二十
「はは、許せ。代わりに大事な役目もある」
咲久夜は志伊と伊奈へと顔を向ける。
「志伊、伊奈。お主達二人はまず自身を護れるようになれ。己を護れぬ者に他者を護ることなど出来ぬ。鬼を前にしても生き残れるようになれ」
「はい」
「分かりました、咲久夜様」
それぞれに応える志伊と伊奈に頷き、咲久夜は次に那都と宇加へと視線を向けた。
「那都、そして、宇加。二人に伝えた通りだ、頼めるな」
「はい」
咲久夜の考えが分かり那都と宇加は共に頷いた。
陰陽の術であれば照灯と和可に長があるが、体術であれば那都と宇加のほうが優れている。戦う以前に志伊と伊奈を動けるようにしろということなのだろう――二人の命を護る為に。
(二人を鍛える時はあるはず、京の鬼がすぐに動くことはなかろう。万が一、京が動いたとしても)
和可と宇加を分ける理由もそこにある。どちらかに何かがあったときにすぐに伝達を頼めるように。
「那都、分かっていると思うが、野分が近いかも知れぬ。もしもの時は上手く使え」
「はい、心得ております」
地の利はこちらにある。陣を護るにしても退くにしても、野分は味方になってくれるはずだった。普通の鬼や鬼兵ならば問題ないはずだった。
まずはこれで笠形山は良かろう、そう思い、最後に咲久夜は幼子を見た。
「キキも良いな」
「はい」
キキは変わらず返事を返した。そのことに、咲久夜は苦笑する。
「まったくお前は……旅に出るのだ。もう少し楽しそうにしても良かろうに」
「……申し訳ありません」
「いや、謝ることはない。が、ゆっくり旅を楽しむということも教えねばならぬな。今のような時だからこそ、僅かな時間でも心に楽しみを持たねば」
「ずるいですよ、咲久夜様。私達は留守番させて」
「すまぬな、那都。だが、久しぶりの出雲だ。面倒事は姉上に任せてわしは少しゆっくりさせてくれ」
咲久夜は笑った。
「吉備も危険は少なかろうし、お主らには悪いがゆっくり旅をさせて貰おう」




