いたとき、神が謝ったのかと思ってしまった。

 だが、女の……しかも、子供のような声だと気付き、亡霊か怪士あやかしが出たのかと……とうとう死ぬ時が来たのだと覚悟を決める。


 ――タンッ


 と肩を蹴られ、青年が呆然と空を見つめる中、その者は紅白の装束を靡かせ舞い上がった。


 ――ィン


 小太刀が鳴き、首を斬られた鬼は声を止め、その場に固まった。

 そして、血を噴き出しながら、ゆっくりと頭を垂れ、そのまま倒れる。


「…………」


 青年もまた声を出すことは出来ず。

 ただ、駆けていくその背中を、少女……いや、幼子の姿を見つめた。

 紅白の装束は陰陽師のもの……だが、陰陽師にもかかわらず術を使わず刀で鬼を斬り、しかも、一太刀で殺した。

 自分がいくら斬ろうとしても斬れなかった鬼を、いとも簡単に一太刀で。


 ――だから、陰陽師は嫌いなのだ。


「くそったれめ……」


 青年は虚しく呻き、折れた刀を下ろした。


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